ビートたけしが芸人として一世を風靡するはるか昔、 まだ何者でもなかった青年時代を描いた青春自伝『浅草キッド』 の舞台、カンテレ開局65周年記念公演『音楽劇浅草キッド』 が2023年10月30日(月)〜11月5日(日)まで大阪・ 新歌舞伎座にて上演される。原作の「浅草キッド」(講談社刊) は、1988年、2002年にドラマ化され、 2021年にはNetflixにより映画化された。 今回はビートたけし作詞・作曲の「浅草キッド」と共に、 音楽劇として初の舞台化。
脚本・演出は、 演劇界のみならず映像の世界でも時代を牽引する福原充則が務め、 悩める青年・武を務めるのは林遣都。“幻の浅草芸人”と呼ばれ、 武の人生を決定づける師匠・深見千三郎を山本耕史が演じ、 2人の化学反応が期待される。
公演に先立ち、林遣都さんが取材会に出席。 憧れの福原氏の舞台に初出演、 そして山本耕史さんとも初共演という林さんは、 現在お稽古真っ最中とのこと。本公演にかける思いや見どころ、 役づくりなどについてお話していただきました。2016年の『 火花』(Netflix)に続き、 再び芸人役に挑む林さんに期待が膨らみます。
重圧を力に。
── 北野武さん役を演じることを聞いた時の心境は?
とても驚きました。まさか自分に来るとは思っていなかったし、 同時に自分でいいのかなという思いもありました。ですが、 やるからには覚悟を持って取り組もうと意気込んでいます。
── 資料や会見などでも“重圧” という言葉が使われていて印象的でしたが、 具体的にどのような部分に重圧を感じていますか?
実は、よく記者さんからも「武さんを演じるということでプレッシャーがあるのでは?」 と聞かれまして(笑)、 正直僕の中ではその重圧は乗り越えている段階で、 今は必要以上に自分自身に重圧をかけないようにしています。 それよりも武さんを演じることや、 福原さんや山本耕史さんとご一緒して共に作り上げていくことの喜 びや楽しさが上回っています。
── まだ何者でもなかった頃の北野武さんをどのように演じていこうと 考えておられますか?
お話をいただいたのが2年以上前。 そこからゆっくりと準備を進めて、 自分なりに武さんのことを知る作業を積んできました。現在、 演出家の福原さんや共演者の方を頼りに、 皆さんと一緒に役や作品の仕上げに取り掛かっています。 武さんとは見た目も声も違うので、 武さんの真似をしようとは思っていません。 むしろ真似をすることで役から遠のいてしまうと思っています。 劇中の所々で武さんの姿だったり、 若い頃の武さんを想像してもらえるように演じていきたいです。
── 若い頃の武さんについて、どのように感じておられますか?
この作品には、 誰しもが若い頃に感じる将来への不安や焦燥感が描かれています。 武さんにも若い頃から変わっていない部分があると思っていて。 きっとシャイで繊細な方だと思いますし、 間違いなく若い頃から肝が座っている。 そして武さんの生い立ちや学生時代にも思いを巡らせています。 テレビや表舞台で見る武さんからは見えていないような部分、 本質の部分に目を向けて役に活かしていけたら。
念願叶った福原さんの舞台
── 念願叶った福原さんの舞台。実際にご一緒されていかがですか?
もう楽しくてたまりません。 毎日お昼前に集まって夜までお稽古をしていますが、 時間があっという間に過ぎていきます。 完成に向かって一つ一つ積み上げていく過程を見れるのがとても楽 しく、また演出も面白くて、 福原さんの印象的な言葉をその都度メモしています。
── 師匠・ 深見千三郎役を演じる山本耕史さんとも初共演とのことですが、 山本さんの印象は?
みんな山本さんのことを好きになっちゃう。 それくらい素敵な方です。初めてお会いした時から優しくて、 かっこよくて、面白くて器が大きい。 山本さんはみんなに居心地の良い空間を作ってくださるんです。 今回、師弟関係を演じていきますが、僕も同じような思いで、 重なります。
秘めた本音を歌に乗せて
── 今回は音楽劇。 武さんや深見師匠の秘めた本音は歌に乗せて吐き出す…… とのことですが、脚本を読んでの感想は? またエンターテイメントとしてどんなところが面白くなりそうでし ょうか?
小説を読んでから脚本を読みました。“ こんなことしちゃっていいのかな?”というのが、 初めに読んだ時の率直な感想です。 ですが武さんの昔の映像を見たり、 本を見ていくうちに福原さんは武さんのことが好きで、 敬意を持って本を書いているということに気づきました。 当時の浅草や活躍されていた芸人さんも出てくるので、 一つ一つの言葉を大切に発していきます。 本作はまさにエンターテイメント作品になるだろうと思っています 。いろんなジャンルの楽曲が生演奏で届けられますが、 特に難易度の高いタップダンスには注目してもらえたら。 僕自身初めての経験なので、正直自信はないですが…… 皆さんに楽しんでもらうためにしっかりお稽古に励みます。
── 本作は舞台で演じるということに意義があると思います。“ 舞台で演じる”ということをどのように感じておられますか?
生の空間だからこそ、 当時の浅草の街やその時代を生きた人たちの営みを感じてもらえる と思います。「浅草キッド」 には当時の人たちの営みも描かれていて、 一人一人の登場人物が面白い人ばかり。 それを福原さんが大事に登場させ、 その人たちをアンサンブルの方たちが色濃く表現し、 当時の浅草を作り上げています。 またこういった時代背景の作品を明治座や新歌舞伎座で上演するこ とに意味があるのではないでしょうか。
── 見どころを教えてください。
武さんに影響を与えた人物をしっかりと描きながらの群像劇となっ ていて、当時の浅草の背景や街も感じてもらえます。 漫才のシーンは劇中劇として描かれるのですが、 コントだけでなく、劇場の雰囲気やお客さんたちのやり取り、 今じゃ考えられないような光景も見どころの一つとなっています。 タップには是非とも注目してもらいたいです。 これが出来たらお客さんをびっくりさせられる! 今は覚えることも沢山あって、課題は山積みですが、 覚悟を決めて頑張るしかありません。皆さんに観にきて良かった! と思ってもらえるような舞台を目指して、 残りの1ヶ月頑張ります。
音楽劇 浅草キッド | 関西テレビ放送 カンテレ (ktv.jp)
取材・文・撮影:ごとうまき