【インタビュー】「80歳からは“怪談じじー”目指すは愛される“妖怪”」稲川淳二が語る、79歳最後の夏と『怪談ナイト2026』の境地

インタビュー
2026年の夏、日本の夏の風物詩『MYSTERY NIGHT TOUR 2026 稲川淳二の怪談ナイト』が幕を開ける。1993年のスタート以来、30年以上にわたり全国に恐怖と感動を届けてきた本ツアー。今年は「79歳、70代最後の夏」として、史上最多となる全国39会場57公演を巡る。独自の怪談文化を築いてきた座長が、今シーズンの見どころと怪談が持つ本当の温もりについて語っていただきました。

ツアー史上最多「57公演」への挑戦

――今年8月で79歳を迎えられますが、史上最多の39会場57公演という意欲的なスケジュールです。

稲川
もっと会場を多く回りたいとずっと思っていたんですよ。夏はイベントが多くて会場が空かない。スタッフが頑張って調整してくれた結果、終わる頃には冬になっちゃうような日程になりました。体力的な不安? まだまだありますよ。私は別に楽しようと思っていない。「いい意味での苦労」をしたいんです。

――毎年完全新作で披露される怪談、今年の手応えはいかがですか。

稲川
話は本当に難しくて、最初に考えた3本はボツにしました。つらいけど妥協はしたくない。今年の核になる一番長い話はね、「ひんやり」じゃない。本当に「寒い」んですよ。私はいつも「怪談は事件じゃない」と言ってきましたが、今年のはかなり事件・事故に近い。障がいを持ったお子さんや年老いた親を懸命に介護していても、心のどこかに「逃げ出したい」という気持ちが芽生えることがある。相手への愛情に少しずつひびが入っていく……人間の業(ごう)のようなものです。「あまり言うとネタバレ」なんですが、これをやらないと私、すぐ80歳になっちゃう。70代のうちにケリをつけたいと思って、今年挑戦することにしました。

他にも、2年かけてアメリカのニュースを調べ上げた不思議な事件の話など、全体でバランスのいい構成になりそうです。

怪談は主役にしちゃいけない

――長年ツアーを続ける中で、怪談の本質についてどうお考えですか。

稲川
怪談って、昔の雪深い北国でお年寄りが子どもたちに語って聞かせる、日常のすぐ隣にあるものなんです。だから「怪談は主役にしちゃいけない」と思っている。部活の帰りに「ちょっと怪談しようぜ」っていう、何かのついででいい。その何気ない日常の隙間から盛り上がっていく感じが嬉しいんです。うちのお客さんは終演後もすぐ席を立たない。ゆっくり余韻を楽しんでくれる。このツアーは「縁日」なんです。私は「縁日のじいちゃん」でいい。

仙台の会場で起きた、忘れられない奇跡

稲川
 怪談は人を繋げてくれるんですよ。ある年、仙台の常連の男の子から「いつも一緒に来ていた親友が亡くなった。臓器提供をしたので命はどこかで生きている。前を向けたら、あいつを連れて必ず戻ります」という手紙が届いた。二人で笑っている写真も入っていて、切なかったですね。

稲川
 2年後の仙台公演。彼がいつもの席の隣に誰かを連れて「帰ってきたよ!」と笑ってくれた。ツアー後にファンレターを整理していたら、「もともと怪談に興味はなかったが、無性に来たくなって仙台の前から2列目に座った。私は数年前に臓器提供を受けて命を救われた者です」という手紙が。お互い知らないはずなのに、亡くなった彼の臓器を受け継いだ人が、同じ日の同じ席の隣に座っていた。男の子二人が並んでいるように私には見えた。「あいつ、連れてきてもらったんだな」と思ったら、手紙を持ったまま涙が止まらなくて。怪談をやっていなかったら、こんな魂の触れ合いは分からなかった。

――デジタル全盛の時代に、語り一本で勝負し続ける理由は?

稲川
 特別なことじゃない。ただ、言葉の含みや「感性のある美しい言葉」を語りを通して残していきたい。怪談は暴力や脅しじゃない、「情」が産むものだから、残るのは温かさなんです。

舞台に立ったら客席の皆さんに「こんばんは」じゃなくて「ただいま!」って言うんです。皆さんが「おかえり!」って返してくれる。80歳からは「怪談じじー」でいこうと思って。田舎の風景の中にポツンといて昔話を語ってくれるじいさん。そんな存在になりたいですね。

まずは今年の夏、あの劇場だけの不思議な空間へ、ぜひ楽しみに来てください!

【公演情報】
MYSTERY NIGHT TOUR 2026 稲川淳二の怪談ナイト
• 大阪公演: 2026年8月20日(木)〜23日(日) 森ノ宮ピロティホール
怪宴
• 奈良公演: 2026年10月24日(土)
怪宴16:30 なら100年会館 大ホール
• 兵庫公演: 2026年10月25日(日)
怪宴15:30 アクリエひめじ 中ホール
• 公演詳細: キョードー大阪 公式サイト

取材・文・撮影:ごとうまき

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