ミュージカル「ハミルトン」でも注目を集めるリン=マニュエル・ミランダによるブロードウェイミュージカル(トニー賞4冠とグラミー賞最優秀ミュージカルアルバム賞を受賞)「イン・ザ・ハイツ」が遂に映画化、7月30日に公開された本作は原作舞台ファンも大満足な作品となっている。舞台は変わりゆくニューヨークの片隅に取り残された街ワシントンハイツ。マンハッタンの北部に位置し中南米系移民が多く住む街だ。ドミニカ共和国へ帰ることを夢見る主人公ウスナビ、一流大学に入学するも人種差別という壁にぶち当たり挫折した移民2世のニーナをはじめとする人々が登場するが、登場人物の誰もが自分の“ホーム”を求め、葛藤を抱きながら生活している。と同時に誰もが“夢や希望”を持ち続け、物語からは決して暗いイメージは感じない。ある真夏日に街が大停電したことによって彼らの運命が動き出すーー。
監督には「クレイジー・リッチ」のジョン・M・チュウ、「アリー スター誕生」のアンソニー・ラモス、「ストレイト・アウタ・コンプトン」のコーリー・ホーキンズ、シンガーソングライターのレスリー・グレイスらが出演している。
大人数でのパフォーマンスには圧巻!
ミュージカルの凄みは大人数でのパフォーマンスであること。なんといっても美しい歌声、切れ味あるダンスには眩暈がしそうなくらいに酔いしれる、痺れる。オープニングから最後まで繰り広げられるノンストップミュージックにボルテージは最高潮!ラテン系の明るい音楽に合わせて体も心も踊り出す!
今もなお愛され続けている理由は普遍的なテーマである“ホーム”
本作のテーマは“移民たちのホーム”=自分の居場所の確立。多人種でひしめくアメリカらしい問題で私たち日本人にはピンとこない“移民問題”。しかし“自分の居場所の確立”となると誰しもが悩んだことがあるテーマではなかろうか。地方を飛び出し大都市で生きる若者たち、生まれ育った場所を離れて夢を追う人々は特に共感する物語だろう。
また原作、歌詞、音楽を手がけたリン=マニュエル・ミランダはプエルトリコの移民の息子であり、ワシントン・ハイツは実際に彼が住んでいた街である。「イン・ザ・ハイツ」は25歳のときに執筆した作品で、ミランダ自身の切実な想いか込められているからゆえに、いつの時代にも人々の心に深く刺さり共感を呼んでいるのだ。
アメリカの政治が作品にも影響
オリジナルの舞台ミュージカルはブッシュ政権下で誕生したが、映画化されたのはトランプ政権下。「違法に国境を越えた者は例外なく起訴する」というトランプ政権の政策が、本作にも映画に大きな影響を与えている。主人公ウスナビの従兄弟の不法滞在が描かれた部分は映画版のオリジナルである。
エンドロール後に舞台ファンにとってのお楽しみが・・・
またエンドロール後にはリン=マニュエル・ミランダ本人がかき氷売りとして登場、ライバルのアイスクリーム売り役に、初代ベニー役(ニーナの恋人)のクリストファー・ジャクソンが出演していて、舞台ファンにも嬉しいサプライズが。本作は「突然歌い出す」と言ったような違和感がなく、ミュージカル映画が苦手な人も、違和感なく楽しめるはず!いよいよ夏本番、いま話題の『ジャングル・クルーズ』と併せて、この夏自分の最高の一本を見つけよう。
イン・ザ・ハイツ
文/ごとうまき