「ありがとう」が体中からあふれ出た──桐谷健太、5年ぶりの舞台で『聖地X』に挑む

インタビュー

2015年にシアタートラムで初演され、2021年には映画化もされた前川知大の代表作『聖地X』が、PARCO PRODUCE 2026として約10年ぶりに舞台に帰ってくる。ドッペルゲンガーの出現をきっかけに「存在とは、記憶とはなにか」を問いかける、前川ワールドの真骨頂ともいえるSFホラーコメディだ。田舎町で悠々自適に暮らす主人公・山田輝夫を演じるのは、『醉いどれ天使』以来5年ぶりの舞台出演となる桐谷健太。稽古真っただ中の桐谷が、作品への思い、カンパニーの空気、そしてこの1〜2年で気づいたという「ありがとう」の本当の意味までを語ってくれた。

怖さより、感謝のほうが大きかった

――出演のお話を聞いたときの気持ちは?

桐谷
まず一番に感じたのは「感謝」でした。本当にありがたいなと。それが一番大きな感情でしたね。



――舞台は5年ぶりです。間が空いたのはなぜでしょう?

桐谷
なぜなんでしょうね(笑)。僕も知りたいくらいです。巡り合わせやタイミングが大きいと思います。基本的にずっと映像の作品をやらせていただいてきましたが、舞台をやることもとても大切なことだと思っていて。

ただ、これまでの2回の舞台は、どちらかというと恐怖感や緊張感が強かったのを覚えています。2回目はちょうどコロナ禍で、稽古もみんなマスクにフェイスシールド。本番の舞台上で初めて相手の素顔を知って「初めまして」みたいな気持ちになる、独特な時期でした。穴を開けられない責任感もありましたし。

でも、ここ1、2年で自分の中で気づくことがすごくあったんです。すごく悲しい出来事や苦しさもあって、自分の不甲斐なさや無力さを感じることがあった。そのおかげで、というと語弊がありますが……事務所の人や家族、身近な人たち、応援してくれている人たちへの「ありがとう」が、体中からふーっと出てきたんですよ。

どこかで「自分がやらなきゃ、自分が踏ん張らなきゃ」と、”自分が、自分が”と思っていた部分があった。感謝しながら生きているつもりでしたけど、本当の意味では気づけていなかったんだなと。そこから感覚がすごく変わりました。

だから今回お話をいただいたときも、「怖い」「できるかな」より「ありがとうございます」という気持ちのほうがずっと大きかった。もちろん怖さや緊張感もあります。でも、山田輝夫になればいい、役を生きればいいと思えた。そう思えたら、すごく安らいだんです。




最後まで信じ込めたら、それは本物になる

――前川さんが描く世界観の第一印象は?

桐谷
前川さんの作品は、独創的で斬新なイメージがすごく強くて。日常の中にスッと不思議が入り込んでくる。でもその不思議さや奇妙さが、本当に人生で起こり得るんじゃないかと感じさせてくれるんです。日常会話のおかしさとのバランスが絶妙なんですよね。

『聖地X』も、不思議で奇妙で、ちょっぴり怖さもある世界。そこで交わされる会話が面白おかしくて、くすっと笑える。でも根っこには、人に対する思いやりや、思い込むこと、信じる力が描かれている。

もし人生で最後の最後まで何かを信じ込めたら、傍から見れば勘違いでも、その人にとっては本物になる。もしかしたら全部そうなのかもしれない。みんなそれぞれ違う夢を見て、それぞれの見方で世界を見ている。それって実際にあり得るよな、と感じながら今演じています。




面白半分どころか、”面白全部”で謎に飛び込む男

――演じる山田輝夫の魅力は?

桐谷
本当に自由でマイペースで、好奇心旺盛。興味を持ったことにはどんどん首を突っ込んでいく。でも、しっかり妹思いだったり、冷たくしたかと思えば優しかったり。そこに人間味があるんです。親の残してくれたお金で悠々自適に暮らしている、そういう役も初めてで。そんな彼があることをきっかけに、面白半分どころか”面白全部”で謎にのめり込んでいく(笑)。最後には「これは何なんだ」という出来事に向き合うことになるんですが……どこまで言っていいか難しいですね。役にもストーリーにも、めちゃくちゃ魅力を感じています。

これまでやったことのないキャラクターだと思っていたら、前川さんや共演者の方が「台本を読んで、桐谷さんが喋っている姿がすごくイメージできた」と言ってくださって。「えっ、そういう印象を持ってくれているんだ」と驚いたし、嬉しかった。だからこそ、やりがいを感じています。




――ご自身と重なる部分はありますか?

桐谷
興味を持ったことにグイグイ行くところは、すぐ共感できます。そこは近いかもしれないですね。



――役づくりで具体的にされていることは?

桐谷
とにかく毎日この作品に触れています。台本を読むだけでなく、役のことを考えたり。僕には妹がいないので、妹がいるってどんな感覚なんだろう、とふと思いを馳せたり。かなり早い段階から、じわじわと毎日のように。今は稽古が始まっているので、昨日も移動中ずっと目をつぶって、シーンの動きや流れを思い描いていました。ただ、考える時間と何もしない時間は、逆にしっかり分けていますね。



畑の違う”食材”を、前川さんが料理する

――座長として大切にしたいことは?

桐谷
座長だからというよりは、前川さんを含め、みんながアイデアを出し合って「こうしたらもっと面白いんじゃないか」と肉付けしていく。その中で、どんどんいい作品に仕上がってきている感覚があります。みんなで作っている感覚を僕自身楽しみたいし、困っている人がいたら声をかけて、切磋琢磨していけたら。今すごくいい空気感なので、きっと面白い作品になると思います。



――共演者の印象はいかがですか?

桐谷
妹役の和希(そら)さんとは、まだそこまで絡めていないんですが、本読みの段階で、面白い兄と妹のコントラストができそうな予感がしました。どんな化学反応が起きるのか、どんな妹で来るのか、僕も楽しみです。

浜田(信也)さんは舞台経験でいえば大先輩。年は同級生なんですけどね。舞台全体を見て「ここ、こうしてもいいんじゃない?」とアイデアをくださる。再演だから「ここはこうです」と決まっているのかと思ったら全然そうではなくて、前川さんがすごく柔軟なんです。こがけんさんとはプライベートで偶然お会いしたことがあって、「お久しぶりです」という感じでした。

今回面白いのは、みんな畑が違うこと。映像が多めの僕は舞台が今回3度目で、元宝塚でミュージカルをされてきた和希さん、劇団イキウメでずっとやってきた浜田さん、芸人のこがけんさん。バラバラな個性が一堂に会して、ちゃんと一つになっていく。新鮮な野菜もあれば海の幸もある、みたいな(笑)。その素材を前川さんが美味しく調理して、皆さんに届けてくださると思います。




――稽古はどのように始まったのでしょう。

桐谷
初日に「全員、棒読みで本を読んでください」と言われたんです。初めてでした。誰か一人がバンッと行くと、みんなそっちに釣られる可能性があるから、と。そこから「少しずつ出していってください」と、個性がだんだん出てくる面白さがありました。

それから、「自分の聖地はありますか?」「勘違いや思い込みの話はありますか?」と、みんなで話すところから始まって。演技とは関係ないようで、台本から派生した話なので、一気に近づけた感じがありました。




舞台は、みんなで同じ夢を見られる場所

――映像でも活躍する桐谷さんが感じる、舞台ならではの面白さは?

桐谷
SFコメディと銘打っているので、お客さんの生の反応をすごく感じられる舞台になると思います。そこは楽しみでもあり、恐ろしくもあり(笑)。稽古中の今、いろいろな発見があって、めちゃくちゃ楽しいです。



――ドッペルゲンガーを目の前で見られるのも見どころですね。

桐谷
実はそれが本当にドッペルゲンガーなのか……は、見ていただければわかります(笑)。映像なら技術も進んでいますが、舞台は生身の体でやる。舞台には、ある種、時代に逆行しているような、とことんアナログな魅力がある。何千年も前からエンターテインメントとして存在して、今もある。人間の生身の、原始の力でやるところにすごく惹かれます。

同じ空間にいるのに違う話が始まっていたり、別々の場所の芝居が同時に進んでいたり。舞台でしかできない見せ方がたくさんあるんです。いわばイリュージョンですよね。同じ舞台上なのに別々の場所だと表現して、見ている人もそこにちゃんと入っていける。「なんで?」とならない。みんなで同じ夢を見られる。それが舞台の面白さだと思います。




――最後に、公演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。

桐谷
受け取ってもらえるものは全員違うと思うし、それでいい。舞台は誰に注目するかでも全然変わりますから。僕としては、『聖地X』の不思議で面白い世界にどっぷり浸って楽しんでいただけたら、それが一番嬉しいです。

実際に人間が目の前で演じているということが、これからすごく貴重な時代になっていくんじゃないかと感じていて。お客さんの前で演じられる時間は、僕たちにとっても奇跡のような時間です。その時間を劇場で共有できたら幸せです。




取材・文・撮影:ごとうまき