【中世の#Me too運動!?】命をかけた残酷な裁判とミステリー『最後の決闘裁判』

(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
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中世から変わらない女の生きづらさを描く極上ミステリー

フランスで最後の決闘裁判であり史上初の“女性の訴え”を史実に基づき描いた『最後の決闘裁判』は10月15日(金)から全国で公開されその描き方や内容が「まるで中世の#Me too運動」と話題になっている。今秋は大作が多く公開され、その中で埋もれてしまいがちではあるが、本作は珠玉の作品だ。
1386年、百年戦争さなかの中世フランス、実際に執り行われたフランス史上最後の「決闘裁判」を基にした実話を「ブレードランナー」「テルマ&ルイーズ」などの巨匠リドリー・スコット監督がメガフォンをとった。キャストにはマット・デイモン、ベン・アフレック、アダム・ドライバー、ジョディ・カマーと錚々たる豪華な顔ぶれ、これだけでも胸が高鳴り見る価値が十分であるが、特筆すべき点として本作の脚本にはニコール・ホロフセナーに加え、マット・デイモンとベン・アフレックが参加し執筆を手がけたところ。本作に込められたメッセージとは?

不条理な決闘裁判、負ければ妻は火あぶりの刑に。

あらすじ
騎士カルージュ(デイモン)の妻マルグリット(カマー)が、夫の旧友ル・グリ(ドライバー)に強姦されたと訴えた。しかしル・グリは無実を主張、目撃者もいない。
真実の行方は「神が知る」とし、夫と被告による生死を賭けた“決闘裁判”に委ねられた。この裁判、もしも夫が負ければ妻マグリットは公開処刑されるという不条理な行方が待っている。果たして裁かれるべきは誰なのか――。

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現代の三権分立の中での「司法」から生まれた「裁判所」と本作の「裁判」は違った意味を持っている。本作が描かれた時代は女性の権利は無いに等しく、法や権威の後ろ盾もなかった。
「神は真実を知る」という宗教的思想が強かった時代において、「決闘」によって真実が明らかになると信じてやまなかった人々は闘いに勝った者が真実だとみなされ勝者は称賛される。もし夫のカルージュが負ければ妻は偽証罪として国民の前に釣るし上げられ30分ものあいだ火にあぶられて死んでいく・・・。と、現代では考えられないような非常に残酷で、まさに命を懸けた裁判。ポイントは負ければ妻も偽証罪として殺されることをマグリッドは後に聞かされたところである。結局のところこの「決闘」は妻を守るためではなく、男たちのプライドをかけた戦いだったのかと思うとその不条理さに泣けるし女の生きづらさは中世から何も変わっていないことがわかる。それでも腹をくくり、真実を訴え見守り続けた妻のマグリッドの勇気と強さに称えるべきであろう。

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注目すべきは異なる3つの視点から繰り返される描写

本作の特徴として黒澤明作品『羅生門』を彷彿とさせるような異なる視点からの描写だ。夫カルージュ、旧友ル・グリ、妻のマグリットのそれぞれ3人の視点から3章の構成で描いている。
そのため3人の視点の違い、男女の認識の差が浮き彫りになり、自分の都合の良い部分しか見ることのできない人間の愚かさが映し出している。この描写が男女絡みの問題やセクハラ、パワハラといった私たちの身近な問題にも通じており、フェミズムを語るうえでも本作は大きなヒント、メッセージが隠されている。

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真相はいまだ闇の中

また本作はミステリーとしても楽しめる作品となっている。決闘裁判については事実に基づいてはいるものの、「真実」については600年以上経った今でも謎のまま、本来裁かれるべき者が誰だったのか、真相は暴かれることなく歴史研究者の間でいまだに議論がなされているという。

600年以上前の中世の歴史を再現した美術や甲冑がぶつかり合う過激なアクションは見ごたえたっぷり迫力満点。監督、製作陣が本作を通して伝えようとしているメッセージを感じてほしいし、#Me too運動が勃発する現代だからこそより多くの人々に本作が拡がって欲しいと願っている。

最後の決闘裁判

監督:リドリー・スコット
脚本:ニコール・ホロフセナー ベン・アフレック マット・デイモン
キャスト:マット・デイモン、アダム・ドライバー、ジョディ・カマ―、ベン・アフレック
製作:2021年製作/153分/PG12/アメリカ
配給:ディズニー
原題:The Last Duel

 

文/ごとうまき