【インタビュー】湖月わたる、退団20周年の荒野に咲く一輪の「タンブルウィード」として。盟友・荻田浩一と描く、終わりなき挑戦の軌跡。

コンサート

2006年、惜しまれつつ宝塚歌劇団を卒業した湖月わたる。その圧倒的な存在感とダイナミックなダンス、そして温かな人間性でファンを魅了し続けてきた彼女が、2026年11月、退団20周年という大きな節目を迎える。

記念すべき公演のタイトルは『TUMBLEWEED(タンブルウィード)』。演出に宝塚時代からの盟友・荻田浩一を迎え、かつて自身が演じた伝説の女性ガンマン「カラミティ・ジェーン」の物語を軸に、朗読、ダンス、歌を融合させた新たな表現に挑む。
20年という歳月を経て、いま再び「ジェーン」と出会う意味とは。そして、風に吹かれながら形を変え、進み続ける彼女が見据える未来とは。

20周年の節目に、再び「魂の役」と巡り合う

――まずは今回の公演『TUMBLEWEED』が決まった経緯からお聞かせいただけますか?

湖月
20周年という節目に、宝塚時代から深いご縁のある荻田浩一さんに演出をお願いし、彩凪翔さん、朴璐美さん、そして素晴らしいスペシャルゲストの皆様のお力をお借りして、この公演をお届けできることになりました。
きっかけは、私が近年取り組んできたダンス公演のシリーズの中で、「いつか、これまでの歩みをすべて盛り込んだ記念の作品を作りたいね」というお話をしていたことでした。いよいよ20周年という時、荻田先生にご相談したところ、快く引き受けてくださって。荻田先生は私の初主演作(『夜明けの天使たち』)の演出家デビュー作でもあり、私の「カラミティ・ジェーン」を二度も観てくださっている、まさに私の転機を知る恩人。話し合いを重ねる中で、私自身が「もう一度出会いたい」と願い続けてきたジェーンの生き様をモチーフに、作品を作っていくことになりました。

――「カラミティ・ジェーン」は、湖月さんにとって非常に思い入れの強い役ですよね。

湖月
そうなんです。退団して2年目、最初に出会った時の衝撃は忘れられません。ミュージカル版のジェーンは結婚してハッピーエンドで終わるものが多いのですが、私が出会ったフランス版の物語は、結婚、出産、離婚、そして子供を手放し、再会と別れを繰り返しながら亡くなるまでを描く、一人の女性の壮絶な半生でした。
不器用で、まっすぐ歩こうとしても空回りしてしまう。けれど、何事にも懸命で、命を燃やして生きる彼女の姿に、私は一瞬で惚れてしまったんです。4年後に再演しましたが、それから気づけば15年。大掛かりな舞台ではなくても、今の私だから表現できる「ジェーンの生き様」に触れたいという思いがずっと胸の奥にありました。

「タンブルウィード」に込めた、変化し続ける意志

――タイトルにもなっている『TUMBLEWEED(タンブルウィード)』。日本語では「回転草」とも呼ばれますが、この言葉に込めた思いを教えてください。

湖月
これは荻田先生が提案してくださった言葉です。西部劇などで、枯れた枝が丸く絡まって、砂漠をゴロゴロゴロ……と風に吹かれて転がっていく、あの植物のことですね。
風に吹かれるまま、道に向かって姿を変えながら前へ、前へと進んでいく。それは、私が20年間、様々なジャンルの表現に挑戦してきた姿と重なります。また、今回の物語の舞台であるアメリカ西部のイメージにもぴったりだと思いました。形は変わっても、根底にある魂は変わらずに転がり続ける。そんな私の今の心境を象徴するタイトルです。

――この20年間、振り返ってみていかがですか? 在団中よりも、退団してからの時間の方が長くなりましたね。

湖月
本当に、あっという間でした! よく仲間内でも「どっちが長く感じる?」という話になるのですが、私は圧倒的に「卒業後」の方が早く感じます。目まぐるしく、いろいろな作品、いろいろな方々との出会いがありましたから。
最初はダンス公演からスタートし、宝塚100周年の時にはOG公演で再び楽曲に向き合い、『シカゴ』ではニューヨークのカンパニーと挑戦させていただく機会もありました。最近では、朴璐美さんが演出された朗読劇で『平家物語』の知盛を演じるなど、自分でも想像しなかったような新しい扉を次々と開けていただいた20年でした。

盟友・朴璐美との再会が生む、新たな化学反応

――今回、キャストとして朴璐美さんの出演も話題になっています。共演のきっかけは?

湖月
2018年のコンサートで初めてご一緒したのですが、隣で朴さんが台本を読まれた瞬間、その声の存在感と、一言に込められた感情の奥深さに、言葉を失うほどの衝撃を受けたんです。「こんなに素敵な方がいらっしゃるなんて!」と。
その後、昨年朴さんが演出される作品に呼んでいただいたのですが、彼女の作り出す世界の凄さ、スタッフや演者を引きつける熱意に改めて惚れ込みました。特に、密な空間でお客様と向き合う小劇場の魅力を教えていただいたことは、私にとって大きな財産になりました。今回、同じステージの上で一緒に世界を作れることが、今から楽しみでなりません。

――第2部では、宝塚時代の縁ある方々がゲストとして登場されますね。

湖月
はい! 稔幸さんはじめ、私を支えてくださった大好きな皆様が集まってくださいます。それぞれの皆様とどのようなトークや絡みになるのか、まだ荻田先生の頭の中にある段階ですが(笑)、当時の思い出話はもちろん、今の私たちらしい「おしゃれ」なステージにしてくださるはずです。長年応援してくださっているファンの皆様には、「この組み合わせで何が飛び出すのか」をぜひ楽しみにしていただきたいです。

踊ることは、演じること。肉体と感情の進化

――湖月さんといえばダイナミックなダンスが魅力ですが、20年を経て、ダンスに対する捉え方に変化はありましたか?

湖月
昔から「踊ることは演じること」だと思ってきましたが、その二つが完全に重なり合ったと感じたのが、昨年の『マ・カレ・ド(舞・飾・土)』という作品でした。
若い頃は勢いでいける部分もありましたが、長く続けていくためには、より深く自分の体と向き合わなければなりません。地味な基礎練習やケアを地道に積み重ねることで、やっと見えてくる表現がある。今回の公演に向けても、今、ロンドンで振り付けのメソッドを学び、制作の準備を進めています。感情の動きを体で表現する、単に「踊る」のではなく「役を生きる」ダンスを、今の私の体で体現したいと思っています。

――ちなみに、退団時に抱いていた「夢」で、まだ叶えられていないことはありますか?

湖月
そうですね……(笑)。私、スキーやサーフィンなどのスポーツが大好きなんです。でも、ダンスを続けている以上、怪我は絶対に許されません。バレエの恩師からも「スキーなんて絶対ダメ!」と言われて育ってきましたから。表現活動に支障が出るようなアクティビティは、まだしばらくお預けになりそうです。それだけ、私にとって舞台に立つことが何よりの優先事項なのだと思います。

20周年を共に歩む皆様へ

――今回の公演を通じて、お客様に一番伝えたいメッセージは何でしょうか。

湖月
感じ方は、お客様お一人おひとりに委ねたいと思っています。私自身、劇場の観客席にいる時に、舞台から魂を揺さぶられるような感覚をいただくことがあります。今回の『TUMBLEWEED』も、観てくださった方の背中を少しだけポンと押せるような、そんな作品にしたい。
20年前のジェーンに出会った頃よりも、今の私はもっとシンプルに、楽に、そして「女性らしく」言葉を発せられるようになっていると感じます。不器用でも懸命に生きるジェーンの姿を通して、20年分の感謝をお届けしたいと思います。

【公演情報】
湖月わたる 宝塚歌劇団退団 20th Anniversary『TUMBLEWEED』
2026年11月上演
兵庫:宝塚バウホール
東京:よみうり大手町ホール
愛知:御園座
構成・演出:荻田浩一
出演:湖月わたる、彩凪 翔、朴 璐美 ほか

取材・文・撮影:ごとうまき