ようこそ、ウェス・アンダーソンの世界へ！

「グランド・ブダペスト・ホテル」「犬ヶ島」などのウェス・アンダーソンの長編10作目となる本作の舞台は20世紀フランス。それも架空の街にある架空の雑誌「フレンチ・ディスパッチ」誌の編集部（アメリカのニューヨーカー誌をモデルにしたという）で、アート、ファッション、グルメに至るまで深く切り込んだ記事で人気を集めている。本作に描かれるのは敏腕編集長と各ジャンルの記事を執筆する才能豊かなジャーナリスト達の物語。ジャーナリスト達が筆を振るう物語が大きく３つの章に分かれ、いずれもヌーヴェルヴァーグやフィルムノワールを掛け合わせ、色とりどりのショートストーリー形式で展開される。

一つ目は有名な美術批評家の書いた美術界に対する風刺と絵画にまつわる作品。刑務所に拘留されている天才画家と美しきミューズの関係性や天才画家の描いた絵を狙う画商との対峙を描いている。天才画家をベニチオ・デルトロ、魅惑のミューズに007ボンドガールのレア・セドゥーが。

二つ目の孤高の社会派ライターが描いたものは1968年五月危機をモデルとした学生運動。ティモシー・シャラメとフランシス・マグドーマンという世界的にも名高い二人の意外な組み合わせと想像を超えるストーリー展開には目が離せない。二人の韻を踏むリズミカルな台詞にも注目だ。

三つ目のグルメライターが手がけるはアニメーションが挟まれながら紡がれる美食家の警部の愛息子が誘拐される物語。

なにせ膨大な情報量とトイカメラで撮ったような彩り豊かな世界観には感嘆のため息が溢れる。デザイン性、ポップな色使い、詩的な言葉、あぁ、これぞ総合芸術なんだと。音楽家、画家、文筆家、写真家、おらゆる創作活動をする者たちへのオマージュ作に感じられる。
くるくる廻るストーリー展開に、こちとら字幕と絵を追うだけでも手一杯。集中して見終えた後には疲労感も感じられるほどだ。だけど雑誌ってこんな感じ。様々なジャンルが集まり沢山の情報（絵や言葉、写真）で埋め尽くされている。映像を止めて、静止画にして、スクラップしてずっと眺めていたいほど、子供の頃に感じたあのワクワク感と遊び心が作中に散りばめられている。
オーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ、フランシス・マクドーマンドらウェス・アンダーソン作品の常連組に加え、ベニチオ・デル・トロ、ティモシー・シャラメ、ジェフリー・ライト、ウィレム・デフォー、シアーシャ・ローナン、レア・セドゥー.….
錚々たる豪華なキャストたちの名前がずらりと並ぶも、あのシアーシャ・ローナンがほんのちょっとしか出演していなかったりと、配役の使い方も贅沢極まりない。
大衆向けの作品ではないものの（眠くなる要素はたっぷり）、ハマる人にはカチッとハマる楽しさ、センスに溢れたデザイン性や色使いは学べることも多いかと。それにしても、レア・セドゥーのうっとりするような黄金比のボディの美しさと警官姿には女の私でも凝視してしまうほど・・・。あのボディは羨ましすぎるぞ。中盤、眠気に襲われた殿方は目が覚めるでしょう（笑）ご堪能あれ！