【秋川雅史インタビュー】人生を通して究極を追い求める!これが僕の生き様。

アーティスト
大ヒット曲「千の風になって」で、一躍その名を世に轟かせた秋川雅史さん。迫力ある美しい歌声は聴く人の心を掴み、時には涙を誘い、感動を与えてくれる。30代の頃からクラシック以外のジャンルをクラシックスタイルで歌ってきた秋川さんの根底にあるものは、“クラシックの魅力を伝えたい”という思いだ。10月22日には住友生命いずみホールで「秋川雅史コンサート大阪2023」が開催されるが、今回も様々なジャンルの楽曲が秋川さんの歌声によって届けられる。秋に行われるコンサートに先立って、その魅力や意気込みについて、また、究極の歌声を維持する為の秘訣などを聞いた。約1年ぶりとなる秋川さんのインタビュー取材。歌と彫刻にも通じる“究極を追い求めていく姿勢”は一貫して変わっていなかった。

今年のコンサートは松田聖子の「瑠璃色の地球」で感動を巻き起こす!!

──10月22日に住友いずみホールで秋川雅史コンサートが開催されます。素晴らしいホールでの開催に期待が膨らみますね。
秋川
ここは、800人収容できるクラシック音楽に特化して作られたホールです。ここでマイクやスピーカーを使ってロックなどを演奏すると、歌詞が分からなくなってしまうような残響の多いホール。生の音を届けるには全国でも有数のホールとなっています。
──今回のコンサートのテーマや構成、曲目など、現時点でわかる範囲で教えて下さい。
秋川
前半はクラシック、後半は日本のポピュラーソングでプログラムを構成しようと考えています。構想を練っている期間の方が長いんですよ。ギリギリまで構想をイメージして、1ヶ月前から具体的な曲を決めていきます。僕のコンサートの後半には、聴いてくださる方が感動をしてくださるような楽曲を必ず一曲入れるようにしているのですが、今回は松田聖子さんの「瑠璃色の地球」を歌います。
──秋川さん自身、「瑠璃色の地球」に思い入れがあるのでしょうか?
秋川
10年ほど前にコンサートを観た方から「この声で“瑠璃色の地球”を歌うと絶対に合うよ」との声をいただいて。そこで、ピアノ一台でどうアレンジしようかと、アレンジャーの鈴木豊乃さんと随分打ち合わせをして曲を膨らませていきました。今回のコンサートは、この曲が核となっています。この楽曲で皆さんを泣かせることができたら……、歌い手冥利に尽きる思いです。

旧知の仲である2人の存在に支えられている

──コンサート前のリハーサルなどでは、コンサートツアーピアニストの小島さやかさんとの綿密な打ち合わせによって作り上げていくと聞きました。ステージの演奏からも秋川さんが信頼されているのが伝わってきます。
秋川
小島さんとは僕が大学院生の時に知り合い、アレンジャーの鈴木さんは僕の大学時代の同級生。もう30年以上の付き合いで、昔からの自分を分かってくれている2人が秋川雅史の良さを上手く引き出してくれています。 2人とも、僕の親よりも僕のことを知っている。僕の音楽のことだけでなく、メンタルや考え方の部分も知って、理解してくれているので心強いですよね。ピアニストの小島さんと、アレンジャーの鈴木さんの2人がいないと、秋川雅史のコンサートは成立しないと言っても過言ではありません
──コンサートまでの作業をとても大切にされていると聞きました。
秋川
自分の中でコンサートで歌う楽曲へのイメージがあるのですが、ピアニストの小島さんと細かくやり取りしながら曲を作っています。あとは本番で完成させるのですが、僕のその日の調子の良し悪しを聴き分けてもらって、柔軟に対応してもらっています。その日湧いてくる感性によって、日々歌声も変化しますから。そういった部分を彼女は絶妙に分かっているんですよ。

どんな曲を歌おうとも、ベースにあるのはクラシック。

──そして、コンサートの最後は「千の風になって」を歌われるのですね。
秋川
僕は30代の頃から、歌謡曲や演歌などクラシック以外のジャンルを、クラシックスタイルで歌うという活動をしていました。いろんな方にリクエストを募っていたのですが、その中でいただいたのが「千の風になって」だったのです。この曲によって秋川雅史を世の中に知ってもらうことができました。きっと僕のコンサートに来てくださるお客さまの多くが「千の風になって」を聴きたいと思って来てくださると思いますが、僕の歌声でこの曲を聴きたいと思ってもらえる曲が自分にあるのは、とても幸せなことです。だけど、「千の風になって」以外の楽曲で感動したと言ってもらえると、すごく嬉しかったりもするんですよ。
── そもそも、他のジャンルの楽曲をクラシックで歌うというスタイルを始められたきっかけは何だったのでしょうか?
秋川
歌謡曲やロックでヒットしている人は国民の誰もが知っている。一方でクラシックファンは少数派。すごく限られた人たちの中で回っている世界ということに、コンプレックスを感じていました。クラシック界の人間も、もっと世の中に認知してもらうべきだと。そういった思いから、この活動を始めましたが、どんな曲を歌っても、ベースにあるのは“ベルカント唱法”。クラシックの魅力を感じてもらえることが僕の目標であり使命だと思っています。
──秋川さんがおっしゃっている、「200年前はクラシックがポップスだった。演歌歌謡曲も100年後にはクラシックになっている」という言葉に思わず膝を打ちました。
秋川
モーツァルト全盛期の時代に、ベートーヴェンが世に出てきた時は衝撃的だったんですよ。いま世の中に衝撃を与えてきた名曲も100年経つとクラシックになる。発声法や表現方法も、その時代に合った流行りがあって、流行りの歌い方は時代が過ぎると古く感じるんです。だけどクラシックの発声法や歌い方には流行り廃りがないから、古さは感じないのではないでしょうか。クラシックの歌い手が歌うことによって、普遍的な名曲となって残っていけば嬉しいですよね。
──歌声に関しても、究極を極めていると前回の取材でもおっしゃっていました。喉に対してどのようなケアをされていますか?また、普段の体力作りやトレーニングについても聞かせてください。
秋川
歌声はまだまだ進化しています。なかでもこの1〜2年はこれまでの人生の中で一番伸びていて、練習していても楽しい。50代、まだまだ成長していきます。喉や声を維持し続けることは大変といえば大変ですが、中でも一番苦労するのは風邪をひかないようにすること。風邪をひいてしまうと声を取り戻すまでに早くて3ヶ月かかります。昨年風邪を引いた時には、抜け出すのに半年ぐらいかかったので。とにかく風邪をひかないように免疫力をつけることを意識しています。体力の維持やトレーニングに関しては、週7は走っています。走る、泳ぐっていうのも歌に良いんですよ。

彫刻を見ると血が騒ぐ!原風景が今の自分を作っている。

──歌手だけでなく、彫刻家としても活躍をされています。二科展に2年連続で入選、秋川さんの作品の素晴らしさ、緻密さに驚きました。
秋川
自分で彫ったものを見て一瞬、自画自讃するのですが、先生の作品を見るとまだまだだと感じます。やっぱり俺は歌手であり、彫刻は趣味だと(笑)。今年も二科展にトライしようと考えています。コンサートなどが戻ってきて忙しくなってきましたが、それでも時間を見つけては彫っているんですよ。
──子どもの頃に見た、故郷の西条市のだんじりの彫刻が影響しているとのことですが、幼い頃からの原風景が秋川さんの心に刻まれているのですね。
秋川
西条市のお祭りは深夜から始まるのですが、深夜に友達と親の監視のないところに出かけるだけでも、小学生にとっては刺激的で思い出に残る2日間になるんです。だんじりの提灯に火が灯って、その奥に彫刻が見えるんですが、戦の場面、たとえば弓矢で目撃ち抜かれているシーンなどの彫刻が目に入ってくるんですよ。彫刻はその場、その場をリアルに表現できるということがずっと心の中にあるんです。ずっと彫刻を見ると血が騒ぐという感覚があって、ある時俺でも彫れるんじゃないのかと思って始めたのです。
──歌と彫刻に共通することは?
秋川
自分の究極や限界に挑戦していくことで自分が磨かれ、成長できるということです。これはスポーツ選手にも言えることだと。チームプレーだとしても、それぞれが自分の限界や究極を追い求めているんじゃないかと思うんです。例えば、大谷翔平選手が自身の限界を求めて努力されている姿やエピソードを聞くと、自分ももっと頑張らないとと、奮い立たされます。
──秋川さんもご自身のリズムを作って、丁寧に生活されているのだと思います。
秋川
そうですね。あまり飲み歩きしませんし、起床と就寝時間は決めています。仕事がない時は朝から彫刻をし、夕方に歌の練習を、夜はトレーニングという日々。自分の歌や彫刻が上達していくことが、一番自分が望んでいることだと思います。いま55歳ですが、歌も彫刻もまだまだ上達していますよ。ここ最近は、陸上短距離走のトレーニングもしてるんです。昨年、記録会に出場しましたが、最初は15秒87と、自分が目指していたタイムに届いていませんでした。そしてトレーニングを重ね、今年の3月に測ると、15秒32と、0.5秒速くなっていたんです。昔に比べると衰えましたが、50代で始めても成長するんです。“究極を追い求める”ことが僕の人生。これからも自分を磨いていきます。
コンサート情報
秋川雅史コンサート大阪2023
日時:10月22日 (日) 開演15:00
場所:大阪 住友生命いずみホール
インタビュー・文・撮影/ごとうまき