【野中さおりインタビュー】「人の輪を広げてくれる新曲とともに、今後も生のステージを大切にしていく」

アーティスト

艶っぽい歌声と笑顔がトレードマークの演歌歌手・野中さおり。彼女のデビュー35周年記念シングル「花絆」が2023年5月31日に発売された。今作は、アップテンポな「花絆」とは対照的なカップリング「恋月」とともに、彼女にとって挑戦曲となる。関西プレスには2回目の登場となる野中さんに、新曲をはじめ、今の思いを語っていただきました。

花と笑顔をテーマにした「花絆」

── デビュー35周年記念シングル「花絆」が5月31日に発売されましたが、これまでにどのような声をいただいていますか?

野中
生のステージを観たくても観れなかった時期があって、さらにアップテンポな曲なので、皆さんとても楽しく、笑顔で聴いてくださっています。“さおりコール”を考えて入れてくださったり、ファンの皆さんが団結して、仲良くなっていく姿を見ていると、こちらまで嬉しくなります。そんな力がこの作品にはあるんだと実感しています。

── 表題曲でアップテンポな楽曲は今回が初めてとのことですね。

野中
そうなんです。感謝や絆を笑顔で歌えるように徳久広司先生が考えてくださいました。初めはワルツも候補に上がっていましたが、笑顔で歌うとなるとアップテンポの曲がいいと。ただ、今までやってこなかったタイプの曲なので発売が近づくと不安もありましたが……。この曲にしていただいて良かったです。

── この曲を初めて聴かれた時の印象は?

野中
徳久先生は私が登場するシーンなどを想像してイントロを考えてくださいました。私も初めて聴いた時は、ステージの景色が浮かびましたし、レコーディング時もステージに立った自分や皆さんを想像しながら楽しくレコーディングができました。

──「花絆」、カップリング曲「恋月」を菅 麻貴子先生が作詞されましたが、詞についてはどのように感じておられますか?

野中
私自身、笑顔で感謝の気持ちを伝えられるような歌を歌いたいと思っていた時に、菅先生が書いてくださったんです。まさに私が歌いたかったもので、運命を感じました。私の気持ちがしっかりと投影されているので、歌っているといろんな感情が込み上げてきますよね。レコーディングでもこれまでお世話になった方の顔が浮かんできて、笑顔で歌いながらも泣きそうになりました。

──「花絆」を歌う中で意識されていることは?

野中
アップテンポな曲なので、曲に感情を入れすぎずに笑顔で歌うこと、リズムをしっかりと感じて歌うことが大切です。身体で感じて歌うことで七五調で書かれた言葉もはまっていきますよ。

── 日本舞踊をされている野中さんが魅せる「花絆」の振りもとっても美しいですね。

野中
皆さんにも真似してもらえるような振りつけを日舞の先生にしていただきました。日舞はデビュー当時から習っていますが、昔から古典芸能などが好きなんです。

カップリングは今までやってこなかった“気怠い(アンニュイ)女うた”

──カップリング曲の「恋月」はタイトルは似ているものの、曲は対照的ですね。

野中
徳久先生が「さおりには、これまで艶っぽい女うたを沢山書いてきたけれど、気怠さを表現した女うたはやっているようでやっていなかったな」と。表題曲がアップテンポな曲ならば、カップリング曲は気怠さを表現した女うたになっています。私にとって両曲とも初めての取り組みとなりました。

── 艶っぽさの中の気怠さってちょっと難しいようにも感じますが。

野中
イントロから胡弓の音色が誘ってくれるので、作り上げることなく、歌に自然に入っていけます。表題曲とはまた違う女性像なので、楽しんで歌っていますよ。「花絆」「恋月」とタイプが違う曲だからこそ、両曲を課題曲にしてくださるお教室も結構あるみたいで大変嬉しいです。

── 両曲とも初挑戦とのことで、難しかった部分はありますか?

野中
普段は考えすぎるくらいに考えて、眠れなかったりする時もあるのですが、今回は自然とスッと入っていくことができました。菅先生が私をイメージして書いてくださったので、自分に置き換えながら歌っています。

男うたを歌ってきた経験は宝

── デビューしてから5年間は男うたを歌ってこられました。最近ではデビュー当時の曲を歌っておられますが、今歌うことで気づいたことや心境の変化などはありますか?

野中
デビュー時代に男うたを歌っていて良かったなと思います。あの経験は宝物だし、お陰で歌の幅も広がりました。ここ最近ファンになってくださった方は、私が男うたを歌うイメージがないみたいで、男うたを歌うことで新たな私をお見せできるのではないかと思っています。

── 人生経験を積むことで、歌詞の捉え方も変わり、歌に思いが乗りますよね。

野中
デビュー当時はただ歌を歌っているという感じでしたが、今はとても楽しみながら、感謝しながら歌っています。男うたは人生の応援歌が多いので、自分はもちろん、聴いてくださる皆さんにも応援歌としてお届けしていきたいです。

── 野中さんの艶やかで伸びやかな歌声を維持する秘訣は?

野中
やっぱり乾燥は大敵です。コロナ禍に関係なく、マスクは年中しているので、コロナ禍でもあまり変わらなかったんですよ。就寝時もマスクをして寝ています。あとは刺激物もなるべく避けるようにしています。辛いものが苦手でお酒も全く飲めないのもあるのですが。

35年を振り返って

── 2024年1月で35周年、デビュー当時から歌に対する姿勢や意識はどのように変化しましたか?

野中
デビュー当時はただただ歌が好き、という気持ちで歌っていました。デビュー3年目の頃に、島倉千代子先輩とNHKの番組でご一緒して、その時に「歌手は5年経った時からがスタートよ。まずは5年を目指して頑張りなさい」というお言葉をいただきました。最初はその言葉をきちんと理解していなかったのですが、偶然にも5年目で「雪国恋人形」という代表作と出会い、ステージや歌への責任が芽生え、見にきてくださっている方へきちんとお応えをしようと思えるようになりました。

── 10年、20年と節目節目でまた変化もありましたよね。

野中
10代、20代、30代と歳を重ねる度に、少しでも皆さんにメッセージを届けたいと思うようになりました。皆さん自身の人生と重ね合わせながら私の曲を聴いてくださいますので、これからも言葉の一つでもいいから、心に刺せばいいなと思っています。

辛い時こそ笑顔を大切に

── 野中さんのチャームポイントでもある素敵な笑顔。常に笑顔を意識するようになったきっかけは?

野中
4作目の「女将一代」は、静岡県伊豆稲取の旅館・銀水荘の女将さんの自伝をもとに描いた歌なんですが、その女将さんの当時10代だった私にかけてくださった言葉が今の私を作ってくれているのかもしれません。「さおりちゃん、辛い時ほど笑顔でいるのよ。笑顔でいる人には必ず良い人がついてくるからね。」と。一代で築かれた女将さんの言葉は説得力があります。

── 今後の目標や挑戦したいことはありますか?

野中
プライベートでは、最近バドミントンを始めました。近所の土手でお友達と一緒に運動を楽しんでいます。まだ数回しか続いていないのですが(笑)、身体を動かして、リフレッシュしながら良い歌を届けていきますね。

野中
歌に関しては、これまではいろんなジャンルの曲を歌わせていただきましたが、今後もジャンルを問わず新たなものにどんどん挑戦して、ファン層を広げていきたいです!そして今、いろんなところを回らせてもらっていますが、「あの時のコンサートに行っていたんですよ。」という人に立て続けにお会いすることがあって……、その時のコンサートのチケットをファイルに入れてくださっている方もいるんです。やっぱり生のステージを続けていくことって大切なんだと痛感しています。今後も一つでも多くのステージに立てるように努力を重ねていきますので、これからもよろしくお願いします!

インタビュー・文・撮影:ごとうまき