【寺本圭佑インタビュー】「発売日ギリギリまで悩んで議論した」大ヒット中の新曲『ほおずり』に込められた思いとはー。

インタビュー

“歌の宅配便”寺本圭佑の新曲「ほおずり」が2024年4月に発売され、母親の死をテーマにした心震わす作品に多くの人が共感し、反響を呼んでいる。関西プレスに初登場となる寺本圭佑さんにインタビュー。来年で歌手生活15年を迎える寺本さんに本作の誕生秘話や現在の思いを語っていただきました。

“死”をテーマにした“実話三部作”の誕生秘話

──今作も鮫島琉星先生作詞、小田純平先生による作曲で、発売してから反響が大きいとのこと。この曲についての思いを教えて教えてください。

寺本
「望郷本線」「折鶴夜曲~おりづるやきょく〜」に続く“実話三部作”で、今作は、よりリアルな詞を鮫島琉星先生に書いていただきました。ただあまりにもリアルすぎて、発売ギリギリまで悩み、議論しました。デビュー14年、これまでで一番多く議論し、葛藤した曲となっています。

── え、どうしてですか?

寺本
発売するのをやめようか、というところまでいきました。あまりにも歌詞のインパクトが大きいですから。前作「折鶴夜曲~おりづるやきょく~」は、「2023年度カラオケランキング」の男性部門1位をいただいたこともあり、今回は歌ってもらえないのではないか……と一抹の不安もあったんです。それに昨年1523箇所キャンペーンで回らせていただきましたが、キャンペーン先やライブ先で何か言われないかなとか、いろいろと悩みました。だけど、真っ直ぐに歌った心に響く歌は、出すべきだと。発売されて良かったです。

── ドラマや映画になりそうな壮大な物語ですよね。

寺本
1番の歌詞では、亡くなった母が喪主を務める息子を心配しているお通夜の様子が描かれていますが、このパターンってなかなかないですよね。2番の歌詞は、病室で手を握りながらの、息子からの目線で描かれた歌詞……。そして特に3番の歌詞にグッとくる男性が多いです。歌う前、最初は皆笑っているんですが、歌い出すとハンカチで目を押さえている方が多く……。歌い手としては、泣いてもらえると嬉しいのですが、ついつい貰い泣きしてしまうんですよ。

聴けば聴くほどクセになる“スルメソング”

── 鮫島先生からはどんなアドバイスがありましたか?

寺本
レコーディング時に言われた「一生懸命に歌わないこと、むしろ下手くそでいい」という言葉が印象的でした。演歌・歌謡曲は母音を押す歌い方が多く、今回はサラッと歌うことを意識。音にしっかり乗って、言葉を運んでいます。これまでの歌い方と変わったので、ファンの方には「本当に寺本くんが歌ってるの?」と言われるほど。それくらい、今回の曲では新たな自分を出しています。

── この曲はイントロもインパクトがあって、最後は霊柩車の音で終わるのが印象的。霊柩車は実際の音が使用されています。こういった部分にもリアリティーを追求しておられるのですね。

寺本
ガラスの割れた音や電車の音などはサウンドトラックにあるのですが、霊柩車の音ってなくて……。“霊柩車を見ると縁起がいい”というジンクスもあるので、最後の霊柩車の音にはそういった意味も込められています。

── 前々作の「望郷本線」は父の死について描かれ、「折鶴夜曲~おりづるやきょく~」は妻の死を、そして今作は母の死……。リアルで誰もが経験することを描いているからこそ、心に響くのでしょうね。全て“死”がテーマとなっていますが、何か意味があるのでしょうか?

寺本
鮫島先生の世界観だと思います。鮫島先生はもともとは僧侶とのこと。そういった方だからこそ生死に関わる事、突き詰めたことまで描けるのではないでしょうか。「望郷本線」を歌っている時期に、奇しくも僕も父を亡くし、あの歌そのものでした。そして「折鶴夜曲~おりづるやきょく~」は応援してくださっているご夫婦の物語。このようなリアリティーある歌は心に響くし、実際にいろんな方から“僕もそうだった”というお言葉をいただきます。

寺本
父が亡くなってから、母も調子が良くなくて入退院を繰り返しています……。“究極の親子愛”を歌った「ほおずり」を歌うことで、母に対して“ずっと元気でいてほしい”と、より強く思うようになりました。

── “死”というテーマは深くて、人によっては重く捉えられると思います。だけど、誰しもが経験する事。歌にもどんどん深みが増していますね。

寺本
「ほおずり」を最初聴いた時は“えぇ〜!”と、衝撃的かもしれません。だけど2回、3回と聴けば聴くほど、涙が出るけど聴きたくなってくる。“スルメみたいな歌だ”と言われます(笑)。

── カップリング曲「ラピスラズリをあなたと」についても教えてください。

寺本
アクセサリーにもよく使用されているラピスラズリは“幸福を呼ぶ石”と言われています。そんなラピスラズリのような瑠璃色の花火を見上げながらの年上の女性との恋を歌った歌です。このような曲調の歌を歌うのは初めて。ライブの途中に歌って、一緒にノリノリで踊ってもらいたい曲です。

歌は伝わるように歌わないといけない

── 「望郷本線」以降、歌い方に変化が表れたとのことですが、ご自身では意識されていますか?

寺本
自分では全く意識していないし気づいていませんでした。ある時、小田純平先生が「歌い方が変わった、実体験が入ってくると違うんだなぁ」と言ってくださって。普段はとても厳しい先生なので、嬉しかったです。歌は上手いだけではなく、伝わるように歌わないといけないんだと再認識しました。

──ある意味「望郷本線」が転機になったのですね。

寺本
キャンペーンで広島にいたときに、父が危篤との連絡が入って……。歌っていると場面、場面でその時の記憶が蘇ってきます。歌というよりも、ドラマを見ている感覚になるので、そういったところを小田先生は見抜いておられるのだと思います。

15周年はライブツアーが目標

── 歌手デビューして14年。元々は会社員でそこから歌手に転身。ユニークな経歴をお持ちですね。

寺本
昔から歌は好きで、20歳の時にNHKのど自慢に出演し、敬愛する山川豊さんの「アメリカ橋」を歌いました。その時に山川さんからお声掛けいただき、歌手デビューするきっかけもあったのですが、そこから12年間会社員をして、33歳で歌い手になりました。普通はそこで縁が切れるのですが、山川さんの前歌を歌わせていただいた時に山川さんは僕のことを覚えてくださっていて!そこからずっと、今も親交があり、毎日電話するほどの仲です。

── 来年4月でデビュー15周年になりますが、振り返ってのお気持ちは?

寺本
僕は奈良から歌手活動をスタートして、いまでは“歌の宅配便”として日本全国を回らせていただいています。「すごいね」と言っていただけますが、それだけステージに立たせていただける、ステージを作ってくださる皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです。有難いことです。

寺本
「ほおずり」を引っ提げて、年内も沢山のライブやコンサートに出演させていただきますが、これからも日本全国どこでも行きますよ!そして来年以降、15周年の目標はライブツアーをしてみたい。これからも応援よろしくお願いします!

インタビュー・文・撮影:ごとうまき