韓国発!いま注目の監督デビュー作『夏時間』

(C)2019 ONU FILM, ALL RIGHTS RESERVED
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父が事業に失敗し母親が出て行った。父と私と弟、向かった先は祖父の家。祖父の家で過ごす夏の時、10代の少女の身の周りに起きた出来事を、瑞々しい少女の視点から、韓国の社会背景とも絡めながら描く。本作は、1990年生まれのユン・ダンビ監督のデビュー作であり第24回釜山国際映画祭で4冠に輝いたのを筆頭に、ロッテルダム国際映画祭など数多くの映画祭で、本作の持つ繊細さや演出力が評価されている。

 

あらすじ

父親の事業失敗に追い討ちをかけるように母が家を出て行った。10代の少女オクジュと弟ドンジュは、父とともに大きな庭のある祖父の家に引っ越して来る。そこには離婚寸前の叔母もいて三世代の生活が始まる。

自分のあり方、家族との向き合い方、大好きな祖父…。自分のコンプレックスや異性との関係に悩みもがきながら少しずつ大人の階段を上がっていく。

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本作は、『はちどり』のキム・ボラや『わたしたち』のユン・ガウン、『82年生まれ、キム・ジヨン』のキム・ドヨンに並ぶ、新たな才能が韓国から登場したと話題になった。

本作がデビューとなる姉オクジュ役のチェ・ジョンウンは、監督が見つけた一枚の写真から大抜擢された。弟ドンジュ役のパク・スンジュンはNetflixで常にランクインしている人気ドラマ「愛の不時着」にも出演している天才子役である。

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無条件に美しい10代という春

思い描いていた世界に違和感を感じながら、つまり人生とはこんなものなのかという現実を目にすることによる絶望と僅かな希望。誰しもが10代の頃に経験した「夏の時間」は人生の中で特別な時間としてそれぞれの胸の中に刻まれているのではないだろうか。

ドイツ出身のアメリカの詩人 サミュエル・ウルマンは“青春とは人生の時期ではなく心の若さ、持ち方である”と言う。しかし私はそうは思わない。それは年を重ねる己に対して無理くり肯定しているただの中二病な大人のこと。人の一生の中で最も美しいとき、すなわち青春は、やっぱり10代だと。体格や人格が形成される途中段階、瑞々しく、もう無条件に存在そのものが美しい。反面、多感で悩み多い時期でもあるが、“若い”ということは無限の可能性に満ちている。こうした豊かな感受性と創造性に満ちた美しい春の時代。過ぎ去ってみて改めて分かる“青春”が蘇る。

しかし、本作は青春映画とは少し違う、もっと内省的な、少女の心のうちを繊細に映し出す文学的な作品だ。観終わったあとにはじわじわと静かな余韻が残る。

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夏時間

監督・脚本・製作:ユン・ダンビ
キャスト:チェ・ジョンウン、ヤン・フンジュ、パク・スンジョン、パク・ヒョニョン
製作:2019年製作/105分/韓国
原題:Moving On
配給:パンドラ

文/ごとうまき