【a flood of circle 佐々木亮介インタビュー】「時代とは逆方向でもいい。本物のオレを見せていく」

アーティスト

ストレートなメッセージと高い演奏技術、独自の音楽センスを発揮し、観客を魅了するa flood of circle(ア フラッド オブ サークル)。現在のメンバーでは、5年を迎えての5枚目のアルバム「花降る空に不滅の歌を」が発売中だ。今作はこれまでとは違ったコンセプトで“剥き出しの自分”をテーマに制作。ボーカルの佐々木亮介さんに、アルバムの楽曲の誕生秘話や2月23日から開始しているツアーや音楽にかける思い、自身の人生哲学に至るまでたっぷりと語ってもらった。佐々木の放つメッセージと、聴く人の心を揺さぶる楽曲が生まれるその根底にあるものとは何か——。

生々しくもある、剥き出しの自分を見てほしい。

——アルバム「花降る空に不滅の歌を」のコンセプトについて教えてください。

佐々木
今のメンバーで5年、アルバムを5枚制作したことで、メンバー同士の空気感や距離感が固まった気がするし、みんなに気を使って曲を書くんじゃなく、これ以上できないってくらい、自分を追い込んで作りました。それがメンバーに対して一番失礼ではないと思っています。曝け出すような音楽って、生々しくて暑苦しいから多くの人は聴きにくいのかもしれませんが、その中でも追従せず面白いものを作れたら楽しいし、むしろ地平線まで辿り着きたい。

——剥き出しの自分を曝け出したり、世の中の風潮とは逆のことをやっている。それはデビュー時からでしょうか。

佐々木
以前よりもさらに曝け出す方向に向かっています。これが逆転劇になるのかは自分のクオリティー次第ではありますが(笑)。自分が納得できる形かつ、唯一無二のことをやろうといつも思っているんです。最近、先輩にも「やっと一歩目を踏み出したね」って言われましたね。当時はまだまだかっこつけていたし、殻をかぶっていたのかも……。これまでメンバーチェンジも多かったし、どうにかバンドを継続していくことが最優先だったから。今思うと冷静に自分を見れていなかったのかもしれませんね。

——今は昔より客観的に見れるようになった。今は、自分自身をどのように見ていますか?

佐々木
人に頼まれてもないことをやっているなって(笑)。というのも、僕は今もこうしてCDを売っているけれど、今CDを売るのって本当に難しい。バンドマンですらCDを買っていない時代に、CDを売って生きていくことって何なのか……、そう考えた時に、それはやっぱり自分が生きていく為だし、自分のやり方を通していると。つまり“アイデンティティ”なんです。そうすると、自分が売っているのは自分自身という答えに辿り着いたんですよね。

“〜ごっこ”とはもうサヨナラ

——“自分を売っている”、それが曝け出すことに繋がると。

佐々木
自分が本当に面白いミュージシャンか?で、勝負していかないといけない。カッコつけているだけだと、知っているミュージシャンのポーズを借りているだけ。ただの“〜ごっこ”になってしまう。デビューして十数年やってきたけど、まだまだ社会を変えられるような人間にはなれていないし、“自分が認められる自分″を達成できていないんです。

ブレたりボケた映像もありのままの自分だから、敢えてMVに取り入れた。

そんな思いが形になった曲が今作のリード曲「月夜の道を俺が行く」。歌詞には佐々木亮介の名前も入っていたりと、ただ曝け出すだけではなく、ユニークさとシリアスさがバランス良く入り混じっている。

——「月夜の道を俺が行く」は、ありのままの佐々木さんの姿が。心揺さぶるMVも生々しくて、魂の叫びが伝わってきます。

佐々木
今回のMVは自分で監督しました。つい、かっこいいカタカナや雰囲気の良い言葉を書きたくなるんですがそれをグッと抑えました。他にもいろんなシーンを撮って、もっとかっこいいバージョンも作ってもらいましたが、やっぱり“ありのまま”を出すにはこれだと。むしろ以前はブレたもの、ボケたものはカッコつけて排除していたけど、そんなブレたものも自分。ただ、曝け出すだけだと聴いてられないと思うのでユーモアなところも同時に取り入れました。

もっと勘違いされてもいいし、批判してくれてもいいのに。

——日本テレビ系「ダウンタウンDX」のエンディング曲に起用されていますが、テレビでa flood of circle を知る方も多いようですね。

佐々木
自分達の思ってもいないところに晒されるのも悪くないですよね。でも、正直なところ、YouTubeに上がっているMVのコメントだって、もっと勘違いされてもいいし、批判されてもいいのにって思っています。褒め言葉ばかりってことは、その程度の人数にしか見られていないってこと。同時に自分には勘違いさせるようなパワーがまだ無いんだと、有り難い反面、もっと破壊力が必要だと感じています。

世界的画家・奈良美智さんが描き下ろしたジャケット

——奈良美智さんが手がけたジャケットも素敵です。

佐々木
奈良さんも音楽がお好きで、フェスやライブハウスの楽屋でよくお会いするんです。奈良さんに歌詞とデモとアルバムタイトルをお送りしたところ、この絵を描いてくださいました。奈良さんの絵のキャラクターのニュアンスや描き方が年々変化していて、この絵はフラッドのためだけでなく、今の思いで、ご自分の新作として描いてくださったことも嬉しいですね。

ライブも6月に向けてもっと良くなっていく

——アルバム引っ提げてのツアー真っ只中とのこと。

佐々木
これから6月に向けて内容がどんどん良くなってくると思います。セットリストの内容も変わっていくし、その日の気分で変わるので、何回か来てもらえたら。今作はレコーディングの日まで歌詞ができていない曲もあったりと、録りながら歌詞を作ったんです。だから僕たちもどう仕上がったのか、終わるまでわからない感じだった。だけど既に出来たものを録るってあまり爆発力が無いんですよね。ライブを重ねていくうちに、それぞれの曲がどんどん分かってきた。

——6月にもライブで大阪にいらっしゃいますが、関西のお客さんの印象は?

佐々木
関西の人は盛り上がるスピードが早い。嬉しいし演奏していてもテンションが上がりますよね。本音を言えば目の前の人につられてやりたくないけれど、相互作用でついつい、つられてしまう。自分の表現の幅がすごくあるように感じられるから、俺を気持ちよく、勘違いさせてくれます(笑)。

クオリティの高いものを作るためにはヒリヒリ感が必須

——今のメンバーで活動して5年、メンバーそれぞれに対しての思いも聞かせてください。

佐々木
今作のアルバムではメンバーにめちゃくちゃ甘えました。一個前のアルバムでは、良くも悪くもやりきった感じがあったので、制作において同じことをしても意味がないと。だから、自分を追い込んで曲を作ったし、レコーディングしながら歌詞を作ったから、メンバーはやりにくかったと思いますよ(笑)。バンドって、楽しい時間とヒリヒリした時間とのバランスが大事。楽しいだけなら、まだヒリヒリだけの方がいい。成長するためには、ヒリヒリ感が必要なんです。

——佐々木さんにとってメンバーはどんな存在ですか?

佐々木
ナベちゃん(ドラム・渡邊一丘)はドラムがとにかくうまい。他の人とセッションしたりしていても、やっぱりナベちゃん凄いな!って思うし、ナベちゃんのドラムがフラッドの決め手になっている。それに優しいですよね。今作もナベちゃんが嫌って言ったらこのスタイルのアルバムは出来上がってなかったのかも。それだけなんでも受け止めてくれる心の大きな人。それを姐さん(ベース・HISAYO)も受け止める、って感じ。姐さんは大人の目線で見守ってくれるし、最近はその目線をキープしたままグッと中に入ってきてくれる。アルバムやライブに対しても本音でぶつかってくれるし、腹を割って話せる唯一の相手で心で会話できる人。ありがたい存在ですね。テツ(アオキテツ)は、一番最後に入ってきたけど、一番最初からいるみたい(笑)。ライブでは、テツがヒリヒリ感を出してくれる。フラッドの中で一番押し出しているのは歌で、その次にギター。だけど、もしテツのようなギタリストに出会っていなかったら違う楽器を打ち出していたのかもしれないですね。

恥をかいた経験が強さになる

——最近では声のケアもあまりされていないと聞きました。

佐々木
“病は気”からというか、気にすればするほど良くないって数年前から思うようになって。声のケアをするなら、ガンガン作業したり、現場で何かやって場数を踏みたいって思っているんです。レコーディングや曲づくりにおいても言えることですが、ここでは恥をかけないなって時があって、で、そういう時に限って恥をかくんだけど、後にそれが強さになる。ラッキーが降ってくることってないし、積み重ねて、積み重ねたものが、大きくなっていく。ア フラッド オブ サークルに天才はいらないなって思うんです。

——佐々木さんの歌声や表現、曲に心を動かされる人が多いですが、自身の原動力は何ですか?

佐々木
子どもの頃から違和感を感じて生きているからです。その違和感は、自分の音楽のクオリティから、世界中で起きている戦争のことに至るまで、“このままで皆いいと思っていないよね?”って。歌い方に関しても、敢えてエモーショナルさを取っ払って、クールに表現するのは嫌いじゃないし、むしろ憧れる。だけどそれは自分には出来ないし、憧れるものに寄せて表現すると本物のオレではない。あとは、客観的に見た時、自分の歌声に合った歌い方を考えると、この歌い方に辿り着いたというのもあります。

——今後もいろんな“驚き”を期待しています。

佐々木
今後はもっと自分を突き詰めたいし、もっと面白いことをしていきたい。違和感をもっと楽しみたいと思っています。例えば、この間初めて姐さんに爪にマニキュアを塗ってもらったんだけど、昨日まで“無し”だったことを“有り”に変化させていきたい。ソロの活動にしても、バンドとは違う自分を楽しんで、恥をかいて、いい部分だけフラッドに持っていこうと思っています。今後も本物のオレとは何なのか、もっと掘り下げて、面白さを追求していきますよ!

a flood of circle / IMPERIAL RECORDS (teichiku.co.jp)

DISCOGRAPHY | a flood of circle

ライブ情報:LIVE | a flood of circle

インタビュー・文/ごとうまき