【いのうえひでのりインタビュー】劇団☆新感線46周年、スチームパンクで描く「怪奇骨董音楽劇」の正体

インタビュー

2025年に45周年という大きな節目を「ザ・新感線」ともいえる集大成で飾った劇団☆新感線。その興奮も冷めやらぬ中、2026年8月、次なる一手が大阪・フェスティバルホールで産声を上げます。タイトルは、SHINKANSEN☆RSP 怪奇骨董音楽劇『アケチコ!〜蒸気の黒ダイヤ、あるいは狂気の島〜』。「Rシリーズ」には初参戦となる宮野真守さん、そして10年ぶりの凱旋となるWEST.の神山智洋さんを迎え、外部作家・福原充則さんとタッグを組む本作。主宰・いのうえひでのりさんに、今作に込めた「企み」をじっくり伺いました。

福原充則という「毒」と「愛」を求めて

――今回は外部作家として福原充則さんを迎えられました。起用の経緯を教えてください。

いのうえ
福ちゃん(福原充則)の芝居は昔からよく見ていたんですよ。それにうちの劇団員の高田聖子や古田新太が外部で客演する作品の作・演とか笑いのセンスはもちろん、どこか不気味というか、影があるような描き方が面白いなとずっと思っていて。

実は以前にも一度お願いしていたんですけど、コロナ禍で流れてしまって。今回、改めて「ぜひ」ということで実現しました。昨年の45周年公演(『爆烈忠臣蔵〜桜吹雪THUNDER STRUCK』)がいわば「OB・OG大集合の王道・新感線」だったので、今回は全く違う毛色の、新感線のメインラインとは少し違う作品に挑戦したかった。タイミング的にも今がベストでしたね。

――福原さんはコメントで「出演者に向けたラブレター」だと仰っていますね。

いのうえ
彼はよく劇団の公演も見てきてくれるんですよ。だから、今回の「あてがき」も初めてとは思えないくらい、劇団員たちの特性をよく捉えている。すでにチームの一員として関わってくれている感覚があります。

――公開されたビジュアルも、一癖も二癖もありそうな「うさん臭さ」が漂っています。

いのうえ
そうそう。ちょっとインチキ臭くて不思議な感じ。ドタバタ劇なんだけど、どこかアングラの匂いもする。狙い通り、いい感じの仕上がりになっていますよ。

「ネタもの」のエッセンスを現代の感性で

――今作は、いのうえさんがかつて手掛けられた「ネタもの」のエッセンスを、福原さんが独自に解釈して描くそうですね。

いのうえ
昔の「ネタもの」っていうのは、主に下ネタを中心にした「観終わった後に何も残らない芝居」をひたすら追求していた時期の作品群なんです(笑)。でも今は時代的に、僕や中島かずきさん(座付き作家)ではなかなか当時のままの「ネタもの」は描きづらくなっている。そこへ行くと、福ちゃんは不真面目な面白さを描くのが上手いし、なおかつミステリー仕立てにして「影」を落とし込むこともできる。ストーリー自体はドタバタで進みますけど、「それだけじゃ終わらないぞ」という、不思議で不気味な着地点が見えてくるはずです。

――「Rシリーズ」といえば、これまではメタルやハードロックの印象が強いですが、今回は「音楽劇」という冠がついています。

いのうえ
これまでのRシリーズはメタルマクベスや五右衛門ロックのように、ハードロックやメタルが中心でした。でも今回は「怪奇骨董音楽劇」。60年代、70年代の洋楽やグループ・サウンズのような、少し懐かしくてノスタルジックなテイストでいきたいなと。昭和世代にはグッとくるし、令和の若い人には逆に新鮮に響く音楽になるんじゃないかな。もちろん今回も生バンドの演奏です。

宮野真守×神山智洋、二人の名探偵が奏でる化学反応

――注目のキャストですが、アケチコ役の宮野真守さんはRシリーズ初参戦ですね。

いのうえ
宮野くんは『神州無頼街』の時もそうでしたけど、とにかく歌える。彼は自身でライブ活動もしているアーティストでありますからね。今回は生バンドをバックに、遠慮なくガンガン歌ってもらおうと思っています。そこは大きな見どころですね。

――そして、10年ぶりの出演となるWEST.の神山智洋さんが、探偵・新田一耕助役を演じます。

いのうえ
10年前の彼はまだWEST.としてデビューして間もない頃でしたけど、今はもう、歌も踊りもお芝居も、何でも器用にこなす。単独での主演舞台でも難しい役に挑戦して蓄積を作ってきているので、今回はそのスキルを贅沢に、無駄遣いしてほしいなと(笑)。

――お二人と実際にお話しされて、いかがでしたか?

いのうえ
二人とも「久しぶりの新感線、楽しみです!」と前向きに参加してくれています。うちの劇団員、おじいさん・おばあさんたち(笑)にとっても、若いエネルギーが入ってくるのは良い刺激になる。「親戚一同で応援するよ!」みたいな盛り上がりになりますからね。

江戸川乱歩的スチームパンクの嘘と真実

――舞台設定は大正浪漫、スチームパンク、江戸川乱歩的世界観……と、盛りだくさんです。

いのうえ
福ちゃんに依頼する段階で、横溝正史や江戸川乱歩のような、昭和初期や大正時代の「謎が多い時代」をやりたいと伝えていました。この時代設定はいいですよ。いくらでも嘘がつけるし、怪しい人物が出てきても「あの時代ならあり得るな」という説得力が生まれる。時代劇と同じで、虚実の織り交ぜ方が非常に面白いんです。

――古田新太さんのビジュアルも、怪人じみていて期待が高まります。

いのうえ
古田はね、こういう「ジェンダーの謎がある怪人」みたいな役、実は多いんですよ。今回はちょっぴり美輪明宏さんのテイストを彷彿とさせるような……。彼にしか出せない、怪しくて魅力的なキャラクターになると思いますよ。

46周年、そして「70代」という背中を見つめて

――劇団☆新感線は1980年の旗揚げから46年。これほど長く第一線を走り続けられる秘訣は何でしょうか。

いのうえ
先のことはあんまり考えていないんですよね。「いつ終わってもいいように」と、毎回毎回を記念公演のつもりで、一本一本出し切ることだけを考えてきた。たまたま気づいたら46年経っていた、というのが正直なところです。40年の時には「45年までやれるかな?」と思っていましたし、今はもう50周年が目の前に見えてきて「おいおい、70歳になっちゃうよ」って(笑)。

――いのうえさんにとって、大きな転機となった作品はありますか?

いのうえ
やっぱり『阿修羅城の瞳』(2000年)かな。その前の97年版『髑髏城の七人』を市川染五郎さん(現・松本幸四郎)が見てくださって、「これが現代の歌舞伎ですね」と仰っていただいた。そこから新橋演舞場での公演につながったので、あの時期に「いのうえ歌舞伎」というスタイルを確立できたという手応えはありました。当時は20年以上前ですから、あの頃は僕もまだ「ぶちかましてやる!」っていう若者らしい野心に溢れていましたね。

――今もその情熱は衰えていないように見えます。

いのうえ:先日、沢田研二さんの舞台を見に行きましてね。70代半ばを過ぎても、ステージに立つとやっぱり「ジュリー」なんですよ。しびれましたね。ああいう先輩方を見ていると、僕なんてまだまだ頑張らなきゃいけないな、と思います。[/voice]

初めての方も、常連の方も「覚悟して」楽しんで

――最後に、この夏フェスティバルホールへ足を運ぶファンの方へメッセージをお願いします。

いのうえ
初めて新感線を見るという方は、最初は「なんだこれ?」と引くかもしれません(笑)。でも、しばらく我慢して見続けてみてください。だんだんその世界観がクセになって、楽しめるはずです。もし不安なら、U-NEXTなどで過去の映像作品「ゲキ×シネ」を予習してくるとノリが掴みやすいかもしれません。

常連のファンの皆さんには……「今回はちょっと、今までと違いますよ」と言っておきたいですね。特に中島かずき作品の熱い冒険活劇を期待している人は、「今回は福ちゃんだから、違うものを楽しみに来たんだ」と、文句を言わずに受け入れてください(笑)。生バンドが奏でるノスタルジックな音楽と、ドタバタの中に漂う不思議なアングラの匂い。大阪・フェスティバルホールの素晴らしい音響の中で、思いっきり「音楽劇」を堪能していただきたいです。

【公演情報】

2026年劇団☆新感線46周年興行・夏公演

SHINKANSEN☆RSP 怪奇骨董音楽劇

『アケチコ!〜蒸気の黒ダイヤ、あるいは狂気の島〜』

日程:2026年8月20日(木)〜8月30日(日)

会場:大阪・フェスティバルホール

作: 福原充則

演出: いのうえひでのり

出演:宮野真守、神山智洋(WEST.)/石田ニコル、浜田信也、志田こはく、粟根まこと/古田新太 ほか

 

インタビュー・文・撮影:ごとうまき