【Interview】大橋トリオ、13年ぶりの“ロック”、最新作『A BAND』に込めた職人の矜持と進化

J-pop

デビューから20年近く、その類まれなる音楽センスでファンを魅了し続けてきた大橋トリオ。2024年11月の『GOLD HOUR』からわずかなスパンで届けられた17枚目のフルアルバム『A BAND』のテーマは、意外にも13年ぶりとなる「ロック」だ。

しかし、そこに鳴っているのは巷に溢れるステレオタイプなロックではない。無駄を削ぎ落とし、エレクトリックギターとピアノを核に据えた、極めてソリッドでスタイリッシュな“大橋流ロック”。

制作の苦悩から、新進気鋭のボーカリストHina(スーパー登山部)との出会い、そして最近「音楽より熱中している(?)」という意外なプライベートまで、名匠の現在地に迫った。

「絞り出した4ヶ月」――自分を追い込み、逃げ道を塞いだ制作期間

――17枚目のアルバム『A BAND』は、前作から約1半年というペースですが、今回は制作に4ヶ月ほど費やされたそうですね。

大橋
トータルの期間で言うと4ヶ月くらいですね。他のミュージシャンの方からすれば短いのかもしれませんが、僕は作詞以外、ほぼ全ての工程を一人でこなしているので……。我ながら今回もよくやったな、というのが正直な感想です(笑)。

――毎回、一作品ごとにエネルギーを使い果たしてしまう?

大橋
そうですね。毎回「絞り切った、出し切った」という感覚です。だからこそ1年半に1枚というペースが今の自分にはリアルなんだと思います。今回は特にリリースの期限が決まっている中で、ギリギリまで粘って、一度はスケジュールをずらしてもらうほど追い詰められました。苦しみ抜いて生まれた一枚です。

――そこまで自分を追い込んで向き合った今回のテーマは「ロック」です。2013年の『plugged』以来、13年ぶりとなりますが、なぜ今このタイミングだったのでしょうか。

大橋
毎回「次はどうしようか」と考える中で、しばらくこのテーマをやっていなかったな、というのが入り口でした。ただ、制作の早い段階から「次はロックでいきます」と周囲に宣言してしまったんですよ。今さら逃げられないぞ、と。その自分へのプレッシャーをなんとか成功に結びつけるために、知恵を絞り出していきました。

「無理をしない」哲学と、現代のリズムへの挑戦

――本作を聴いて感じたのは、いわゆる爆音のロックではなく、Bossa NovaやFunkが溶け込んだ非常に多層的なサウンドだということです。

大橋
一般的な「ロック」というイメージで聴くと、少し違うかもしれません。そこは毎回申し訳ないなと思うところなのですが(笑)、結局はいつも通りバラエティーに富んだ、僕らしいアルバムになりました。ただ、意識の上ではロック方向に寄せている部分が随所にあります。

――具体的にはどのような部分でしょうか。

大橋
 例えばアプローチとして、僕自身は今回アコースティックギターをほぼ使っていません(※『ドアーズ』のみ神谷洵平、森飛鳥による演奏)。エレキギターとピアノの3ピース感を意識したり、普段はやらないようなギターサウンドを取り入れたり。「ロックマインド」を意識した結果、少し尖った部分が各曲に散りばめられています。

――特に今作は、言葉の速さやメロディの音域に変化を感じました。

大橋
僕の基本は「無理をしないこと」なんですが、実は今回、少し無理をしています。自分の声が一番美味しく響く音域、自分がライブで再現できる範囲を大切にしてきた。でも最近の若いアーティストの方々の、言葉を詰め込んだ速いリズムを聴いていると、「今のリスナーにはこういう方が届くのかな」と感じる部分もあって。

――時代性を意識された、と。

大橋
動画も1.5倍速で見る時代ですからね。僕には聞き取れないけれど(笑)。でも、ただ速くするのではなく、言葉に宿る「言霊」や魂を置いていかなければ意味がない。さらっと流れてしまわないように、魂を込める作業はかなり大変でした。その分、ライブで再現するのはちょっと怖いな、なんて思っています。

運命的な出会いと、名曲『HONEY』について

――リード曲の『Lady Cinema』も素晴らしいですが、スーパー登山部のHinaさんをゲストに迎えた『スタンダード feat. Hina』は非常に鮮烈な印象です。

大橋
Hinaさんはドラムの神谷くんの紹介で知ったのですが、レコーディングで初めて声を聞いた瞬間、ズドーンとやられましたね。今まで聞いたことがないような声でした。彼女なりに準備してきてくれたのか、ウィスパー成分が多くて倍音も豊か。すっかり大ファンになってしまいました。

――そしてアルバムを締めくくるのは、代表曲の新録『HONEY (2026)』です。15年以上の時を経て、あえて今、録り直そうと思われたのは?

大橋
ロックアルバムを作るにあたって「自分の曲をセルフカバーするなら何がいいか」と考えた時、8ビートで分かりやすくロックに昇華できるのが、この曲でした。ほぼこれ一択でしたね。

――大橋さんにとって『HONEY』とはどんな存在ですか?

大橋
不思議な曲ですね。もともとはそんなつもりで作ったわけではないのですが、MVの影響もあってか「結婚式で流しました」と言っていただくことが多くて。勝手にお客さんの中で育っていって、今ではイントロが流れるだけで皆さんが喜んでくれる。自分以上に周りに愛されている、幸せな曲だなと思います。

「音」への執念

――今回のレコーディングでは、ドラムやベースの「音の粒立ち」が非常にクリアになったと伺いました。

大橋
そこは大きな発見でしたね。今回、ドラムのマイクを通常より5本増やして、シンバルと「空気感(アンビエンス)」の役割を明確に分けたんです。その結果、理想の響きに辿り着けた。ベースも「ウクレレベース」という小さな楽器を使っているのですが、ウッドベースのような深みがありつつ、音程がしっかり聴こえてくる。この満足度は非常に高いです。

――職人としてのこだわりが詰まった音作りですね。一方でプライベートでは、最近「スキー」に再燃しているとか?

大橋
そうなんです!昨年から本格的に再開して、「上手い滑り方」のコツを習ったら火がついてしまって。今は音楽よりも熱中しているかもしれません(笑)。雪山の真っ白な世界で滑るのは最高のリセットになります。高校時代に親に連れられて始めたのが原点ですが、今が人生で一番滑っているんじゃないかな。

「このままでいいのか」という問い

――4月からはファンクラブツアー、6月からはホールツアーも始まります。大阪のNHKホールも恒例ですね。

大橋
 NHKホール大阪はもう10回くらいやっているかな。やり易い大好きな会場です。ホールツアーは「ショー」としての完成度を求めつつ、昔ながらの「一本マイクコーナー」もやる予定です。ご当地カバーも……大阪なら以前は『ヒガシマル醤油』のテーマをやりましたが、今年は何をしようか考えています(笑)。

――そして来年はついにデビュー20周年。どんな未来を描いていますか。

大橋
20周年……。実は20歳の頃からずっと「このままでいいのか」と自問自答し続けてきました。今も満足はしていません。表現者としてさらなる高みに行きたい。この世界にいる以上、常に進化し、新たな展開を作っていかなければならない。求められる限りは、一生懸命そこに向かって走るのみですね。

ニューアルバム情報

『A BAND』

2026.3.18 Release (A.S.A.B)

エレクトリックギターとピアノを中心に、ロック・ボサノヴァ・ファンクを絶妙にブレンドした17thフルアルバム。

* [CD Only] 品番:RZCB-87204 価格:3,520(税込)

* [CD+DVD/Blu-ray] ライブ映像「ohashiTrio & THE PRETAPORTERS 2025」収録

* [初回限定盤] オリジナルTシャツ付き豪華仕様

ツアー情報

ohashiTrio HALL TOUR 2026

* 6月19日(金) 大阪・NHKホール大阪

* 7月31日(金) 東京・NHKホール ほか全国開催

インタビュー・文・撮影:ごとうまき