【小池徹平インタビュー】ミュージカル『ある男』 Xという謎めいた人物を演じる魅力と覚悟

インタビュー

9月12日(金)から15日(月)まで、SkyシアターMBSにて上演されるミュージカル『ある男』。原作は平野啓一郎氏の同名小説で、アイデンティティや家族の絆、嘘と真実をテーマにした深い物語が、ミュージカルならではの音楽と舞台表現で描かれる。主人公・Xを演じる小池徹平さんに、稽古の様子や役作り、共演者への思い、そして公演への意気込みについて伺った。稽古が始まったばかりの今、作品に向き合う情熱と小池さんの言葉は、ファンならずとも心を掴むものがある。

──現在、稽古が始まったばかりで、歌稽古の段階とのこと。ジェイソン・ハウランド氏が来日して、初日に一緒に歌稽古を行ったとのことですね。原作と台本を読んだ印象や、どんな作品になりそうか教えてください。

小池

現段階では台本が8~9割完成している状況です。オリジナルミュージカルなので、一から作っている真っ最中なんです。ジェイソンさんが来日して歌稽古を始めてみたら、「ここはメロディーを変えよう」とか「章良とXが交互に歌う方が感情が伝わるんじゃないか」といったアイデアが出てきています。原作の言葉をそのまま使う部分と、ミュージカルならではの音楽的要素を融合させている段階で、みんなで試行錯誤している感じです。特に、原作にはないXと章良の掛け合いのシーンが、ミュージカルの魅力の一つになりそうです。原作や映画をご覧になった方は、ミュージカル化に驚かれたかもしれませんが、楽曲がこの作品の鍵を握っています。例えば、制作発表で紹介した《暗闇の中へ》という曲は、亡魂であるXと、彼の影を追う木戸明が舞台上で交錯する、演劇的で幻想的なシーンを表現しています。原作ではあり得ないような状況が、ミュージカルの見どころになると思います。

── 原作の感想や、Xというキャラクターについてどう感じていますか? また、ミュージカルとしてどう表現しようと考えていますか?

小池

原作は、アイデンティティというテーマが強く、自分自身や他人に対してどんな「仮面」を被っているのか、肩書きや名前、国籍を剥がした時に何が残るのかを問いかける作品です。ストーリー自体もミステリー要素が強く、最初から謎めいた展開で引き込まれます。ミュージカルでは、この壮大な物語を短い時間で凝縮して表現しなければならないので、Xという人物をどう残像として残すかが重要だと感じています。Xは、回想シーンで描かれることが多いので、少ない時間の中で彼がどんな人物だったかを観客に想像させる演技が求められます。原作では幸せな家族として生きたXの姿はあまり描かれていないので、台本に書かれていない部分も自分で補完しながら役作りしています。短い時間でXの人間性をしっかり表現できるよう、丁寧に準備しているところです。

── Xの物語は、嘘や偽りの姿が家族に明らかになっていくという衝撃的な展開が特徴です。このテーマについて、ご自身の実生活に置き換えて想像することはありますか?

小池

確かに、身近な人が実は全く違う一面を持っていた、というのは突拍子もない話ですが、この作品の面白いところでもあります。現実で名前を偽るような極端なことはないにしても、誰しも他人に見せる顔と本当の自分は少し違う部分があるんじゃないでしょうか。例えば、仕事ではしっかりした自分、家族には優しい自分、弱音を吐く自分…皆さん何かしらの「仮面」を被って生きていると思います。僕自身、爽やかなイメージを持たれがちですが、普段はゴリゴリ関西弁で喋ったりします(笑)。他人から勝手に持たれるイメージと、自分の本当の姿が違うこともありますよね。見せられない部分? そうですね、頑張ってる姿はちょっと子どもに見られたくない、恥ずかしい気持ちがあります。舞台はギリギリOKかな(笑)。この作品では、嘘や偽りがテーマですが、芝居自体が「作られた嘘」を扱うものなので、妙な親近感があります。舞台上で愛や喪失を表現する時、演じながらも本物の感情に近い感覚になるんです。Xが名前を偽ってまで手に入れた幸せは、彼にとって本物だったんだろうな、と想像します。その説得力が、演じる上で共感できる部分ですね。

── 今回、浦井健治さんと共演されるということで、浦井さんの役者としての印象や、共演についてのお話を聞かせてください。

小池

浦井さんとは、8年前の『デスノート』で初めて共演しました。彼は舞台を中心に活躍していて、役の幅がどんどん広がっていて驚きます。今度も人間じゃない役をやるって聞いて、「どこまで進化するんだ!」って(笑)。舞台での職人技や、ミュージカル業界の先輩としての姿勢に対して尊敬しています。でも、物腰は柔らかくて、僕みたいに途中から舞台に入った人間にも仲間として接してくれるんです。一緒に作品を成功させよう、という人間的な信頼感がすごくあります。プライベートではあまり会う機会はないんですが、同じ整体院に通っていて、そこで「けんちゃん情報」を勝手にアップデートしてもらっています(笑)。最近は車にハマってるらしいとか、そういう話を聞いてるので、久しぶりの共演でも「ついこの間会ったね」くらいの感覚で始められました。彼が忙しすぎて、いつ『ある男』モードに切り替えてくれるのか、楽しみです。

── 最後に、公演を楽しみにしているお客様へメッセージをお願いします。

小池

大阪公演は、東京や他の地方を回って最後になるので、作品が熟成して完成した状態でお届けできると思います。SkyシアターMBSで上演できるのも楽しみです。今年の夏もとても暑くなりそうなので、海や山もいいですが、涼しい劇場でミュージカルを観るのも最高の夏の思い出になると思います。濃密な舞台を皆さんに届けられるよう頑張りますので、ぜひ観に来てください!

取材・文・撮影:ごとうまき