【今泉力哉監督作品】サブカルの街 下北沢を舞台にした群集劇『街の上で』

エンタメ

今作も今泉力哉ワールドが全開!

東京 下北沢を舞台に繰り広げられる 若者たちの恋愛や愛おしい日々を切り取った群衆劇。

小田急線の地下化に伴い再開発が進む下北沢駅周辺の2019年の姿を背景に写し込んだ本作の公開は、コロナ禍の影響により2020年5月から今年4月9日に延期されている。

あらすじ

元ミュージシャンで古着屋の店員をしている青(若葉竜也)は人生で初めてできた彼女の雪(穂志もえか)に振られた。そんなある日、美大生であり映画を作っている町子(萩原みのり)から映画出演の依頼を受けて青は古書店の店員の冬子(古川琴音)に演技の練習に付き合ってもらう。映画の衣装担当のイハ(中田青渚)と撮影後の打ち上げで意気投合し、イハは青を自宅に招き二人は恋バナで盛り上がる・・・。それぞれの物語が交差し紡いでいく。

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

 

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

シモキタ愛と人間愛が溢れる作品

本作は共同脚本に漫画家・大橋裕之(「音楽」「ゾッキ」)を迎えて、東京・下北沢でのオールロケ撮影&オリジナル脚本で制作、市井の人々の様々な恋愛模様や恋愛観を浮き彫りにしている。また“下北沢の日常”をシモキタらしいサブカルと共に、今泉監督らしいユーモアや優しさで包み込みながら街の魅力も伝えている。それもそのはず、本作は「映画祭で披露する映画を、下北沢を舞台にして撮ってほしい」という下北沢映画祭からのオファーによって作られた。どこかノスタルジック漂う、最高に笑える作品になっている。

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

別れた恋人の事が忘れられない男性

浮気をして元恋人の良さに気付く女性

歳の近い姪っ子に恋をする警察官

いつも好きになるのは既婚者という女性

役作りのために必死に太る男性

気持ち良いくらいに物事をはっきりと言う関西弁の女性

小生意気な美大生の映画監督

彼女に振られても合鍵を持ち続ける男性・・・

 

『愛がなんだ』や『his』のように「色んな恋愛があっていいよね」「こんな恋愛でも最高じゃん!」という今泉監督の全肯定が作品に表れているから、彼の作品はどこか温かくって瑞々しい。そして日頃、ちょっとした出来事で私たちの感じている”言語化できない気持ち”をカメラのアングルや台詞、間、演出などで巧みに表現している。

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

壊されてはつくられ、時代とともに移ろいゆく街のように、我々もいつか消えて無くなる存在。しかし確かに存在している、街も人も恋も仕事も友情も。人々の気持ちのズレや、喜びや悲しみ、温もりや冷たさもー

劇中のように、気軽にライブハウスや劇場に行ったり、ふらっと入ったバーやカフェで知らない人たちと語り合ったりするような”普通の日常”が、「いつかまた…」という思いを馳せる日常に一変した。だからこそ愛おしいんだ、もう戻らないが確かに存在した日々が。

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

今作も今泉監督作品でお馴染みのキャストたちが脇を固める。今泉監督作品に出演するキャスト陣はどこか親近感があり味のある役者さんが多い。そのため観るものにリアル感を与え、より共感を生むのかもしれない。長回しシーンやカットをほとんど割らない、”間”を見せるシーンは下北沢の小劇場に対するオマージュではなかろうか。

本作からあふれ出すユーモアと人間臭さ。可笑しくて愛おしくて、観た後は誰かと思いっきり語り合いたくなるような、そんな作品だった。

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

街の上で

監督:今泉力哉
脚本:今泉力哉 大橋裕之
キャスト:若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚、成田凌
製作:2019年製作/130分/G/日本
配給:「街の上で」 フィルムパートナーズ
文/ごとうまき