この本はイタリア人作家パオロ・ジョルダーノ(1982年トリノ生まれ)によって2020年3月に書かれた。ローマに暮らす著者が世界的に大流行中の新型コロナウィルス感染症に襲われたイタリアでのことを2020年2月末から3月頭にかけて書き下ろした感染症にまつわるエッセイ27本をまとめたものが「コロナ時代の僕ら」である。
数学が得意な著者が新型コロナウィルスがイタリア北部の六州で大規模な広がりを見せ始めた時期に、ウィルス感染症流行という現象を数学的アプローチからわかりやすく解いた「混乱の中で僕らを助けてくれる感染症の数学」という記事が読者の大きな反響を呼んだ。これを機に著者はこの本を書くことになった。どれも非常に読みやすくわかりやすいエッセイが27篇ある。早い人ならあっという間に読み終えるだろう。
著者が伝えたいこと
感染症の拡大については「偶発事故でもなければ、単なる災いでもない」、感染症が「僕ら人類の何を明らかにしつつあるのか、それを絶対に見逃したくない」と。今回のパンデミックの原因は人間の行ってきた活動による森林破壊、軽率な消費活動による環境破壊や地球温暖化が招いた現代人が生み出した問題であり、秘密の軍事実験とかではない。そして僕たちがこのような生活を続けている限り新型コロナウィルスが終息しても必ず新しい感染症が幾度となく訪れるだろうと。
新たな感染、まさかの事態に対し僕たちは備えると同時に、今までとは違った新しい生活、未来の在り方を模索していく必要があるんだと。
「僕は忘れたくない」
著者のあとがきで印象的な言葉「僕は忘れたくない」が何度も出てくるところ。著者のあとがきは詩的でとても美しい。そして著者はこのウィルスが落ち着くと人々は何事もなかったかのようにいつも通りの生活に戻ってしまうのではないかと言っている。だからこそ、僕は忘れたくない。忘れてはいけないんだと。
本書は科学知識の伝授だけでなく、Withコロナ時代を僕たちはどのようにして生きていくか、生きていきたいかを各自で考え、そしていつか皆で一緒に考えようじゃないかと伝えている。
また著者のあとがきについてはWEBで全文無料公開してあるのでチェックしてみてください♪
文/ごとうまき
科学的な視点と正しく恐れる力を身につけること
訳者のあとがきに書いてあるように本書は科学的な視点と正しく恐れる力を身につけることでこの混迷した「コロナの日々」を楽に過ごせるのではないかと。3月にはトイレットペーパーがスーパーから消えたり、5月には首都直下地震が来るというデマがネット上で流れたりなど、現代はフェイクニュースなどで溢れている。毎日流れる膨大な情報とどう付き合っていくかといったことも今を生きる私たちの大きな課題であり、これからも何度も訪れるであろう危機や問題に対し科学的根拠に加え正しく冷静に恐れる力が必要なんだということを教えてくれる。まさに”いま”を生きる私たちに向けられた詩的でありなおかつ美しくも核心的な言葉の数々にハッと気づかされる、そんな一冊だ。