【かつしかトリオ インタビュー】“Organic”な音楽世界をライブ会場で体感してほしい。

アーティスト

2025年10月1日、かつしかトリオの3rdアルバム『“Organic” feat. LA Strings』がリリースされた。これまで「大人げないオトナたち」をキャッチフレーズに活動してきた櫻井哲夫(ベース)、神保彰(ドラムス)、向谷実(キーボード)の3人が、今回は「大人げないオトナによる、大人っぽい音楽」をテーマに掲げ、ロサンゼルスでのレコーディングという大きな挑戦に臨んだ。

アコースティックピアノ、エレキベース、ドラムスというミニマルなトリオ編成に、念願だったLAストリングスが加わった本作は、まさに彼らの新たなステージを示す作品となっている。

さらに10月18日(土)からは全国5都市を巡る『かつしかトリオ LIVE TOUR 2025 “Organic”』がスタート。初日の東京公演は既に完売となっており、追加公演も決定。ファンの期待の高さがうかがえる。25曲のレパートリーを持つに至った彼らが、どのようなステージを見せてくれるのか。3人に話を伺った。

~念願のLAレコーディングで実現した「大人っぽい音楽」~

――3rdアルバムが10月1日に発売されましたが、とてもラグジュアリーで「大人っぽい」印象を受けました。特に「Red Express」や「天の川」など、前作と聴き比べると明らかにストリングスが入ることで上質な感じが表現されていますね。

向谷
よく「こんなバジェットかけてることをしてるな」って言われるんですけど(笑)。それぞれのメンバーがやりたいことの中の一つとして、僕はメンバーと一緒にストリングスでやるというのは、大きな夢だったんです。それと、自分の会社の創立40周年という節目もあって、周年事業として取締役会の承認も取りやすい時期だったので(笑)、メンバーに相談して実現しました。

――LAに行かれたのはいつ頃ですか?

向谷
5月の28日ぐらいから行って、僕は6月上旬まで滞在しました。それぞれのスケジュールがあって、まずドン・マレーさんというエンジニアのスケジュール。それからスタジオもかなり人気があって、スケジュールを押さえるのも3ヶ月くらい前から言われていたので。そのくらい人気のあるスタジオなんですよ。特にスタジオ1というのが、イーストウエストスタジオの中で最も大きなところで、映画音楽のフルオーケストラサイズが収録できるんです。そこを3人で演奏すると、贅沢な音が出てくる。めちゃめちゃ出てくるんです。

――「LUCA」のミュージックビデオも拝見しましたが、スタジオの雰囲気も素晴らしかったですね。

櫻井
ミュージックビデオの撮影チームも、僕の知り合いの同級生がLAのプロダクション会社の社長になっていて、こういうプロジェクトがあって現地で撮影したいんだけど協力してくれるかって相談したら、快く引き受けてくれて。

――実際にLAのストリングスメンバーと演奏されての感想を、それぞれお聞かせください。

神保
エレクトリックでハイパーなサウンドが僕らの本流ですが、コンサート終了後にピアノトリオのシンプルな編成でクラブでギグを行うのが恒例になって、それを2年続けてやってたんです。それを形にしたいという思いと、向谷さんが昔からシンセで弾いていたストリングスのパートを生でやりたいという話、それから僕が長年憧れていたドン・マレーさんと仕事をしたいという、いろんなことが合体して実現しました。ハリウッドの一線で活躍している方と共演できたことも素晴らしい経験でしたね。譜面もハードで難しかったと思うのですが、事前に音源を送って向こうでも練習してくれていたみたいで、とても順調に進み、自分たちが思っていた以上の素晴らしいコラボレーションができました。

向谷
ストリングスのアレンジは、僕だけじゃなくて音楽専門学校時代の同級生の倉田信雄くんと一緒に作りました。2曲目の「Katsushika De Cha Cha Cha」は完全に彼に任せて、それ以外は2人で作ったんです。シンセサイザーのストリングスは全パート、デモテープで作ってたんですが、生で弾いた瞬間に「やっぱり本物は違うな」って。深みというか優雅さというか、高い音を何人かでやる場合の綺麗な伸ばし方。4人のヴァイオリン1の人が奏でる綺麗なズレがスーッと残るっていうのが何曲かできて、それを聴いていて「たまんないな」って、感動しました。

櫻井
20代で一緒にやっていた仲間と再会して、3枚目のアルバムを出せた。今回こうしてスーパープロジェクトが実現できて良かったです。

――楽器についてもお聞きしたいのですが、向谷さんはベヒシュタインのピアノを使われたそうですね。

向谷
行く前からスタジオのピアノは調べていたんですが、ドン・マレーが「かつしかトリオでやるんだったらここがいい」って、スタジオも部屋も選んでくれたんです。前日にスタジオに行って触ってみたら、もう素晴らしくて感激して。自分自身がピアノに持っていかれるような、そんなピアノでした。やりたい音を出しましょうって言ってくれるピアノで、本当にコミュニケーションが取れる楽器っていうのは初めてでしたね。

神保
僕は6年ぶりにロサンゼルスに預けてある「武蔵」というヤマハの特注キットを使いました。6年間で一段と熟成されて素晴らしい音になっていて、ヘッドも6年前のままで叩いたら素晴らしい音が出たので、そのまま使いました。日本の高温多湿とは違う環境が楽器にとってはすごく良い環境だったんでしょうね。

櫻井
レコーディングの3日前にヤマハから新しいカスタムモデルが届いて、持って行きました。ドン・マレーさんにも絶賛していただいて、「このベースだったら何も加工しなくていい」と言ってくれました。EQとかコンプレッサーも全部通さない、素材の音だけで仕上がって、まさにオーガニックな感じです。

――「Red Express」は特に苦労されたそうですね。
櫻井
あの曲の難しい決めフレーズだけは、僕がアレンジしたんですけど、前回のオリジナルアルバムでは向谷さんと僕しかメロディ楽器がなかったので2声のハーモニーで作っていたんです。今回はLAのストリング・セクションが参加してくれるということで、頑張って5声に書き直しました。すごいガチガチの5声のスーパーフレーズを作ったのですが……。
向谷
初日の最後にその曲をやって、「これダメなんだ」ってことになっちゃって(笑)。それで倉田さんが翌日の午前中までに「それじゃあ書き直すよ」って言ってくれて、一晩かけて書き直してくれました。1時間しか寝なかったからね。それでスッとできるようになって、いいチームワークで仕上がりました。

――新曲について、「Early Bird」はこれまでになかったような曲で印象的でした。

櫻井
あれが一番最後にできた曲。ベーシックなピアノメロディーがあったので、一曲ぐらいエレキベースのメロディーが入った方がいいと思って、シンプルなベースとピアノのメロディーを提案しました。向谷さんのスタジオでみんなで話していたら、向谷さんがどんどんひらめいちゃって。ストリングスのアイデアが湧いて出てきて、2時間くらいであんな感じのアレンジになったんですよ。

~期待感高まるツアー~

――ツアーもスタートしました。どんなコンサートになりそうですか?

向谷
セットリストは『“Organic” feat. LA Strings』の曲やこれまでのオリジナル曲をお届けします。昨年から自分たちの持っているオリジナル曲で届けられるように。胸を張ってコンサートができるようになりました。
櫻井
最初の頃はカシオペア時代のそれぞれのオリジナルをやったりしていましたが、そういうのをいつまでやっていても単なる同窓会みたいになってしまう。アーティストとしては良いステップを踏んでいると思います。

――かつしかトリオのコンサートをより楽しむための秘訣は?

神保
今回のアルバムはもちろん、1stアルバム、2ndアルバムも併せて聴いていただけるとより楽しんでもらえるかと。あとは、2025年5月28日に発売されたライブ映像作品、かつしかトリオ LIVE TOUR 2024『ウチュウノアバレンボー(仮)』も是非見てもらえたら。
向谷
あれは、画期的。MCも全部入っているから長い、長い(笑)。一言一句全て残っていますから。
櫻井
昨年から大ホールでのコンサートツアーでは素晴らしい照明、映像チームが入ったので、CDやサブスクとは全く違う感動が見られると思います。大ホールのかつしかトリオも是非見ていただき、ご来場くださると嬉しいです。

~何年経っても心地よい仲間~

――20代を共に過ごされたお三方ですが、当時と今とで関係性はいかがですか?

神保
あんまり変わらないです。見た目はずいぶん変わりましたけど(笑)。関係性、中身は変わらないですね。
向谷
一緒にいて楽しいです。30年ぶりに会った時も、音を出した瞬間に「ああ、そうだよね」っていう感覚があるんです。それが体に染み付いちゃっている。

櫻井
 身体は40〜50年経ってるけど、音は20代の頃の気持ちのまま音楽が組み立てられているんじゃないかなと思います。40年経ってそういうことができる仲間がいるのは本当にありがたいこと。お客さんに喜んでいただき、良いスタッフにも恵まれている。これは神様に応援してもらってるんだって。

――今後の展望をお聞かせください。

神保
健康管理は外せません。あとは、楽しいことやワクワクすること、それぞれが閃いていることをどんどん出し合いながら面白いものを生み出していきたいですね。

櫻井
 音楽に心身を向けるということを大切にしたいです。演奏するのも筋肉が必要で、年齢を重ねると筋肉が減っていく。それを管理できないとあちこちに障害が出てくるんです。自己管理をきちんとしながら、チームの情熱があれば、これからまだまだ楽しくなるんじゃないかな。
向谷
結成5年目にしてすでに平均年齢60後半ですから(笑)、健康第一。僕は3ヶ月前にお酒をやめてからすごく調子がいいです。会社の経営や後継者の育成などはもちろん、新しいことにもチャレンジしていきたい。そしてこの2人と共に音楽をアカデミックに演奏できる機会をもらったということは、ものすごく有難いことです。50周年も近づいてきているので、いろいろとやりたいですね!

コンサート概要

 かつしかトリオ LIVE TOUR 2025 “Organic”

会場/日時:

  • 【東 京】10月18日(土)かつしかシンフォニーヒルズ *SOLD OUT!
  • 【福 岡】11月01日(土)福岡市民ホール 中ホール
  • 【愛 知】11月04日(火)Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
  • 【北海道】11月13日(木)札幌共済ホール
  • 【大 阪】11月24日(月・祝)東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール
  • 追加公演【東京】 128日(月)東京国際フォーラム ホールC

インタビュー・文・撮影:ごとうまき