【インタビュー】吉永加世子、師匠・吉幾三の魂を継ぐニューシングル「紅~べに~」を語る。30年を経て辿り着いた、艶やかな“女歌”の真髄。

インタビュー

2024年にデビュー30周年という節目を越え、益々その歌声に艶と磨きをかけている吉永加世子。2025年11月12日にリリースされた待望の新曲「紅~べに~」は、師匠・吉幾三氏による完全プロデュース。かつて師匠が世に送り出した名曲たちを、吉永が独自の感性でカバーした意欲作だ。全国各地を師匠と共に廻り、着実に実力を蓄えてきた彼女。本作の制作秘話から、師匠との絆、そして30年のキャリアを経て見えてきた「歌い手としての使命」について、たっぷりとお話を伺いました。

何十曲もの候補から絞り込んだ、師匠への“直談判”と三つの物語

――今作は、全曲が吉幾三先生のカバーというファン待望の構成ですね。この3曲を選ばれた経緯を教えてください。

吉永
実は、先生が新しく書き下ろしてくださった曲も候補に何曲かあったんです。でも、前作、前々作とテンポの良い曲が続いていたので、スタッフとも相談して「今回はじっくり聴かせる歌がいいのではないか」という話になりました。先生からは「まず歌いたい曲を何曲でもいいからリストアップしてみろ」と言われて書き出してみたら、もう何十曲にもなってしまって(笑)。そこからディレクターさんと10曲ほどに絞って、簡易的なデモを録り、最終的に選んだのが今回の3曲です。

――リード曲の「紅~べに~」、そして「恋から愛へ」。この2曲が軸だったのでしょうか?

吉永
そうですね。ただ、私の中にどうしても外せない曲がありました。それが3曲目の「北新地」です。昔から先生の劇場公演などで聴くたびに大好きで、「いつか絶対に歌いたい!」と心に決めていたんです。「紅~べに~」と「恋から愛へ」はどちらかと言えばスローでしっとりとした演歌。前作の「夜汽車」のような軽快なテンポも一枚の中に欲しかったので、最後は先生とディレクターさんに直談判をしました(笑)。先生も「確かに、少しテンポのある曲を入れたほうがバランスがいいな」とすぐに承諾してくださって。私の思いを汲み取ってくれました。

レコーディング当日のサプライズ。歌詞に込められた「情景の力」

――「恋から愛へ」については、歌詞が一部、原曲から変更されているそうですね。

吉永
そうなんです! 実はレコーディングの当日、それも「さあ、ラスト一回録って終わりにしようか」というタイミングでした。モニターで聴いていた先生が急に「……やっぱり、ここの詞を変えるか」って。元々は秋の風景だったものを「瀬戸の島々」「瀬戸の海」という言葉に変えてくださいました。「日本にはいい島がたくさんあるけれど、場所をピンポイントに絞ることで、歌の背景がより明確になる。俺の書いた歌なんだから、俺が変える分には文句ないだろ?」って(笑)。その瞬間に歌に命が吹き込まれるような、ライブ感のある現場でした。

――師匠からは、歌唱についてどのようなアドバイスがありましたか?

吉永
先生はいつも「お前にあげた曲なんだから、お前の歌いやすいように自由に歌え」と言ってくださいます。音程には厳しいですが、細かいニュアンスを押し付けることはありません。ただ、今回「紅~べに~」に関して唯一言われたのが、「あえて感情移入しすぎず、メロディ通りに淡々と歌え」ということでした。「歌詞のテロップがなくても、聴いている人に言葉がしっかり届くように一文字ずつ置いていく感覚で。余計な技術はいらない」と。サビは私の得意な高音域なので「そこは自由に思い切り行っていい。その分、前半は言葉を大事にしなさい」と教わりました。

師匠の背中を見て学んだ「目配り、気配り、心配り」

――ミュージックビデオでは、鮮やかなオレンジや黄色のドレスが印象的です。曲名の「紅(赤)」を選ばなかったのには理由があるのでしょうか?

吉永
「紅~べに~」というタイトルですから、普通なら赤を選びますよね。でも、あえて赤ではない色がいいと思ったんです。赤という色は、歌声だけで表現できればいいな、と。普段はモノトーンの服が多いのですが、ディレクターから「暖色系にしてはどうか」とアドバイスをいただき、オレンジと黄色の衣装に決めました。最近のステージでは、赤というよりは少し渋みのある「バーガンディ」や「ボルドー」のような、熟成されたワインのような色を着ることが多いですね。寝かせて、寝かせて……ちょっと寝かせすぎちゃったかしら?なんて思いながら歌っています(笑)。

――吉永さんにとって、吉幾三先生はどのような存在ですか?

吉永
歌の師匠であると同時に、人生の教官のような存在です。特に礼儀作法については厳しくご指導いただいています。先生はあのキャラクターですが、実は誰よりも人をよく見ている方なんです。先生がよく仰るのは、「動くものにはすべて挨拶しろ。たとえ猫であっても、お掃除のおばちゃんであっても、自分から頭を下げろ」と。先生自身も、デビュー当時から変わらず、どんな相手に対しても腰を低く接していらっしゃる。その背中を見て、「目配り」ができれば「気配り」ができ、それが「心配り」に繋がるのだと学びました。

30年を経て、ようやく辿り着いた「感謝を届ける歌」

――昨年30周年を迎えられましたが、今だからこそ歌えるようになったと感じる曲はありますか?

吉永
先生は滅多に人を褒めないんですが、前作あたりから「歌が上手くなったな」と、まるでおじいちゃんが孫を愛でるように(笑)、ライブで涙を流しながら聴いてくださるようになりました。特に先生の「永遠に愛して」という歌があるのですが、先生はお酒を飲むと必ず私にこの曲をリクエストして、聴きながら泣くんです。その姿を見るたびに、少しずつですが先生の理想とする歌い方に近づけているのかな、と感じます。

――31年目に向けて挑戦したいことは?

吉永
 師匠がジャンルを問わず歌われる方なので、私もその魂を継いでいきたいですね。個人的には洋楽やソウルも大好きですし、高橋真梨子さんや岩崎宏美さんのような、当時のニューミュージックの流れを汲む楽曲にも挑戦したい。マライア・キャリーのようにパワフルに歌い上げる世界にも、いつか手が届けばと思っています。

――最後に、ファンの皆様へメッセージをお願いします。

吉永
30年、決して平坦な道ではありませんでしたが、支えてくださる皆様のおかげで今日があります。私は口下手なので、感謝の気持ちはすべて歌に込めるしかありません。「紅~べに~」を聴いてくださる皆様に、私の“今”と、精一杯の感謝が届くことを願っています。

【編集後記】

インタビュー中、時折見せる快活な笑顔と、師匠の話をする際の凛とした表情。そのギャップこそが吉永加世子の魅力だ。「紅~べに~」に込められた、燃えるような情熱としなやかな強さは、彼女が30年かけて築き上げた揺るぎない自信の表れだろう。吉幾三という大きな壁に挑み、自らの色に染め上げた本作は、演歌界に新たな「紅」の旋風を巻き起こすに違いない。

インタビュー・文・撮影:ごとうまき