6月19日から開催中の香港インディペンデント映画祭は、2020年に香港国家安全法が施行され一段と中国政府による監視は厳しくなっている中、政治的思想が強い作品はまだ香港での上映は禁止はされていないものの国内外からも話題を呼んでいる。初日の19日は全ての上映がほぼ満席、『僕は屈しない』は補助椅子を利用しての観客が出るほどの盛況ぶりだった。
6月19日に上映された三作品のうちの一つである、香港独立派の活動家で“若き英雄”と呼ばれるエドワード・レオンの成長の記録を映し出したドキュメンタリー作品『僕は屈しない』の上映後に行われたノーラ・ラム監督とプロデューサーのヴィンセント・チュイさん、本映画祭主催者のリム・カーワイ監督のトークイベントが行われた(ノーラ監督たちはコロナ禍で来日できないためオンラインでのトークとなった)。上映後でのトークイベントから本作の魅力や監督たちの製作に対する思いを書きたい。
トークイベントQ&A
香港で政治活動を中心に活躍、瞬く間にときの人となったエドワード・レオン氏。彼は2016年9月の香港議会選挙での香港独立を主張する候補者であった。直前のデモで逮捕され、立候補できなかったためリャン・ソンホン候補を応援していた。(2021年現在は服役中)。
本作が撮影されたのは2016年から6月〜9月、ノーラ・ラム監督とエドワード・レオンは同じ香港大学在学中で夏休み中であった。そんな中エドワード氏は選挙に出馬することになりノーラ監督は夏休みを使って彼の3ヶ月を追ったという。
ーー本作の魅力は?
現在ノーラ監督は香港大学を卒業し映画業界で働いている。ポケモンと日本映画が大好きで、日本映画からも多くのインスピレーションを得ているとのこと。そんな監督が本作を通して伝えたかったこととは?
政治的なテーマではなく‟人間を描きたかった”
本作の魅力はなんといってもエドワード・レオンの人間的な彼のありのままの素の姿が生き生きと映し出されているところだ。出馬を決意する一年前までは鬱病を煩いニートだったというエドワード氏、その生命力に満ち溢れた一人の青年が時折見せる‟繊細さと孤独”。また選挙活動を通して見える希望や挫折、弱さなども包み隠さず映し出している。
そんな彼の姿を引き出せたのはノーラ監督だからこそ成せた技であると、他のメディアでは絶対に映し出すことができなかったであろうと、プロデューサーのヴィンセント氏は話す。
ーー香港では本作が2017年に上映されましたが、香港の人々の感想は?また親中派の方からの講義などは大丈夫でしたか?
2017年エドワードは海外に、その後逮捕され現在香港で服役中であるがエドワードの逮捕後、観客たちの気持ちも重くなり、彼への批判はやがて同情へと変わり、さらに2019年の香港民主化デモによって観客たちはより感情的になってきたという。
エドワード・レオンの生き様
光復香港、時代革命(香港を取り戻せ、革命の時代だ)
(エドワードたちが掲げたスローガン)
本作に描かれていたのは香港の若者たちが香港を守ろうと懸命に戦う勇敢な姿、希望と絶望、そして青年の生き様が描かれていた。人生を賭けた彼らの壮大な“抵抗” と‟主張”は、かつて日本でも起きた学生運動(1969年)を彷彿させる。もし自分が彼らの立場だったならどうだろうか・・。他の国の支配下となりアイデンティティを失うかもしれない、言論や表現の自由さえも奪われる。仮にこのような状況下で果たして現在の日本の若者たちは香港の若者のように立ち上がることが出来るのだろうか?日本では若い層になればなるほど社会運動に対して批判的な意見が多いという。
2021年現在、人生を賭けてまで戦った若き英雄たちは他の国へ亡命したり、香港で服役中である。“夜明け前の時が最も暗い”ーー。目の前の困難に立ち向かっていく勇敢な若者たちの姿から、そしてエドワード・レオンという一人の青年の生き様から何かしら感じられるものがあるはずだ。
香港インディペンデント映画祭は6月25日(金)まで大阪シネ・ヌーヴォ、6月25日(金)から7月8日(木)まで京都出町座、7月中旬からは名古屋シネマスコーレにて開催予定だ。
また本作は2017年に公開され2019年に香港民主化デモがあり都市や時間の流れによって観る人たちの受け取り方、考え方も異なると思います。もっと沢山の人に観てもらえたらと。