そばにいることが一番の愛情か?!「親子の絆」「子離れ」「親離れ」がテーマ
「ブロークン・ウィング」「僕の心の奥の文法」で東京国際映画祭のグランプリを2度受賞しているイスラエルの名匠ニル・ベルグマンが、自閉症の息子のために自らの人生を犠牲にして子育てをする父親と父親の愛情を受け止める青年。親子の二人の成長と親子の絆を、実話をもとに描いた人間ドラマ。
あらすじ
自閉症スペクトラムの息子ウリを育てるために売れっ子グラフィックデザイナーというキャリアを捨て、田舎町でのんびりと暮らすアハロン。別居中の妻タマラは息子ウリの将来を心配し、全寮制の特別支援施設への入所を決める。定職についていないアハロンは養育不適合と判断され、なくなく行政の決定に従うしかなかった。しかし入所当日に駅のホームで大好きな父との別れにパニックを起こすウリ。そんな息子を見てアハロンは、息子を連れての逃避行を決意する。自閉症を持つ息子との逃避行は一筋縄ではいかず様々な問題が勃発する。そんな中アハロンはついに口座を凍結されてしまい…。
息子との旅を通してアハロンは気づく。“自分が子離れできていない”のだと。そして“そばにいることが愛情である”と、信じて疑わなかった彼の心情が揺らぎ始める。二人の親子の行く末はーー?
愛情だけでは難しい!?障がいを持つ子どもの養育
本作では自閉症の子を持つ親の葛藤や苦労も描かれている。例えば駅のホームで癇癪を起こし騒ぐ息子を優しくなだめたり、自動ドアの開閉に怖がる息子に一つ一つ向き合い寄り添う父の姿。大抵の人であればこれだけで気が滅入ってしまう。根気よくウリに優しく寄り添うアハロン、障がいを持つ子どもを育てることへの彼の覚悟と姿勢には感服でしかない。
また本作を通して見る、発達障がいの子どもを育てることへの世間の理解も追いついているようで、まだまだであると感じる。社会的ハンディを持つ子どもを親が面倒をみるにしても、親はいずれ老いて死んでゆく。親がいなくなった後、障がいを持つ子どもはどのようにして生きていくのであろうかー。社会からかけ離されないように、ある程度成長すれば親から離すこと、社会に出すことの必要性も本作を通して感じられる。そしてどんな関係にでも言えることが、適度な距離感が一番長く続き上手くいく秘訣だったりする。
【レビュー】アハロンの親心に強い共感を覚え、涙が頬をつたう。
「子育ては親育て」とはよく言ったもので、子供を通して親も常に成長させられているのだと本作や筆者の実体験も通じて痛感する。子どもは遅かれ早かれ親元を離れ旅立っていく。生物としてこれが正常なこと。大切に大切に育ててきた子どもを送り出すのには寂しさと、時として痛みも伴い、とても勇気のいることである。アハロンの行動は傍から見れば愛情が行き過ぎた”執着”に捉えられるのかもしれない。一方でパパの息子への溢れんばかりの愛情が伝わり、子を心配し想う気持ちも痛い程わかるからゆえになんとも複雑な気持ちになる。
少し成長が遅かった息子ウリを送り出す父アハロンの表情は見どころの一つでもある。なんせアハロン演じるシャイ・アビビの父性愛溢れる表情やウリを見つめる目は抜群に良い!
いつかは自分も旅立つ子どもたちを送り出すのだと考えると、長いようで短い貴重な子育て期間を、子どもたちと過ごす日々を大切にしなくては、という感情を思い起こさせてくれた貴重な逸作だ。
旅立つ息子へ