【加藤シゲアキ インタビュー】「フランス超えの熱狂を大阪へ!」エドモン再演、2年の進化を語る

インタビュー

大阪の地で、熱狂と笑いに満ちた舞台が再び幕を開けた。加藤シゲアキさんが出演する「エドモン〜『シラノ・ド・ベルジュラック』を書いた男〜」が、5月9日・10日に東大阪市文化創造館 Dream House大ホールで上演中。本作は、名作『シラノ・ド・ベルジュラック』の誕生秘話を描いたドタバタ幕内コメディで、2023年の初演から2年ぶりの再演だ。大阪公演前日に加藤シゲアキさんにインタビューを行い、再演までの進化やエドモン役への思い、大阪公演への期待を語っていただきました。

2年寝かせたエドモンは4K級

── 大阪公演が目前ですが、まずは東京公演を終えた感想を教えてください。

加藤
東京公演は本当に盛り上がりました! 初演はコロナ禍の余韻があって、笑いも少し抑え気味だった部分があったんですけど、今回は演出のマキノノゾミさんやキャストの皆さんがパワーアップした要素をガンガン加えてくれて、とても力強い舞台になりました。渋谷・PARCO劇場のサイズ感も良かったのかな。前回は新国立劇場で新作としての緊張感があったけど、今回は熟成された余裕があって。観客の方から「前回はフルHDだったのが、今回は4Kになったみたいにクリア!」という感想をいただき、確かに役者やキャラクターの思いがより鮮明に立ち上がってきたなと感じています。

── 新キャストも加わって、どんな変化がありましたか?

加藤
村田雄浩さん、瀧七海さん、阿岐之将一さん、堀部圭亮さんといった新しいキャストが入って、化学反応がすごかったですね。新しい皆さんがこの大変な舞台に挑んでくれた中で、前回以上に「ここ、もっと面白くできる!」ってポイントが見つかった。稽古場で「あ、こういうことだったんだ!」という答え合わせできる場面がたくさんあって、2年という時間が作品に立体感を与えてくれたなと実感しています

僕らが苦しめば苦しむほど、お客さんにとっては楽しい舞台に

── この舞台はかなりハードだと聞きました。キャストの皆さんの様子はどうでした?

加藤
本当にハードですよ! 休む暇がないし、キャスト全員が舞台転換にも参加するから、みんなで『地獄へようこそ!』って合言葉にしていました(笑)。僕らが苦しめば苦しむほど、お客さんには楽しい舞台になるんですよね。東京公演を無事に乗り切れて、ほっとしています。初演の時は体調が危なかったキャストもいたみたいですけど、今回はみんなで乗り越えられた。キャストが一つにならないと形にならない舞台なんで、自然と仲良くなれるんです。フランス版のスタッフに聞いたら、向こうでも同じらしいです。この団結力は作品の魅力の一つですね。

── 加藤さんご自身は体調面や精神面でどうでしたか?

加藤

僕は健康なんで体調は大丈夫(笑)。でも、精神的には追い詰められますね。始まる前は「またあの地獄か…」って思うけど、やってしまえば楽しいんです。初演の時はゴールテープを切る達成感がすごかったけど、千秋楽の時に「再演をやりたい」って言われて、「2年後の地獄を予告するノストラダムスか!」って(笑)。でも、稽古場も本番も楽しくて、喉や声に負担がかかる芝居だけど、緊張感も含めて「こんな舞台、他にないな」って思います。

── 本作はスピード感も特徴的ですが、その背景は?

加藤
フランス版を参考にしました。フランス版は2時間以内で終わるんです。日本語だと2時間半くらいになりがちなんですが、演出のマキノさんが「フランス人のスピード感を目指そう!」と、初演からそのテンポを意識してきました。でも、原作者のミシャリクさんが東京公演に来てくださった時に衝撃の事実が! フランス版自体が、フランスの演劇の中でも異常に早いらしいんです(笑)。僕らはオリジナル台本をそのままやってるのに、「なんでこんな早くやってたんだ!」って。でも、そのテンポが独特の熱量を生んでて、他では見られない舞台になってると思います。上演回数700回を超えるロングラン記録を持つ作品の魅力が、日本でもしっかり伝わってるなと。

この2年の経験が役にも反映!

── 初演から2年、再演での役作りで深まった部分はありますか?

加藤

この作品はガチガチに役作りするタイプの芝居じゃなくて、物語に沿って自然に役ができていく感覚なんです。初演の時にプロデューサーが「再演でもっと立体感が出る」とおっしゃっていて、やってみてその意味が分かりました。それにセリフは膨大だけど、2年でしっかり落とし込まれて、タイムも前より短くなっている。でも早口にしてるわけじゃなくて、熟成された余裕の中で感情を込められるようになった。この2年間が勝手に役作りしてくれたという感じですね。それに初演時から再演が決まっていたので、ずっと心のどこかにエドモンがいたし、この2年で小説を書いたりいろんな経験をしたのが無意識のうちに反映されているのかもしれません。寝かせると良くなるものもあるんだなって。

── 作家としても活躍されている加藤さんですが、エドモンに共感する部分は?

加藤

彼の志の高さに共感するよりも憧れの方が大きいです。エドモンはいろんな人の意見に影響されながら着想を得ていく。その苦しさは小説家の僕よりも大きかったと思います。僕自身は悩みながら突き進むタイプですが、エドモンのように周囲からヒントを得る気持ちは理解できます。作品が自分や周りの人より大事になる瞬間ってあるし、作品が自分の子どもみたいな存在になる感覚は、エドモンと重なります。

フランス版新喜劇のような部分も

── 大阪での上演に対しての思いを教えてください。

加藤
大阪のお客さんは笑いへの反応が早くて、せっかちな僕にぴったり(笑)。この舞台はテンポが速くて、ベタな笑いもあるけれど、物語の点でちゃんと笑える。フランス版の新喜劇みたいな瞬間もあるから、きっと大阪の方たちもハマるはず。前回の大阪公演で、『シラノ・ド・ベルジュラック』という100年前の作品が国や時代を超えて届く力に感動しました。物語や演劇の力が、エドモンが伝えたかったことそのものなんだなって。今回は観光したりする時間がないのが残念ですね。司馬遼太郎記念館に行こうと思っていましたが……、また改めて来たいですね。

── 最後に、皆さんにメッセージをお願いします。

加藤

再演は前作以上にパワーアップしてるので、初演を見た方も絶対に楽しめます。2度見た人からも「前より面白かった」という声がたくさん寄せられました。もし再々演があると言われると悩むくらいにこの舞台は本当にハードです。なので今回が最後だと思って、ぜひ見に来てください。東京でもフランスを超える熱狂ぶりだったし、大阪公演、福岡公演、愛知公演でもきっと楽しんでもらえるはずです。

取材・文・撮影:ごとうまき