魂震える映画体験を。「愛と哀しみの果て」のオスカー監督シドニー・ポラックが撮影したドキュメンタリー。彼女の歌声で月まで行っちゃう?いやいや、月どころか冥王星まで飛んでいくよ?魂に響く歌声と才能で人々の心揺さぶるソウルの女王 アレサ・フランクリ(1942-2018)は2018年、惜しくもこの世を去った。1972年1月13日、14日、ロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で 行われた伝説のライブをドキュメンタリーで撮影されたものが遂に映像で蘇る。
本ライブを収録したアルバム「AMAZING GRACE」は、 300万枚以上の大ヒット。史上最高のゴスペル・アルバムとして今も尚輝き続けている。本ライブではドキュメンタリーとして同時に撮影され、翌年に映画公開される予定だった。しかし、音楽ドキュメンタリーがこの時初めてだったというポラック監督、まさかのカットの始めと終わりのカチンコを忘れてしまったために 音と映像をシンクロさせることができないというトラブルに見舞われ、製作会社だったワーナーブラザーズもお手上げ、何十年もの間お蔵入りとなった。ポラック監督の亡くなる前に(2008年)ポラック監督のプロデューサーであるアラン・エリオットが未編集素材を買い取り、テクノロジーの力によって遂に映画が完成。実は2011年には本作は完成されていたとのことだが、アレサ本人が2011年の劇場公開と2015年の映画祭での上映を2度にわたり法的手段に訴えて阻止、彼女は公開を望んでいなかったのだ。そしてアレサの死後、遺族が上映を希望してようやく2018年に米国で公開された。
音楽史を塗り替えたといわれる幻のライブが、日本でもスクリーンに登場することは喜ばしいことではあるが、こうした裏の事情、本作の公開を望んでいなかったアレサの心情を考えるとなんとも言えぬ複雑な気持ちになる。
レビュー
映像からも十分に彼女の魂を震わせる歌声と溢れんばかりの才能と生命力が伝わり魅了されっぱなしの90分間だ。本作の本名曲「アメージング・グレース」や、思わずその場で踊り出したくなるようなポップな曲まで豊富なラインナップで楽しませてくれる。ソウル、ゴスペル好きにはたまらないはず!
バックバンドにはコーネル・デュプリー(ギター)、チャック・レイニー(ベース)、 バーナード・パーディー(ドラム)らもシーンは少ないもののしっかりと確認でき、音も綺麗であった。また客席にはローリング・ストーンズのミック・ジャガーとチャーリー・ワッツもお目見え、カメラをまわす若き頃のシドニー・ポラック監督の姿も見られる。アレサの力強い歌声はもちろん、彼女をバックで支えるサザン・カリフォルニア・コミュニティ聖歌隊や観客が一つになり、感情が昂り涙するシーンや踊り出す場面もしっかり捉えている。教会でこうしたライブを行うことが彼女の原点であり、音楽で会場が一つになった高揚と力強い生命は、まるで神に捧げているようだ。私もこの場にいたら興奮しすぎて失神していたかもというくらいの臨場感と生々しい体験、是非味わってほしい。
アメイジング・グレイス
文/ごとうまき