【大西ユカリ インタビュー】一つ一つのステージがもう最後かもしれない……そう思いながら毎回全力でステージに立っている。

アーティスト
  ネオ昭和歌謡をソウルフルに牽引してきた歌手・大西ユカリのフルアルバム『LaiLa』が2023年9月20日にリリースされた。本作は夫の新宮虎児(クレイジーケンバンド)とともに構想を積み上げ、それを岩川浩二氏(THE COLTS/THE MACKSHOWのリーダー)に委ね、リアルヴィンテージの世界が実現!収録曲は大西・新宮による新曲や、岩川氏による書き下ろしのほか、セルフカバーとなる名曲たちも新たなアレンジで復活。岩川氏のレコーディングスタジオでアナログ収録し、“過去最高の最小人数”で制作したゴージャスなアルバムとともに新たな大西ユカリが感じられる作品となっている。
 本記事ではアルバムの随所にこだわりが感じられる大西さんの楽曲やファッションに対する思いを聞きました。“私にはもう好きなことをする時間しか残っていない……”その言葉の意味とは── 。

何気ない息遣い、ベースの弦の音……リアルなヴィンテージの世界が一枚に。

──アルバム『LaiLa』のコンセプトは?

大西
 岩川さんと新宮が二人で寄ってたかって大西ユカリを一新してくれたという感じでしょうか(笑)。もともと私たち夫婦が、岩川さんのファンで追っかけてるんですアルバムプロデュースを岩川さんにお願いする前から、一緒に焼肉行ったりお茶をしたりと、しばらくディスカッションが続きました。話す内容はアーティストの好みやファッション、ヘアスタイル、帽子など……。同世代ということもあり、懐かしいと感じる文化も同じ。音楽というよりファッションや小物からアルバムの世界観が決まっていったという感じでしょうか。

大西
『LaiLa』のMVの雰囲気のテーマは“華麗なるギャツビー”。髪型は1920年代を意識しています。CDには昔のLPをイメージし、ポスターの裏の歌詞は全て私の手書きです。ジャケットや中身の仕様を見て、CDを買った人は楽しいと思います。固形物にはまだまだ夢とロマンがあるのです。

──今回はアナログ収録とのことですが具体的にどんな感じだったのでしょうか?

大西
通常は新しい良い機材を使って録って、それを加工するのですが、今回は岩川さんが所有しているレコーディングスタジオで、岩川さんの古いマイクやギター、古いエフェクターなどを使って録っていただきました。なのでそのままでヴィンテージサウンドが録れるのです。スタジオには色んな楽器や機材があって、最初に見た時は、早く歌いたくて心が躍りました。だけど、いざ歌うと力が入りすぎて全然ダメ。緊張した声やちょっとした感情もマイクが拾ってしまうので、嘘がつけません。この経験を通して、“今までの録音はなんやったんやろう”って気持ちになりましたね。歌手として長年歌ってきて、こんなに良い経験をさせてもらえるなんて!!今思い出してもゾクゾクします。

咳き込む声も敢えて残す

──敬愛する岩川さんのプロデュースはいかがでしたか?

大西
想像以上!最高です。語呂合わせもお洒落で、洋楽を踏襲した歌詞も岩川さんらしい。例えば『Nobody can change my world』の歌詞“うすのろな日々でも”、“最後のコインに賭けたなら”など、洋楽が好きでたまらない、聞き倒して研究された岩川さんだからこそ出る言葉。この曲の10代〜60代の部分は初めは英語でしたが、敢えて日本語に直してもらいました。そうすることで、多くの方に共感してもらえるし、自分らしいと思いました。

大西
アルバムそれぞれの楽曲に対して、私が勝手に解釈して歌っています。岩川さんは好きに歌わせてくれます。例えば『ほんとの恋のブルース』では、1番と2番の間で私が咳き込んでいて。普通、消しますやん!岩川さんは敢えてその声を残してくださっているんです。この歌の舞台はストリップ小屋の楽屋だから、演出です、って。流石ですよね。

── リード曲『LaiLa』をはじめ、全体的にどこか懐かしさが感じられるメロディー、リズムですよね。

大西
『LaiLa』は歌謡曲に聴こえる人もいれば、昔のギャング映画やメキシコのサボテンが見えるなど、聴く人によっていろんな風景が浮かぶと思います。ですが、それで十分なんですよ。私は歌詞の中から見える女性のことを思って歌っています。この曲の「白い頭巾の男たちには媚びずに生きた」この一行で全ての解釈ができます。すごいよね、岩川さん。そして、この曲聴いた時、すぐに『この曲が看板や!』と思いました。そしてアルバムのタイトルも『LaiLa』にしようと決めました。

── 『贖罪天国』『Back in the Dream』は新宮さんと岩川さんが手がけられましたが、どんな意味が込められているのでしょうか。

大西
『贖罪天国』は一筆書きの鬱憤ばらし。歌詞の“Easy side,West side”、“North side,south side”、“東西,南北”などの語呂合わせのセンスには唸ります。CDの帯の裏の写真のギターがこの曲で使ったはるギターです。キツい歌詞やけど、ライブでも楽しめる楽曲です。

大西
『Back in the Dream』は好きな人を亡くした女性の心情を描いた曲。私の歳になると亡くなる人も結構いて……。恋愛だけでなく、大切な人のことを思い出してくれるような歌です。岩川さんのフィルスペクターみたいなアレンジには感激しました。切なさ倍増です。

夫婦揃って岩川さんラブ♡

── 『Butterfly』は大西さんが曲を『SASAKURE』では詞を書かれたとのことですが。

大西
『Butterfly』は先に私が書いた曲に新宮が詞をつけて、岩川さんがアレンジしてくれましたこの度、岩川さんが歌詞も書き足してくれて『Butterfly』となり羽ばたきました。手書きの歌詞には繰り返しマークの部分を蝶々の絵にして、こっそり楽しみました。買うた人に見つけて欲しいなあ。

大西
『SASAKURE』は新宮が書いた曲に私が詞を書き、岩川さんがアレンジ。私の中で、ささくれ、ひび割れ、アカギレというワードは、“命をすり減らす″というイメージを持っていて。“あの娘の生い立ちなら知らない方がいい″という言葉は最初に浮かんだんです。そこから一気に言葉が出てきました。岩川さんの追詞で、敢えて“ジーパン″という言葉を使っているのもね、イイっすよねえ。

── 『あんたがいればいい』での岩川さんのギターも印象的です。

大西
そうですね。岩川さんのストロークは力強くて自信満々。ライブの一音目でがっとなりはるのん、好きでね。最初の音で気持ちの入り用が変わりますもんね。

大西
『メロディー』は岩川さんが26年くらい前に作られた曲です。大好きなんで今回カバーさせていただきました。セクシーでチャーミングな歌。岩川さんと新宮が私の後でギターを弾いてみんなでマイクに向かっての一発録り。記念すべき曲となりました。

── 今回は『踊ってくれませんか?』『ハルカロジ』をセルフカバーとのことですがそれぞれ、思い入れがあるのでしょうね。

大西
『踊ってくれませんか?』 は木村充揮さんが書いてくださった曲。2005年に大西ユカリと新世界『ありがとう』でモダンな感じでアレンジして出しましたが、今回はさらに歌詞が聴こえるようなアレンジになっています。この曲は木村さんに書いていただいた曲の中で唯一、演歌歌謡曲でもなくブルースでもない世界観。さらに女言葉で書かれている曲なので、印象的で好きだったんです。この曲をもう一度生き返らせることができて嬉しいです。

大西
『ハルカロジ』はもっとシンプルなアレンジにすべく、今回岩川さんはアップライトベースを持って弾いてくれました。シンプルな皆に刺さるようなアレンジになりました。もう5年も6年も歌い続けてるので、今回はまた新たな世界観が出せたらいいなと思っています。だけどやっぱり、私の歌唱は甲本ヒロトさんのデモテープには敵いませんね(笑)。

── そして今はアルバム『LaiLa』を引っ提げてライブやイベントの真っ最中ですね。

大西
11月15日の横浜サムズアップと11月29日の渋谷B.Y.Gでのライブでは岩川さん、新宮も出演して、ギターでライブ盛り上げてくれます。またこの2日間は「リルコヨーテ」というバンド(アキラコヨーテ、ケメコヨーテ)をゲストにお招きしています。アキラコヨーテはなんと岩川さんの娘さんで、めちゃくちゃカッコ良いんです!!関西でも年明けにツアーなど計画していろいろ動くので楽しみにしていてくださいね!

好きな人と、好きな音楽を。

── 36歳でメジャーデビュー。これまでも歌謡曲からジャズ、ソウルにR&Bとさまざまな曲を歌ってこられました。

大西
皆が大好きだった1960年代を彩った「モータウンサウンド」を演奏していたのは、元はジャズのミュージシャンなんです。日本ではジャスは高尚なものとして位置付けられ、他にも歌謡曲、大衆音楽、ソウルミュージック、ラップなど……事細かく分けられていますが。本当はジャンルなど関係なく、これらは全部音楽という一つのジャンルなのです。モータウンサウンドのスタジオの横で演奏していた人たちが「手伝って」と言われて手伝った音楽が素敵なモータウンサウンドと変貌し、70年代になるとフィラデルフィアサウンドも生まれてね、それはそれは麗しいソウルミュージックの世界です。それを目指して表現したのが70年代の歌謡曲なんです。昔から、ジャズやオーケストラ、歌謡曲を別にしてはいけない、同じだと思っていました。自分が崇拝した音楽は間違っていなかったんだなと思います。

── 大西さんのこれまでの点と点が繋がり今に至っているのですね。今後挑戦したいことは?

大西
数年前に病気が見つかりました。もう治る病気ではないので、薬を飲んで、病気を飼っているつもりでいます。これまで「一つ一つのステージを一生懸命やり切ります!」だなんて適当に言ってましたが、もう適当じゃなくなりましたよね。このステージが最後かもしれない、この録音物が最後かもしれないと……、大袈裟ではなく、本気で思ってやっています。私にはもう好きなことをする時間しか残っていないから、ここからは“好きなことを好きな人と”、責任を持って楽しくやろうと。そうすることで見てくれる人、聴いてくれる人が幸せになってくれるのではないのかなと信じています。だからこれからも歌い続けます。

インタビュー・文・撮影:ごとうまき