【魂がえぐられるような壮大なヒューマンドラマ】ヤクザと家族 The Family

(C)2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会
エンタメ

1999年から2019年までの20年をヤクザの世界の男たちの栄枯盛衰と愛を求め続けた一人の男の半生を描いた作品、と言えばシンプルに聞こえるが、これはただのヤクザモノ映画ではない。ヤクザ×社会派映画。それは愛と憎悪、義理と人情、金と名誉、差別と偏見、そして社会の変化によって排除されて消えゆく者たちのとんでもなく切なく、まるで魂をえぐられるような、見終わった後その場からしばらく動けないほどの深い深い余韻に包まれる。人によってはその場で泣き崩れるかもしれない、または叫びたくなるかもしれないほどの衝撃作だ。

反社会性力に対して一層厳しさを増す現代社会で、行き場を失くたヤクザの世界にフォーカスし描く挑戦的な作品を手がける監督は2019年の第43回日本アカデミー賞作品賞・最優秀主演男優賞・最優秀主演女優賞に輝いた「新聞記者」の藤井道人監督。常に社会を鋭く見つめ、比較的”重いテーマ”と言われる作品を作り続けてきた配給会社のスターサンズが再タッグを組んだ。スターサンズはこれまでに「あゝ、荒野」「宮本から君へ」「MOTHER マザー」などを手掛けている。

愛に飢えた弱く儚い中に、義理堅く人情に溢れた温かい部分も併せ持った山本賢治を演じた綾野剛の生き様が表れた渾身の演技×ヤクザ役は43年ぶりに演じるという柴崎組長演じる舘ひろしの溢れんばかりの包容力と渋みが上手く掛け合わさっている。二人の“血のつながらない”親子愛”は観るものを感動の渦に包みこんでくれる。他にも、尾野真千子、市原隼人、北村有起哉、磯村勇斗達の全身全霊で演じる芝居にも注目である。

(C)2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会

映画レビュー動画

ヤクザ映画×社会派映画

本作は1999年、2005年、そして14年後の2019年の3つの時代からの3構成、20年という時代の移り変わりの中でのヤクザの世界と社会の移り変わり、そこに生きる人々の生き様を描いている。

あらすじ

1999年、父親を覚せい剤で亡くして自暴自棄になっていた山本は行きつけの焼き肉屋で出会った柴咲組組長・柴咲博を助けた。生活に困っていた山本に手を差し伸べた柴咲、二人は親子の盃を交わす。2005年、組の幹部へと成長しヤクザの世界で男を上げた山本は、「組」=「家族」を守るために対立する組織との抗争の末ある決断をした。2019年14年ぶりに出所した山本を迎えたのは変わり果てた街や人、そして暴対法の影響によってかつての勢いを失った柴咲組の姿であった。

2005年までのシーンはTheヤクザ映画

前半部分はこれでもかというほど男のロマンが描かれて胸が熱くなるシーンも多い、THEヤクザ映画。例えば山本と柴咲の親子の盃を交わすシーンや、殴り合い、仁義なき戦い。そこから垣間見られる男くささや男らしさからは女の本能が掻き立てられる。男は強くとか、女を守るものだと言うとフェミニストに怒られそうだけど、やっぱり女って強い男が好きなわけで、ヤクザもの好きには堪らないシーンであろう。(大好きな綾野剛だから余計、かっこよすぎて気絶寸前(笑))
成人前のチンピラだった山本が柴咲との出会いにより立派なヤクザの男にのし上がった姿にはグッとくるものがある。

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2019年のシーンは時代に取り残されたヤクザたちの悲哀を描いている

ーー義理と人情も金と時代には勝てない。

14年後に出所した山本が目にしたのは大きく変わった社会の2019年。このシーンは社会派映画、反社会勢力によって銀行口座も携帯電話も作れない、彼らの存在さえも認めてもらえないような社会でなんとか生きていく柴崎組や山本たち。組を辞めせっかく手に入れた幸せさえも、世間の目や圧力に飲まれてあっという間に壊れてしまう。”社会のはみ出し者”、”社会的弱者”を徹底的に淘汰しようとする社会は彼らに手を差し伸べようとはしない。永遠と繰り返される負のループ、悪循環は続き、現在も「ヤクザ」というものが形を変え「半グレ」として存在しているのだ。

本作の見どころ

抜け出すことが困難な負のループ

「負の連鎖」も本作から提起されている。14年後に山本が再会した翼は赤ん坊の頃から可愛がっていた。かつて柴崎組の柱で命を落とした木村の息子である翼はヤクザではないものの、それに近い裏の世界で生きる人間で、父親と同じ道を辿りつつあった。父を殺した犯人を突き止め復讐を試みるが…

(C)2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会

20年の中での時代の変化の表し方にも注目

折り畳み式でない携帯電話、ガラケーからのスマートフォン、センチュリーからプリウス、クラブからガールズBAR、ヤクザから半グレ、かつての勢いを失った柴咲組の組員の目の輝きや表情、佇まいでさえも、時代と人々の変化が細かく切り取られている。ありとあらゆるものが変わった中、唯一変わらないものは劇中に何度か映し出される街の煙突だ。また三部作での色調の変化にも注目である。

山本と由香の恋、そして家族

不器用で愛されることを知らずに育った山本が恋に落ちた由香、はじめこそ彼女に不器用に接していくが、物語が進むにつれて次第に山本の深く一途な愛が見られる。時代と社会と運命に翻弄されたごく普通の家族の行方、義理と人情で結ばれたヤクザでの世界の家族の行方、題名の通り本作は「家族とは」「愛とは」を提起しているのだ。

(C)2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会

愛してはいけない男を愛した女たちの生き様

寺島しのぶ、尾野真千子演じる、ヤクザという世界に身を置いてしまった男たちを愛する女達にも注目だ。世間的には愛してはいけない男を愛してしまうこと、その愛する男の命を繋ぎ、次の世代へとつなぐこと。尾野真千子演じる由香も時代と運命に翻弄された犠牲者なのである。

レビュー(ネタバレあり)

山本が最後まで失わなかったものとは

ヤクザの父親の元に生まれ、自身もヤクザとして生きていくことになる山本の短い人生は、あまりにも儚げで切なくて見ていられない。彼を守ってやりたい、抱きしめてあげたい、そんな気持ちにさせてくれる。山本という男を徹底的に突き詰め演じ切った綾野剛に、心から称賛を送りたい。また本作での伏線の張り方、回収の仕方が巧妙で、若干34歳という藤井道人監督の今後の活動にもますます目が離せない。とにもかくにもこの半年観た作品の中で私の中ではぶっちぎりの一位の秀作だ。

ヤクザという世界に身を置いた男の悲哀な人生

はみ出し者を徹底的に排除しようとする社会、弱者は結局何も変われぬまま負の連鎖を生み続ける。善と悪の定義とは何ぞや、家族の定義とは?

山本が由香に言ったことが忘れられない。「普通の人に生まれたかった。普通に生きたかった。普通の家族を作りたかった。愛してる」

山本が由香と彩との三人で囲んだ食卓が彼が最も望んでいたことで最も幸せな瞬間だったのかもしれない。せっかく手に入れようとした幸せも、”元ヤクザ”というだけであっという間に壊れてしまう。「ヤクザ」というだけでまともに生きていくことも、存在さえも許されないのだ。しかし何もかも失っても「家族」と「愛」と「義理人情」だけは山本は最期まで持っていたのかもしれない。

唯一の救いは本作はオリジナル作品であるということだが、現実世界でも本作のような誰も知らない小さなストーリーが数え切れないほどあるはずだ。いま、社会から姿を消したヤクザ達はどうしているのだろうか。半グレとして、または柴崎組の彼らのように鎬を削って生きているのだろうか。

思わぬ展開へと繰り広げられるラストには驚愕と切なさと、やるせなさで、私はただ、魂がえぐられるほどの感情に飲み込まれ、涙が止まらなかった。エンドロールで流れる「millennium parade」の歌声とともに、圧倒的な臨場感と、深い深い余韻を味わってほしい。

ヤクザと家族 The Family

監督:藤井道人
脚本:藤井道人
キャスト:綾野剛、舘ひろし、小野真千子、北村有起哉、市原隼人、磯村優斗、岩松了、豊原功補、寺島しのぶ
製作:2021年製作/136分/PG12/日本
配給:スターサンズ、 KADOKAWA

 

文/ごとうまき