【この冬観るべきミュージカル映画】エモーショナルな楽曲と物語に涙する『ディア・エヴァン・ハンセン』

(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
映画
トニー賞で6部門を受賞し、グラミー賞、エミー賞にも輝いたブロードウェイミュージカル「ディア・エヴァン・ハンセン」を「ワンダー 君は太陽」のスティーブン・チョボウスキー監督によって映画化。「ラ・ラ・ランド」「グレイテスト・ショーマン」「アラジン」など大ヒットミュージカル映画に携わってきたベンジ・パセック&ジャスティン・ポールがミュージカル楽曲を担当した。キャストにはブロードウェイの舞台でも主役を演じたベン・プラットがエヴァンを演じ、ケイトリン・デバー、ジュリアン・ムーア、エイミー・アダムスらが顔を揃える。
誰もが持っている孤独と不安、若い世代の自殺やSNSの問題など社会問題に切り込みながらも、美しくエモーショナルな楽曲にのせて繰り広げられるミュージカル映画。この冬とっておきの感動作があなたを優しく包み込む。

あらすじ

友達もいなく家族にも心を開かずにいた孤独なエヴァン・ハンセンがセラピーの課題で自分宛に書いた「Dear Evan Hansen(親愛なるエヴァン・ハンセンへ)」から始まる手紙を、同級生のコナーに持ち去られてしまう。後日、コナーは自ら命を絶ち、その手紙を見つけたコナーの両親は息子がエヴァンに書いた遺書で、息子とエヴァンが親友だったと思い込む。悲しみに暮れるコナーの両親をこれ以上苦しめたくないと、エヴァンは話を合わせ、コナーとのありもしない思い出を語っていくのだが、思いもよらぬ展開へとハナシが進んでいく。エヴァンが辿り着いた真実とは・・・。

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SNSや若者の自死、現代人が抱える問題に手を差し伸べる作品

君は独りじゃない、手を伸ばせば立ち上がれる

“Dearエヴァン・ハンセン”
優しさでついた一つの嘘がまさかとんでもない拡がりを見せて思いもよらぬ展開になるなんて、、、。嘘に嘘を塗り固めると取り返しのつかないことになってしまうのは目に見えていること。きっかけはエヴァンの‟思いやりの嘘”だったけど、いつしかその嘘は“憧れを真実と信じたい” 嘘へと変化した。しかしこの感情は人間誰しも持っているから彼を責めることはできないよね(もちろん嘘はダメだけど)。誰だって一つや二つ思い当たることある。人は皆、弱くて愚かな生き物だから。

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とりわけ本作はティーンエイジャーや若い世代に観てもらいたい。そして彼達がどんな感想を持つのか聞いてみたい。なぜなら、この物語には現代社会を生きる私たちの悩みや問題が散りばめられているから。とりわけ多くの人が抱える“孤独感”は近年より色濃くなっている気がしてならない。少なくとも筆者がティーンエイジャーだった20年前は今ほどこの“孤独”を感じている人は多くなかった気がする。本来繋がるツールであるはずのSNSが、実は人々の孤独や焦燥感をより掻き立てているのではないだろうかーー。
例えばインスタに生息しているキラキラ女子、SNSでは羨望の眼差しを浴びていても、実生活のリアルな姿はいかがなものか、、、。彼女(彼)たちも“匿名”だから笑顔で強くいられるだけで、その虚栄心の正体は孤独や不安や闇。辛い現実から逃げたいという人間の弱さや愚かさの表れだったりする。だからアラナの歌う楽曲やベン・プラットの歌う「You Will Be Found」の歌詞が胸に沁みる。

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エモーショナルな楽曲が心を揺さぶる

冒頭にも説明した通り本作の楽曲は「ラ・ラ・ランド」「グレイテスト・ショーマン」「アラジン」など大ヒットミュージカル映画に携わってきたベンジ・パセック&ジャスティン・ポールが担当。そりゃあもう素晴らしい曲の数々だ。中でもエヴァン役のベン・フラットの歌声には圧倒、マイクも俳優に張り付き、歌は同時録音で収録されているという。
一番の見せ場の「You Will Be Found」のシーンは自粛期間中に流行ったリモート動画の大合唱を彷彿とさせ(このリモート合唱する人いそう)感動の渦へと観客を誘う。
特に筆者がお気に入りの曲はエヴァンとジャレッドがコナーとのメールを作成しているときの楽曲「Sincerely me」だ。

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ただ本作、少しインパクトと華に欠けるところが残念ではある。映画「グレイテスト・ショーマン」のキアラ・セトルが歌う「This is me」は息を呑むほどの感動的で、あの衝撃とパワーは超えていない。そもそも「ラ・ラ・ランド」でアカデミー賞を逃し、制作チームが‟本格的に”と挑んだ作品が「グレイテスト・ショーマン」だったが、アメリカでは酷評だったという。今作もコロナ禍によって本場アメリカでは大ヒットとはならなかったようだ。11月26日(金)から日本で劇場公開されたが、大ヒットになるのだろうか・・・。可能であればIMAXやDolby Cinemaなどのより良い音響で、劇場での鑑賞をお勧めしたい。

ディア・エヴァン・ハンセン

監督:スティーブン・チョボウスキー
製作:マーク・プラット アダム・シーゲル
脚本:スティーブン・レベンソン
キャスト:ベン・プラット、ケイトリン・デバー、ジュリアン・ムーア、エイミー・アダムス
製作:2021年製作/138分/アメリカ
配給:東宝東和
原題:Dear Evan Hansen

文/ごとうまき