【大貫勇輔インタビュー】ミュージカル『マチルダ』共感できなかった悪役も、今では役を楽しんでいる。

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大ヒットミュージカルが日本オリジナルキャストで初上演!

英国を代表する劇団ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが2010年に製作し、瞬く間に人気作となった大ヒットミュージカル『マチルダ』が、5月28日(日)〜6月4日(日)まで梅田芸術劇場メインホールにて上演される。原作は『チャーリーとチョコレート工場』でも有名な英国の国民的な作家、ロアルド・ダールによる英児童文学『Matilda』(邦題は『マチルダは小さな大天才』)。5歳のマチルダが自分の力で大人たちに仕返しを試み、自分の運命や周りの未来を変えていく姿に勇気をもらえる。まさに大人も子どもも虜になる作品だ。
今回は暴力で学校を支配する恐ろしいミス・トランチブル校長を演じる(トリプルキャスト)大貫勇輔さんが取材会に出席。
大河ドラマ『どうする家康』では、浅井長政を演じ、その熱演ぶりが話題に。舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』では、新ハリー・ポッター役で出演が決定するなど話題作に出演する大貫さんに『マチルダ』大阪公演に向けての意気込みや作品の魅力を語ってもらいました。

気づけば涙が溢れている── 。ノスタルジックで心揺さぶられる作品

── 東京公演を終えられての感想、大阪公演に向けての意気込みを教えてください。
大貫
『マチルダ』という作品が日本でまだ広く知られていなかったため、公演が始まった頃は券売が厳しかったのですが、最後の一週間は客席がいっぱいで、とても嬉しかったですね。観てくださった方達が宣伝してくださったり、何度も観てくださった方もいて、作品の持つ力を実感しています。休日は大勢の子ども達が観にきてくれました。ゲラゲラ笑ってくれる子もいたり、お客さまの笑い声が循環してエネルギーとなる。大阪公演でも多くの方にこの作品の素晴らしさが伝わることを願っています。
──『マチルダ』はどんな作品で、どのようなメッセージが込められていますか?
大貫
″自分自身の力によって環境や運命は変えられる″というメッセージが込められています。天才少女・マチルダが過酷な家庭環境の中でも自分の信念を貫き、勇気と少しの悪戯心を持って未来を切り開いていく姿に、誰もが心揺さぶられると思います。そして、トランチブルに抑圧されていた子どもたちや周りの大人が、マチルダを通して変わっていく姿に、観る人達も何かを感じるのではないでしょうか。子どもや自分の可能性を感じたり、新たな発見がある。沢山のメッセージが詰まった作品です。
── 作品の中でロイヤル・シェイクスピア・カンパニーらしさを感じる部分はありますか?
大貫
ミス・トランチブルを男性が演じるというところ、非現実的なものが混在することで悪いことを言っても、シニカルなジョークになる部分でしょうか。そして言葉の難しい言い回しはシェイクスピアらしさを感じます。この作品を通して、芝居の間尺や、台詞をきちんと伝えることの大切さを実感しています。素晴らしい作品に出会い、俳優冥利に尽きますね。

共感できない役ではある一方で、演じる楽しさも見出せている。

── 大貫さんが演じるミス・トランチブル校長はどのような人ですか?
大貫
元ハンマー投げのオリンピックの選手で、とても意地悪な校長先生です。見た目も美しいとは言えないのですが、妹が才色兼備で、妹に対する劣等感がすごいんです。なぜこんなに意地悪な性格になったのか、と考えたんですが、彼女は親からとても厳しく育てられたんじゃないかなと。そして規則を守ることを叩き込まれて育ってきた。だけどオリンピックの試合で自分が反則して金メダルを逃してしまう……。恨みつらみ嫉み、いろんな経験や思いが重なり、ミス・トランチブルという人間が作られたのだと思います。
── 役作りにおいて苦労されたとのことですが。
大貫
台本を読んでいて、何一つ共感できませんでした(笑)。チラシの撮影の時も、果たして自分はこんな嫌な役を務められるのか、といった不安もありました。稽古が始まって2週間ぐらいは苦労しましたが、いつの間にか自然と台詞が自分の中に定着しました。そこから楽しんで役を演じています。
──ミス・トランチブルを演じる上で、特に意識されていることは?
大貫
″狂気″を感じてもらえるように演じています。彼女は過去にある悪事をしていたので。また、演出の方には100倍くらい誇張して役を演じてほしいと言われました。というのも、マチルダ以外の大人たちは、あくまで″マチルダから見た大人″だということ。大人が見ている世界観と子どもが見ている世界観は違いますよね。子どもの頃の人やモノの見え方って大きいし高いし、広かったりするので。いま僕が演じているミス・トランチブルはマチルダから見た姿であり、もしかしたらもっと普通の人だったのかもしれません。
──観る人によっても受け取り方が違う。深い役柄ですね。普段演じることが少ない悪役、演じていかがですか?
大貫
痛快です(笑)。ようやく本番の途中から役を楽しめるようになりました。なにせ悪口しか言っていないので、初めの頃は、自分自身演じながら“俺いま何を言っているんだっけ?”って、台詞を間違えないように集中していました。あと、共演している子どもたちの反応も楽しんでいます。子ども達はとても素直で反応もリアル。良いお芝居を投げると、きちんと受け取って返してくれる。反対にいい加減にするといい加減に返ってくるから、常に緊張感と新鮮味があります。

撮影:田中亜紀

うっとりするナンバー、ミュージカルならではの魅力が沢山。

── 改めて、大貫さんから見た本作の見どころや注目ポイントを教えてください
大貫
特に二幕での約7分ある体育のシーンは注目してもらいたいですね。ここまで長く歌うナンバーはそう多くないですし、歌っていて良い気分になります。ブルガリア人の最後のシーンも落とし所がよく、スカッとするので救われますよ。側転の場面も好きですね。見どころが沢山あります。
──お気に入りの楽曲は?
大貫
『♪ちょっと悪い子(Naughty)』を歌うシーンは泣きました。小さな体を使って、子ども達が楽しそうに伸び伸びと演じる姿に感動するし、尊敬するし、自分も負けていられないという気持ちに。そしてブランコのシーンの『♪いつか(When I Grow Up)』の部分も、子どもの頃を思い出し泣きましたね。『♪スクール・ソング(SchoolSong)』は、振り付けと音楽が素晴らしい。ミュージカルならではのシーンが沢山あるので、是非、この感動を体感してもらいたいです。

いつか(When I Grow Up) 撮影:田中亜紀

スクール・ソング(School Song) 撮影:田中亜紀

── 子どもの頃に戻りたくなるような感覚になったとのこと。大貫さんはどんな子どもでしたか?
大貫
悪ガキでした(笑)。沢山迷惑かけたりもしましたね、特に母親には。だけど分け隔てなくいろんな子と友達になっていました。体育祭や合唱コンクールといった行事も好きで、応援団長をしたり学級委員長をしたり、前に出るのが好きなタイプでした。
──大阪公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。
大貫
この作品を関西の皆さまに届けられること嬉しく思います。メッセージ性、音楽、振り付け、演出、舞台美術……。素晴らしいものが散りばめられた作品です。何より子ども達のエネルギーの凄さを感じてもらえるのではないでしょうか。できるだけ沢山の方に観ていただきたいですし、満席になった客席を見ることができたら最高です!
取材・文/ごとうまき