2026年1月、梅田芸術劇場メインホールで幕を開けるミュージカル『十二国記 ‐月の影 影の海‐』。小野不由美による大河ファンタジー小説の舞台化という、30年以上にわたり愛され続けてきた作品の世界初演で主演を務めるのは、柚香光だ。宝塚歌劇団を退団後、東宝ミュージカル初主演となる本作で、彼女は異界へと連れ去られた女子高生・中嶋陽子を演じる。
「平凡な女子高生だった陽子が、ある日突然、異界の地へ連れて行かれます。そこで鏡に映った自分の姿は、今までとは全く変わっている。その姿が変わったところから、私が陽子を演じさせていただきます」
日本にいる時の陽子を加藤梨里香が、そして異界での陽子を柚香が演じる。二人で一役を創り上げるという挑戦的な演出だ。異界で陽子を待ち受けるのは、想像を絶する試練の数々。生き残るために剣を握りしめ、裏切りや絶望と向き合いながら、彼女は旅を続けていく。
「壮大なファンタジーでありながら、そこには『生きるとは何か』『自分の運命に立ち向かうとはどういうことか』という、とてもリアリティーのあるメッセージが込められています」と柚香は語る。
台本を読んで最も心を動かされたのは、陽子の成長の物語だったという。「試練に対する向き合い方、自分の運命への立ち向かい方、過去の自分の生き方に対する姿勢に、すごく感銘を受けました。自分自身に立ち向かって、自分自身と戦いながら成長していく姿に、私もそうなりたいと強く思いました」
物語の序盤では、女子高生らしい迷いや葛藤が描かれる。「そこはすごく共感できる部分でした」と柚香。しかし、その後の陽子の歩む道は、まさに眩しいものだった。「彼女の言葉の端々から感じられる心の強さ、賢さ、真の強さというものを学びたいと思いました。今の自分のタイミングでこの作品に出会えたことに、深い意味を感じています」
ミュージカルとして、本作には数多くの楽曲が用意されている。「想像していた何倍もパワーのある曲が、次から次へと届いています。大曲が約30曲も続いていくんです」と柚香は目を輝かせる。「一人で歌う場面もあれば、様々なキャラクターが異なる立場から歌を掛け合う場面もあります。歌詞からもメロディーラインからも、オケのビートやリズムからも、色や香り、感情、振動といったものを皆様に感じていただけるはずです」
陽子役としてほぼ全編、舞台に立ち続ける柚香。「一曲一曲、一つの音符、一つのフレーズ、一つ一つの言葉を大切に、稽古を重ねていきたい」と意気込みを語る。
梅田芸術劇場に立つことについて、「本当に嬉しいです。あのシャンデリアが大好きで、メインホールでお客様と一緒に作品を共有できる時間が楽しみです」と笑顔を見せた柚香。加藤梨里香との共演については、「本当に可愛らしい方で、笑い声がずっと可愛くて。その梨里香さんと同一人物を演じる中で、お客様に説得力を持って感じていただけるよう、二人で一緒に中嶋陽子という人を探して作っていきたい」と語る。
「強さとは何か」という問いに、柚香はこう答えた。「自分の弱さと向き合って、それを変えていける。弱さに気づくことを喜びとでき、成長していくことを喜びと感じられること。それが強さだと思いますし、私もそうなりたいと思っています」
退団から1年以上が経ち、様々な舞台で活躍を続ける柚香。成長についての質問には、率直な思いを口にした。「成長したいと思いながら日々過ごしていますが、理想通りにはいかないこともあります。逃げてしまいたくなる時もある。でも陽子の成長する姿を読みながら、自分だったらこの時にこう言えるだろうか、こう受け止められるだろうかと考えると、できないなと感じることも多くて」
そして、こう続けた。「この1年は特に、成長したいという思いが強くあります。できているかどうかは、まだ道半ばだと感じています」
かつてセーラー服を着ていた女子高生時代を経て、宝塚音楽学校で学び、トップスターとして輝いた柚香。今、再び女子高生の制服に袖を通す。「まさかセーラー服を着る機会があるとは思っていませんでした。光栄でもありますし、緊張感もあります。でも身も心も陽子になりきって、舞台に立ちたい」
運命と向き合い、自分自身と戦いながら成長していく陽子の姿。それは、柚香光自身の今の旅路とも重なり合う。壮大なファンタジーの世界で、彼女はどんな陽子を見せてくれるのか。2026年1月、梅田芸術劇場で、新たな物語が幕を開ける。
取材・文・撮影:ごとうまき