音楽、色彩、カメラワークが美しく豊か。革新的な「A24」の新作映画を是非体験してほしい
「A24」とは「ムーンライト」「ミッドサマー」など、話題作を続々と世に放つ気鋭のスタジオで芸術性と娯楽性を高い次元で両立し、見る者の“言葉にはできない感情”を繊細に刺激する作風で知られている。今回「A24」の新作映画「WAVES」が世界中の映画ファンが待望し話題を呼んでおり、7月10日に日本で公開されました。ジャンルは”プレイリストムービー”。
メガホンをとったのはトレイ・エドワード・シュルツ監督、まだ31歳の若さ。製作手法は物語に合わせた楽曲を選定するだけでなく、楽曲から得たインスピレーションをもとに脚本を執筆しているんだとか。
海外メディアはこの作品を”一生に一度の傑作”と言っている。この作品はミュージカルとは違っていて、映画のいたるところで音楽が鳴り響き、登場人物の感情に寄り添う。あるシーンでは歌詞がセリフのように彼らの心の声を伝えている。”31″の音楽が躍動し、ひとつの物語を紡いで、メロディや歌詞がドラマとシンクロし、登場人物の心の声を観客に届けている。
破壊と再生、愛と憎しみ、家族愛をテーマにした作品
物語は大きく二部構成となっている。舞台はフロリダ州、高校生タイラーは、成績優秀でレスリング部のスター選手。厳格な父親に育てながら葛藤を感じながらも、美しい恋人や友人、可愛い妹に恵まれ、裕福な家庭で何不自由のない生活を送っていた。しかし肩の負傷が発覚し、医師から試合に出ることを禁じられる。そして恋人の妊娠発覚に伴い、さらに追い打ちをかけるかのような出来事……。狂い始めた人生の歯車に翻弄され、タイラーは堕ちていき、そして、決定的な悲劇が。
この物語の主人公はテイラーの妹エミリー。彼女は兄の悲劇により心に大きな傷を負い、心を閉ざしてた。犯罪者の残された家族の心境・状況を炙り出している。そんなエミリーの状況を知りながらもエミリーに好意を寄せる同級生のルークは、エミリーの深く傷ついた心の傷に優しく寄り添ってくれた、そして二人は恋に落ちていく。
この二人で過ごすシーンも美しく目を見張る場面が多い。トワイライトの海岸、マナティーの泳ぐ川でのキス、並木道自転車を漕ぐ少女の姿、一つのイヤホンを二人で音楽を聴くシーンなどなど、そして気になる相手をTwitterやInstagramで事前にチェックしたり、デートとSNS、2000年代生まれのティーンエイジャーのリアルな”いま”が描かれている。
青春の挫折、恋愛、親子問題、家族の絆、兄弟愛といった普遍的なテーマを描きながら、あらゆる角度から感情を揺さぶられる。
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文/ごとうまき