【インタビュー】「念願の故郷の歌が歌えた!」谷 龍介が紡ぐ故郷と家族の物語

インタビュー

メジャーデビューして20年という節目を迎えた谷 龍介。新曲「呉に帰ろうかの…」は、彼の故郷である広島県呉市を舞台に、家族との深い絆と人生の機微を描いた一曲だ。全面プロデュースした吉幾三との信頼関係、そして亡母と残された父への思いが込められたこの楽曲は、聴く者の心に静かに響き渡る。本インタビューでは制作秘話や故郷への愛着、そして未来への展望を語っていただいた。故郷を離れ、苦労を重ねながらも歌い続けてきた彼の言葉から人生の温もりと覚悟が伝わってきた。

歌詞に込められた父への想い

── 「呉に帰ろうかの・・・」を聴いていると情景が鮮やかに浮かび上がり、涙がこみ上げてきます。

前作「杖」は、母の逝去をきっかけに親子の絆をテーマにした作品です。母が亡くなった後、吉先生が「父が一人でどうしているか、元気か」と気にかけてくださいました。残された父が一人で抱える思いや、末っ子として育った私が感じた両親との思い出を、吉先生が詞に見事に昇華してくださいました。詞の制作にあたり、幼少期の記憶や成人後のエピソードをお伝えし、それをもとにこの詞が誕生しました。途中でセリフが登場する部分がありますが、歌うたびに深い感情が湧いてきます。


── 初めて詞を読んだ時の感想をお聞かせください。


吉先生には事前に何も伝えていませんでしたが、“無口で頑固”という表現が父そのもので、驚きました。父は本当に頑固な性格です。私たち家族は5人でしたが、毎晩のように喧嘩が絶えず、早くこの家を出たいと思っていたんです。父は元々船乗りで、後にマツダの工場に勤めましたが、常に海と隣り合わせの生活を送り、釣りをこよなく愛していました。


── その姿が歌詞にも描かれていますね。


父は小さな漁船を購入し、仕事が休みの土日に釣りに出かけていました。しかし、前夜に両親が喧嘩することも多く、それでも翌朝、早朝に出発する父を母は見送っていました。朝4時か5時に起きて弁当を用意する母の姿を思い出すと、涙が溢れます。幼い頃はそんな光景を見て、「昨日まで喧嘩していたのに、親の気持ちが理解できない」と感じていました。

母は実家でブティックを営んでおり、朝から晩までミシンを踏み続けていました。父が出勤する際に見送り、帰宅するまでは夕食に手をつけられず、私たちも父の帰りを待ちました。通常、7時40分頃に玄関の扉が開きますが、時折その時間になっても音がせず、私が呼びに行くと、父はパチンコに行っていて。良い思い出ですね。

呉の魅力

── “今度ゆっくり呉に帰ろうかの”も歌詞も重要な部分ですね。谷さんご自身、呉に帰りたいという思いはありますか?


ありますね。広島までは仕事で帰る機会が多いものの、呉まではそこから1時間ほどかかるため、なかなか帰ることができません。呉を舞台にした作品は多いですが、演歌や歌謡曲で呉をテーマにした楽曲はこれまでありませんでしたから歌を通して呉の魅力も伝えられると嬉しいです。呉は風光明媚で、小魚が美味しく、海風を感じながら過ごせる魅力があります。住民ものんびりとしており、心の広い人が多いんですよ。

楽曲制作について

── 編曲は伊戸のりお先生が担当されました。イントロや民謡部分が印象的ですね。


吉先生からいただいたデモを初めて聴いた時は、よりロック調でした。吉さんの歌い方もめちゃくちゃかっこよくて魅力的。編曲の段階で冒頭に民謡を加える案が採用され、ロックと和の雰囲気が融合してこの楽曲が完成しました。


── レコーディングはいかがでしたか。また、歌う際のポイントを教えてください。

当初は非常に緊張しましたが、吉先生が「この歌は君そのものだから、肩の力を抜いて」と仰ってくださり、なんとか歌い上げることができました。冒頭の民謡部分はリズムを意識して力強く、セリフ部分は語るように表現するのがポイントです。最後の「呉に帰ろかの〜」は、投げ捨てるようなニュアンスで歌うといいですよ。

MVに込めた家族の記憶

── MVではお父様が漁師役で出演されています。お母様の写真を眺めるシーンも心に残りますね。

父が大切にしている写真で、いつもポシェットや上着のポケットに母の写真を入れ、持ち歩いているみたいです。その背中からは哀愁や寂しさが伝わり、私も胸を打たれますね。MVには私にとって馴染み深いお店やお世話になっているレコード店も登場します。撮影では両親の故郷である蒲刈島を訪れました。祖母が暮らした家が残っており、懐かしさと様々な思いが込み上げてきました。


── お父様はこの曲に対して何かおっしゃっていますか?

初めて聴かせた時、父は感動してくれましたよ。「吉幾三さんが作ってくれたのか」と大喜びで、「母ちゃんが生きていたら喜んだだろうな」と本当に嬉しそうでした。


── ご両親への素晴らしい贈り物ですね。

親元を離れて苦労を重ねてきた中で、いつか故郷を歌う楽曲を作りたいという夢がありましたから。だけど新曲を発表できるだけでも幸せだと感じ、懸命に努力してきました。今年で20周年を迎えます。「杖」からこのような流れになり、心から幸せに思います。

カップリング曲「ふたり舟」の魅力

── カップリング曲「ふたり舟」は吉さんのアルバムに収録されていた楽曲ですね。原曲よりも感情が深く込められているように感じます。

吉先生から「この曲は龍介に合うよ」と仰っていただき、アレンジはそのままでキーを半音上げて歌いました。詞を読んだ時、言葉が繋がり合い、自然と表現が浮かびました。「愛する人と全てを投げ捨て、あなたについていく」という言葉から覚悟を感じ、石川さゆりさんの歌をイメージしてレコーディングに臨みました。吉さんからいただいた大切な楽曲がまた一つ増えました。


── 改めて、吉さんへの思いをお聞かせください。

吉先生は少しでも近づきたいと願う大尊敬する先輩です。ユーモアがあり、センスも抜群で、楽曲も歌い方も素晴らしい。私はきれいに歌いすぎる傾向がありますが、吉先生のように言葉が聴き手に届き、聴く人を立ち止まらせるような歌を追求したいです。

20周年と未来への展望

── コンサートではお兄様がいつもお越しになるとか。ファンの皆さんの間でも人気だそうですね。


広島でイベントやライブがある際は、兄がほぼ毎回足を運んでくれます。最初から最後まで熱心に応援してくれます。身長182cmほどで背が高く、紳士的なので人気があり、「龍ちゃんよりお兄さんの方が好き」と言う声も聞こえます。兄も姉も、「呉に帰ろうかの…」で家族の歌が込められたことに大変喜んでいます。

── 今年9月で20周年を迎えられます。今後の展望をお聞かせください。


全国の皆様に「呉に帰ろうかの」を聴いていただき、それぞれの故郷を思い出してほしいです。“呉”を“年の暮れ”に変えて歌っていただいても良いかもしれません。また、健康にも気を配りたいですね。4月で50歳を迎えますが、健康診断で気になる結果が増えてきまして。血圧がやや高めで、痛風も時間の問題と言われています。毎日飲んでいるレモンサワーも控えないといけませんね。

── 最後に、ファンの皆様へメッセージをお願いします。



これからも皆様の心に響く歌を届けたいと思います。日々の生活は大変なものですが、私の歌を聴いて「今日も一日頑張ろう」と思っていただければ、歌い手としてこれ以上の喜びはありません。今後とも谷 龍介をよろしくお願いいたします。

インタビュー・文・撮影:ごとうまき