【家族愛に溢れた人生賛歌】愛しく切ない嘘に涙する『そして、バトンは渡された』

(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会
映画

ラスト30分、全てが繋がった時大きな感動に包まれる

10月29日に公開された『そして、バトンは渡された』は「こんな夜更けにバナナかよ」「愛しき実話」の前田哲監督が、第16回本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの同名ベストセラー小説を永野芽郁、石原さとみ、田中圭の共演で映画化。
血のつながらない親に育てられ、これまで4回も名字が変わった優子(永野芽郁)は、現在は料理上手な義理の父・森宮さん(田中圭)と2人暮らし。どんな時にも笑顔を絶やさない優子にも将来のことや友だちのことなど様々な悩みがあり、卒業式にピアノで演奏する「旅立ちの日に」にも苦戦しながら猛特訓していた。
一方の夫を何度も変えながら自由奔放に生きる梨花(石原さとみ)は、泣き虫な娘の‟みぃたん(稲垣来泉”に溢れんばかりの愛情を注いでいたが、ある日突然、娘を残して姿を消してしまった。

家族の秘密を知った時、優しい涙が頬を伝うーー。

原作ファンが多い本作、原作を読んだ人は小説とは別の映画版として楽しめることは言うまでもないが、原作未読の人は事前に前情報など入れずにいきなり観てほしい。ラストの前半に散りばめられた伏線の回収とラスト30分の大どんでん返しに息を呑み、涙がとめどなく溢れ出すだろう。
本作は大きく前半と後半に分かれて進んでいく。前半は優子の高校生時代、高校時代の描写の中でさらに幼少期が挟まれ過去の中の過去を行ったり来たりする。
後半は成人した優子、現在が描かれるのだが、少しずつ明らかになる森宮さんと優子とのこと、そして本作での重要な役の魔性の女 梨花のことが明らかになり、それぞれのストーリーが輝き動きだす。
優子がなぜ血の繋がらない親の間をリレーされ4度も名字が変わったのかーー。
その理由を知った時、大きな感動が押し寄せるとともに、ラストの森宮さんのセリフ、タイトルの“バトン”の意味、冒頭のナレーションが全て繋がり本作の持つ魅力と凄みを実感することになる。

(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

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本作は温かな家族愛の物語であると同時に“人間賛歌”。とりわけ本作は性善説溢れる作品に仕上がり少し現実離れした部分も見られる。しかし悲しいニュースや事件を耳にすることが少なくない現実だからこそ、本作のような温かい作品がより心に沁み、こんな風に人が人を思いやり、温かい関係を築けたらと希望が見出せる。
特筆すべき点として本作にはピアノや料理が多く登場し、音楽の美しさや食べること生きることの喜びが多く散りばめられている。
家族と、または大切な人と一緒に観に行ってほしい(ハンカチとティッシュは忘れないでね!)。

(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

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そして、バトンは渡された

監督:前田哲
脚本:橋本裕志
原作:瀬尾まいこ
キャスト:永野芽郁、田中圭、岡田健史、石原さとみ、稲垣来泉、朝比奈彩、安藤裕子、戸田菜穂、大森南朋、市村正親
製作:2021年製作/137分/G/日本
配給:ワーナー・ブラザース映画
文/ごとうまき