【城 南海インタビュー】14年で変化した音楽との向き合い方「自分らしく、自由に音を楽しめるように」

アーティスト

 包み込まれるような優しい歌声と抜群の歌唱力、豊かな表現力で聴く人の心を掴む奄美大島出身の稀有なシンガー・城 南海(きずき みなみ)。2024年にデビュー15周年を迎えるにあたり、今年からテイチクエンタテインメントに移籍。更なる高みを目指すべくスタートを切った。数々のヒット曲(「トイレの神様」「木蘭の涙」他)を手がけた作詞家・山田ひろしをリリックプロデューサーに迎え、配信3作品をリリース。そして7月19日にMISIAの「everything」や「忘れられない日々」などの作曲家・松本俊明を迎えて、第一弾の「柔らかな檻」がリリースされた(第二弾の配信は2023年9月、第三弾の配信は2023年12月に。そして2024年1月には15周年記念アルバムがリリース予定)。城の新たな魅力が詰まった「柔らかな檻」をはじめ、自身の内面の変化や音楽への向き合い方について聞かせてもらった。

聴く人によって印象が変わる楽曲

── 「柔らかな檻」は、詞の世界観が大きくて深いですね。この曲は聴く人によって解釈も異なると思います。詞を読んだ時の心境を、どのように受け止めていますか?

自身の内面に訴えかける歌だと思いました。自分の覗かれたくないところをクッと開けて、スッと入ってきてくれたような感覚。それに自分自身と重なる部分が結構あるんです。私は子どもの頃に転校し続けて、ずっと“いい子でいなきゃいけない″と思っていたことや、自分の気持ちをどう表現したらいいかわからない時期があって、フレーズ一つ一つが身に沁みましたね。作曲の松本俊明さんとは親交があり、私のことを知ってくださっています。もしかして山田さんが松本さんから私のことを聞いて何か感じ取って書いてくださったのかもしれませんね。 
 

──“私の中で泣いている ちいさなちいさな女の子”の部分はインナーチャイルドについて書かれているのかなと思いました。

そう受け取る方もいらっしゃいますね。ファンの方から頂いたメッセージには、性的マイノリティや差別に苦しむ人に向けてのメッセージだと感じた方もおられて、聴く人によって受け取り方が違うということを実感しています。歌詞の最後の部分″いいこ もういいよ”も、私は慰めて、抱きしめるような気持ちで歌っていますが、もういいよ!と突き放すように歌うこともできます。それぞれの捉え方によって印象の変わる曲です。 
 

──リリックプロデューサーに山田さんを迎えてアルバムに向けて3曲リリースされるとのことですが、山田さんとはどのようなやり取りをされていますか?

山田さんには、2013年にリリースした「アンマ」の詞を書いていただきましたが、お会いするのは今回が初めて。一緒に奄美料理屋に行っていろんな話をしたり、私が奄美に帰った際には景色の写真を送ったり、私の思い出を箇条書きで送ったりとコミュニケーションを取りました。こういったやり取りからも山田さんはインスピレーションを得て書いて下さったのだと思います。 
 

今作は城にとってのチャレンジ曲

──今作は城さんにとってチャレンジ曲とのことですが、具体的にどんなところでしょうか?

今作のように内面に訴えるかけるような言葉の楽曲を歌うのは初めてです。山田さんもこのような歌詞を書くのは初めてとのことで、この曲は自分にとって怖い曲だとおっしゃっていました。普段あまりしないような仮歌での録音を3回くらい重ねて制作し、歌い方や表現の仕方もこれまでとは違った感じに。 

── 表現はどのように意識されていますか?

歌い上げずに、喋るように歌っているので、今回は小節もあまり入れていません。詞の言葉が強い場合、歌い上げると拒否反応を示す人もいると思うのですが、このような強い言葉を歌う時は、歌い上げずに等身大の裸の声で歌うのが良いと思うんです。 

──サビで転調する曲、曲を聴かれた時はいかがでしたか?

実は今作は詞が先にでき上がって、松本さんが詞に対して楽曲を2曲書いて下さったんです。もう一つは優しいメロディーの曲で。結果、マイナー調のこの楽曲の方が合うとのことで今の曲になりました。大先生が2曲も書いてくださるなんて!有り難かったです。そして出来上がったメロディーに対しても山田さんが書き足したりして、それぞれの先生の力によって化学反応が起こりました。 

──3人が1つのチームとなって作り上げているのですね。

レコーディングのディレクションは編曲の松岡モトキさんがしてくださって、レコーディング時も、松岡さんにご挨拶をした際も、松本さんが横でしっかりと私の紹介をしてくださって。誰よりも私のことを知ってくださっている心強い存在で、周りにやる気を起こさせてくださいます。3人が集まると同窓会のようにおじさんトークが繰り広げられてました(笑)。

 

闘志に燃える!自分らしい音楽を楽しみたい!!

── 今年テイチクエンタテインメントに移籍されましたが、移籍後は心境の変化などありますか?

とても楽しみです。今回の大阪キャンペーンも10周年のキャンペーン以来で。その間にコロナがあって、歌えること、ライブができることの素晴らしさや有り難みを再確認しました。皆さんへの感謝の気持ちを伝えながら、自分のやりたい音楽、自分らしい音楽を楽しみたいと、メラメラと燃えています。 

── 今後やってみたい音楽……たとえばどんな音楽ですか?

曲も作りたいし、フェスで踊れるような曲もやってみたいですね。土っぽい民族の香りがする曲で奄美とも共通点があるアイルランド民謡がすごく好きで、アイルランド民謡とのコラボレーションもしてみたい。奄美のシマ唄を広めていくためにも、自分にできる広め方を模索しながら挑戦していけたらと思います。

── 9月30日(土)にはライブ「城 南海×笹川美和 duoでduoアシビ〜十六夜〜」が渋谷duo MUSIC EXCHANGE で開催されます。

15周年に向けて盛り上げるライブ企画。デビューから親交のある人や好きなアーティストさんをお呼びして、渋谷duoでセッションします。笹川美和さんは私が中学生の時からずっと大好きで聴いていたアーティスト。これまでに楽曲も2曲書いていただき、それ以来、互いのライブにゲスト出演しています。だけどツーマンライブは初めてで。自分の呼びたい方にお声がけして、皆さんにご快諾いただきセッションできるという、すごく幸せなライブ企画。これまでの15年の軌跡を振り返り、さらにこれからに向けてのパワーをもらえるduoライブです。

── 城さんの美しく、聴くだけで浄化されるような歌声……この歌声を維持するためにどのようなことを意識されていますか?

2019年に一度ポリープを切除していて、その時に自分らしく歌わないと身体が反応するんだということを痛感しました。なので、今は自分らしく歌うようにすることを心掛けています。あとは上京してからハウスダストアレルギーになってしまって。奄美に帰ったら、自然のエネルギーを沢山もらって海に浸かると、すぐに良くなるんですが、東京に戻るとまた症状が出てしまう。部屋をキレイにして、あまり空気が良くない場所には行かないようにしています。 

この14年間、無駄なことは一つもなかった。

── 来年で15周年ですが、デビューしてからこれまでを振り返っての今の心境は?

あっという間でしたね。10周年のときもあっという間だと感じましたが、この3年間はコロナがあったからなのか、さらに早く感じます。辛い時期もあったけど、着実に一歩一歩進んで来れたのかな。こうしてアシビのライブやツアーにファンの皆さんが遊びにきてくださるのも、これまでの経験が全て繋がっているのだと思います。 

── 10代でデビューされ、歌への向き合い方はどのように変化しましたか?

これまで自分が歌ったものを聴き直すと、歌い方や声も変わったなと感じますね。奄美の音楽や魅力を伝えたいという思いで、カバーを出したり、カラオケ採点番組などいろんな事にチャレンジしてきました。その中で自分の表現方法が少しずつ見えてきて、特に“自分らしさ”にフォーカスし始めたのが2019年ぐらいから。森山直太朗さんが書き下ろしてくださった「産声」によって、これまで自分が勝手に背負っていたものを下ろすことができました。 

── 「産声」をきっかけに歌への向き合い方や価値観が変化したのですね。

まだ完全にではないですが、これまで自分を縛っていたものから少しずつ解放されましたね。今の自分を肯定できるようになったし、もっと自由に音を楽しんだらいいのだと。だからライブも前よりも楽しくなって。今後はお客さんと一緒にもっと楽しめるようなライブにしていきたいですね! 

── 城さんらしさ、等身大の自分を出せるようになったと。その心境の変化が「柔らかな檻」の楽曲にも表れているのですね。

そうですね、「柔らかな檻」も、映画『ムーラン』の日本版主題歌「リフレクション」も自分に重なるところがあります。こういう楽曲をいただけるのも今の自分に合ったタイミングなんだなと思っています。これからも自分らしさを大切に表現しながら、奄美の音楽や魅力を届けていきます。

城 南海オフィシャルサイト (kizukiminami.com)

インタビュー・文・撮影:ごとうまき