藤原紀香、関西のお客様と「ようやく約束が叶う」──舞台『メイジ・ザ・キャッツアイ』再演で大阪・新歌舞伎座へ

インタビュー

2024年、明治座創業150周年記念公演のフィナーレを飾り、好評のうちに幕を閉じた舞台『メイジ・ザ・キャッツアイ』。約2年半の時を経て、待望の再演が決定した。怪盗キャッツアイの三姉妹――来生瞳(藤原紀香)、来生泪(高島礼子)、来生愛(剛力彩芽)――が再集結し、三姉妹によるトリプル主演が再び実現する。

原作は北条司の不朽の名作『キャッツ♥アイ』。物語の舞台を明治時代に移し、脚本・岩崎う大(かもめんたる)、演出・共同脚本・河原雅彦のもと、舞台版オリジナルキャラクターも交えた、舞台ならではの物語が繰り広げられる。9月26日の福岡・博多座を皮切りに、現在は東京・明治座で11月1日まで上演中。そして11月14日から23日まで大阪・新歌舞伎座と、全国3都市を巡演する。

時は明治の東京。夜の街を騒がせる麗しき女怪盗・キャッツアイの正体は、喫茶「猫目」を営む三姉妹だった。ある日、車いすの少女・栞と、その執事・藤堂が店を訪れたことをきっかけに、謎の怪盗ホークスクロウが出現。さらに三姉妹が探し求めてきた父、ミケール・ハインツの絵との思わぬ再会を機に、物語は大きく動き始める。

大阪公演を控えた取材会で、瞳役の藤原紀香に、「再演を再現にしない」という挑戦、明治という時代設定だからこそ生まれる面白さ、そして宙乗りへの思いまで、たっぷりと語ってもらった。

――今回は前回公演の続編になるのでしょうか。

藤原
続編ではなく、2年半前の明治座150周年のために作られた作品の再演です。初演は東京公演のみでしたが、多くのお客様に喜んでいただいて。「盛りだくさんすぎて目が足りない!」と、二度、三度と足を運んでくださる方も多く、そのときから「これは再演のお声がかかるのでは」と予感していました。今回、関西でも上演できると聞いたときは、本当に嬉しかったです!

台本の大きな軸は同じですが、河原先生を中心に、キャストそれぞれが「もっと良くするにはどうしたらいいだろう」とアイデアを出し合い、多くの場面が進化しました。新しいメインキャスト、崎山つばささんを迎えたことで生まれた良い化学反応もあります。作品を作り上げていくうちに、「再演は再現ではないんだ」ということを、私たち自身が実感するようになりました。今、東京公演の真っ最中ですが、初演をご覧になった方からも、「既視感がない!ますます面白くなってる!」と日々多くの声が寄せられていて、嬉しい限りです。脚本は同じでも初演をなぞるのではなく、一度作品を経験した私たちだからこそ、その先へ進む。かなりパワーアップした『メイジ・ザ・キャッツアイ』になっていますので、早く関西のお客様に観てほしいです!




――「何でもありのジャパニーズエンターテインメント」とのことですが、具体的にはどんな要素が詰まっているのでしょうか。

藤原
全体的に原作へのリスペクトを基調に、ラブコメあり、アクションあり、謎解きあり、家族愛やドキドキする愛の形も。そして『キャッツ♥アイ』といえば、杏里さんの名曲! 歌唱シーンもあり、アニメのエンディングテーマにのせたあのダンスナンバーなど、ショーとして楽しんでいただける要素も。さらに、キャッツアイならではの宙乗りにも、ぜひご期待ください。
花道やせり上がりなど、大劇場ならではの舞台機構もふんだんに使っています。「これもあるの?」「まだあるの?」と思っていただけるくらい(笑)、宝箱のような楽しみが詰まった作品です。



――明治時代という設定によって、原作にはない面白さも生まれているそうですね。

藤原
はい! 原作でも印象的な、キャッツアイの次女・瞳と刑事・俊夫の恋のやりとりが、明治という時代の倫理観をまとうことで、より初々しくなっています。手と手が触れることさえ一大事でドキドキする時代ですから、接吻の話をするだけでもう大事件。二人の間に生まれるもどかしさが新鮮で、お客様にもドキドキ、キュンキュンしていただけると思います。

河原雅彦さん演出ならではの、おかしみのある場面が多くありますが、私たちは笑わせようとして演じていません。すべての場面において、登場人物たちはいたって真剣。その真剣なやりとりの中で、稽古場で生まれた発見が、結果としてお客様の笑いにつながっていく。そのあたりの絶妙なさじ加減は、河原先生の得意とするところだと思います。

音楽にも時代を感じさせる三味線の音色が取り入れられていますし、キャッツアイのレオタードをベースに和洋折衷の要素を加えた衣裳など、三姉妹それぞれのコスチュームも魅力的です。『キャッツ♥アイ』のスタイリッシュな世界と、明治の文明開化の空気が出会った、この舞台ならではの世界観を存分に楽しんでいただきたいですね。




――瞳という役は、どんな役で、どのようにパワーアップしているのでしょうか。

藤原
原作と同じく、行方不明になったドイツ人画家、ミケール・ハインツの娘で、ハーフです。今回あらためて作品と向き合う中で、杏里さんの歌の「♪緑色に光る――」という言葉にも、「そういうことだったのか」と気づかされるところがあったり。三姉妹は、行方のわからない父の消息を追いながら、組織に奪われた父の絵を取り戻すため、怪盗キャッツアイとして生きています。

一方で、瞳の恋人である俊夫は刑事で、キャッツアイを追う立場。「キャッツを捕まえないことにはプロポーズはできない」と言い続けている。つまり瞳の中には、キャッツアイとして果たさなければならない使命と、俊夫を愛するひとりの女性としての心が常に同居しています。強さだけではなく、その間で揺れる女心や切なさなども大切に演じたいと思っています。

そして今回は、俊夫役として崎山つばささんが初めてこのカンパニーに参加してくださいました。新しいお相手役との間で生まれる化学反応も楽しみですし、日々お互いのお芝居にも変化があり、楽しいです。私たちにしか出せない色合いの“瞳とトシ”を作れたらと思っています。




――再び三姉妹で舞台に立ち、あらためて気づいたことはありますか。

藤原
いい意味で三人の間に遠慮がなくなったのかも(笑)。プライベートでも一緒にゴルフをしたり、映画や舞台を観に行ったり。本当の姉妹のような関係になってきたと思います。
稽古場でも、それぞれが生き生きと意見を出し合ってきましたし、体調の変化なども家族のようにわかります。誰かが困っていたら自然に助け合う。初演から時間を重ねてきたからこその信頼関係があります。

長女・泪役の高島礼子姉さんは、それぞれの個性を大きな心で受け止めてくれる方。包容力があって、でも時々とっても天然さんで(笑)。そこもまた素敵なんです。妹の愛を演じる剛力彩芽さんも、愛ちゃんそのもの。身体能力抜群で、本当にキュートな妹です。舞台上だけではなく、普段から姉妹のような空気が自然に生まれていることが、今回の三姉妹にもきっと表れていると思います。




――かつて映画版では泪役を演じられました。舞台で瞳を演じる今、映像版との違いをどう感じていますか。

藤原
同じ原作に、人生の異なる時期に、泪と瞳というイキのお役で、しかも映像と舞台という違う表現で関わることができた。このご縁はとても特別ですし、幸せなことだと思っています。以前の映画では泪を演じました。長女として、母親の代わりのように妹たちを精神的に支える立場でした。

そして今、次女の瞳を演じてみると、「あのとき泪は、こんな気持ちで妹たちを見ていたのかもしれない」と、以前演じた役の心まで、あらためて見えてくるような瞬間があるんです。同じ作品の中で違う人物を生きたからこそ見える景色がある。それは役者として、とても面白い経験だと感じています。




――出身地・関西で上演できることへの思いを聞かせてください。

藤原
初演のときから、関西のお客様に「関西でもやってほしいわぁ」と、本当にたくさん声をかけていただいていたんです。ですから今回は、「ホームでようやく約束が叶う」というような嬉しさがあります。

関西のお客様には、面白いと思うものに素直に反応してくださる温かさと、もっともっと楽しもうとする貪欲さのようなものがあると感じています。その空気がダイレクトに私たちにも伝わってきて、とても大きなエネルギーになるんです。
私にとってはホームでもありますし、そんなホームで、この作品のラストスパート、そして大千穐楽を迎えられることを幸せに感じています。関西公演・新歌舞伎座にいらしてくださるお客様と心をひとつに、最後まで駆け抜けたいですね。




――原作を読み直して、あらためて感じた北条司作品の魅力は何でしょうか。

藤原
声を出して笑ってしまう場面もあれば、ドキドキしたり、もどかしくなったり。若い頃に原作を読んだり、テレビアニメを観たりしたときの感情が、今でも鮮やかに蘇ってくるんです。でも、大人になった今あらためて触れてみると、以前とは違うところにも心が動きます。
家族への愛、恋人への愛、会いたい人に会えない切なさ――。実はとても深い“愛の物語”なのだと感じるようになりました。スタイリッシュでクール、そしてビューティフルな三姉妹と、彼女たちを取り巻く個性的で魅力的な人々。その華やかな世界の真ん中に、しっかりと家族愛や恋愛の人間ドラマがある。そして、エレガントで品のある色気が漂っている。それも含めて、時代や国境を超えて長く愛され続けている理由なのではないでしょうか。



――瞳とご自身との共通点は感じますか。

藤原
瞳は明るくて行動派。そして、とても情が深い女性です。私自身も、大切なもののためなら、考えているうちに身体が先に動いてしまうところがあるので(笑)、そこは似ているかもしれませんね。もちろん仕事はとても大切です。でも、家族や大切な人とのつながりは、私にとってかけがえのないものです。

瞳も、一見するととても強い女性に見えますが、実は繊細で、揺れたり迷ったりする部分を持っています。強さと繊細さは相反するものではなく、どちらもひとりの人間の中にあるもの。その両面を大切にしながら、瞳という女性を演じたいと思っています。




――初演から2年半、藤原さんにとってどんな時間でしたか。

藤原
舞台では、この2年半の間に『カルメン故郷に帰る』『罠』『サザエさん』『忠臣蔵』『まんが日本昔ばなし』など、本当にさまざまなお役と向き合ってきました。時代もジャンルも、生き方もまったく異なる人物たちですが、お役との出会いは偶然ではなく、その時々の自分に何かを問いかけてくれる必然のように感じています。「なぜ、この役が今の自分のもとに来たのだろう」「この人物がその時代を生きた姿を通して、今の時代に何を伝えられるだろう」と、その意味を考え、掘り下げながら、一役一役と向き合ってきた2年半でもありました。もちろん、原作のある作品では、そのキャラクターへのリスペクトを何より大切に、全身全霊で役作りに向き合います。

演じたお役は、公演が終わればそこで終わるものではありません。その人物とともに生きた時間や、そこで感じ、学んだことは、確実に自分の中に積み重なっていくものだと思っています。だからこそ、2年半を経て再び瞳を演じる今、初演のときとは違う、今の自分だからこそ生まれる瞳が必ずいると思っています。
これからも、この人生でご縁をいただいた一つひとつのお役を大切に、その人物が生きた時間や心に誠実に向き合いながら、今の自分だからこそできる表現を探し続けていきたいと思っています。




――前回、人生で初めて宙乗りを経験されました。

藤原
「キャッツアイに不可能はなくってよ」という世界観の中での宙乗りですから、ぜひ楽しみにしていただきたいです。全50公演、やはり毎回、宙を飛んでいる時間には緊張感が伴います。劇場でのリハーサルでは思わず悲鳴が出てしまうこともありますが、本番になると、お客様が勇気をくださるんです。1階、2階、3階のお客様が笑顔で手を振ってくださる。その応援を受けながら、客席の景色を空中から眺められるというのは、舞台人として、とんでもなく贅沢な経験で、怖さは吹っ飛びます!

宙乗りを担当してくださっているチーム・カオスの方からは、「夫婦で宙を舞うというのは、演劇史上でも聞いたことがない」と伺いました(笑)。夫も歌舞伎でよく宙乗りをしていますから、そんな不思議なご縁も楽しみながら務めています。

実は高いところに関しては、以前、海外合作映画『SPY_N』の撮影で、工事中の高層ビルの地上44階、約172メートルの高さで吊られて撮影した経験があるんです。ですから、「あのときに比べれば、まだ低いかな」と(笑)。そうやってポジティブに考えています。




――アクションシーンに向けて、体づくりで心がけていることは。

藤原
今回はアクションも少し増えています。塔の上のある場面では、舞台袖に鉄棒を設置していただいて、そこから勢いよく飛び出す動きを提案したり。よりキャッツアイらしい身体表現を探っています。
ただ、稽古着ではできていた動きも、実際にキャッツの戦闘服を着て、スエードのロングブーツを履くと、途端に身体が重く感じるんです。稽古で思いきりずっこけたりもしました。衣裳を身につけた状態で成立してこそ本番ですから、氣愛でつとめます。
カンパニーの中には 身体能力の高い方が多く、場面ごとに新しい表現に挑戦しています。それぞれの力やアイデアが重なって初めて生まれるものがある。そこも、このカンパニーならではの魅力だと思います。



―稽古場は連日、藤原が「プロの大運動会」と表現するほどの熱量に包まれていたという。初演の稽古初日、演出の河原雅彦から「時間が足りません」と告げられたというエピソードを振り返りながら、藤原はこう話す。

藤原
舞台裏では終始走っていますし、早替えはまるでF1のピット作業(笑)。私たちキャストが大変であればあるほど、その分、お客様には楽しんでいただける。それがエンターテインメントの基本だと思っています



三姉妹の絆、原作へのリスペクト、明治という時代設定だからこそ生まれた新たな『キャッツ♥アイ』の世界。そして、初演から約2年半を経て、それぞれが積み重ねてきた経験。「再演を再現にしない」という言葉通り、もう一度同じものを見せるのではなく、一度生きた作品だからこそ、その先へ――。故郷・関西の観客との「約束」を果たす大阪・新歌舞伎座で、三姉妹がどんな進化を見せるのか。楽しみに待ちたい。

ふじわら・のりか/兵庫県出身。大学在学中の1992年にミス日本グランプリを受賞。舞台や映像作品、司会や声優など幅広い分野で活躍。最近の主な出演作は舞台『サザエさん』『忠臣蔵』『罠』『まんが日本昔ばなし劇場』など。映画『裏社員。–スパイやらせてもろてます』『お終活3 幸春!人生メモリーズ』、ドラマ『家政婦クロミは腐った家族を許さない』、などでも個性的な存在感を残す。2025年開催の大阪・関西万博で日本館名誉館長を務めた。

インタビュー撮影/河上 良

ヘアメイク/光倉 カオル(ダイナミック)

スタイリスト/今井 聖子(Canna)

取材・文/ごとうまき