【年内劇場公開決定!】映画『カム・アンド・ゴー』リム・カーワイ監督を独占取材

リム・カーワイ監督
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第16回大阪アジアン映画祭特別選定作品として上映された『カム・アンド・ゴー』のリム・カーワイ監督を上映後に独占インタビュー。リム監督作品の大阪三部作のうちの最終作となる『カム・アンド・ゴー』は外国人と日本人の共生をテーマに、大阪キタを舞台に繰り広げられる9ヶ国の群衆劇である。本作は第33回東京国際映画祭「TOKYOプレミア2020」部門上映作品としても話題を呼んだ。大阪アジアン映画祭ではこれまでにリム監督作品の長編8本のうちの7本が上映され、監督にとっても思い入れのある映画祭とのことだ。そんな大阪アジアン映画祭での上映は朝早い時間帯にもかかわらずほぼ満席、大盛況に終わった。

東京国際映画祭に続き大阪アジアン映画祭での上映、リム監督の心境は?

ーー大阪アジアン映画祭上映後の今のお気持ちは?

リム監督
『カム・アンド・ゴー』が年内に劇場公開されることになりました。大阪キタを舞台にした大阪三部作の最終作を、梅田の街(キタ)を一望できるビルに入るシネ・リーブル梅田で先駆けて上映でき、興奮と嬉しい気持ちでいっぱいです。

ーー東京国際映画祭ではレッドカーペットも歩かれ、後に数々のメディアや新聞などでも取り上げられましたが、リム監督ご自身、物理的、心理的な面で変化はありましたか?

リム監督
お陰様で反響が良く、数々のメディアに取り上げていただきました。僕自身はそんなに変わってないですね。コロナ禍ということもあり、今後自分が手がけたい映画の企画はなかなか進まないのですが・・・。実感したことは今作は大阪をベースにして映画を撮ったため大阪では知られていますが、東京、全国では知名度がそんなに高くないという事。なのでまだ時期が未定ですが全国で公開される際には宣伝に力を入れようと思います。大阪の面白さ、良い所も悪い所も含めて大阪の魅力をもっと伝えていきたいです。

東京国際映画祭はこれまでにリム監督の二作品が出品され、自身も審査員を務めたことがあり、思い入れがあるという。

映画から感じるリム監督の大阪愛

リム監督はマレーシアから留学し大阪大学を卒業後、東京で会社員として6年間働いた後に映画の勉強をする為に中国に渡る。大阪三部作のうちの一作目『新世界の夜明け』を制作するために2010年に大阪に戻り、2012年の『恋するミナミ』の制作を機に大阪を拠点に活動している。約14年間大阪に住むリム監督にとっての大阪とはどんな街なのかーー。

ーー監督にとって大阪はどんな街ですか?

リム監督
大阪の人々はジョークが上手いし、愛想も良くフレンドリーですよね。実はこのような雰囲気はアジアの都会、例えば香港や僕の出身地のクアラルンプールにとても似ているんです。人懐っこくてイキイキしていて、オープンでリラックスできるような街だと思いますね。

情に厚い大阪人

リム監督
今作では「人々は自分の事でいっぱいで隣の人に対して関心がない」ということを描いているのですが、しかし大阪は実際には違いますよね。隣の人の事が気になるし、干渉してくるし、人に関心のある人が多い。良く言えば情に厚いかなと。対して東京はクールで無関心な印象。東西の違いも実感しています。

劇中で何度も映る梅田スカイビルに入るシネ・リーブル梅田で、「うめきた開発」真っただ中の大阪駅北側を背景に

大阪三部作は平成10年間の大阪とアジアとの関係を見つめる作品

本作は多くの外国人が行ったり来たりしていた平成最後の春と当時の外国と日本との関係が描かれている。コロナ禍のいま、かつての光景が見ることが出来なくなった。

ーーコロナ前の人々が行き来する大阪が見られなくなったいま、監督はどう感じていますか?

リム監督
コロナによって社会も街も一変し、僕も少しショックを受けました。『カム・アンド・ゴー』を撮影していた時がちょうど日本の元号の「平成」から「令和」に変わる時期だったんですよ。平成最後の春の大阪を象徴する作品ができたと。また大阪三部作の三作品を通して平成10年間の大阪の変化を見つめる、そして大阪とアジアとの関係を見つめる作品になったのではないかと思っています。

この映画を編集していた2020年春に全世界にコロナが大流行し、まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。僕がやりたいのは「人々が行ったり来たりする大阪」で、コロナによって人々が「カム・アンド・ゴー」できない世界になってしまいとても寂しいです。しかしある意味、コロナ前の外国人が行ったり来たりする『カム・アンド・ゴー』は価値ある作品ではないかと思います。

ーーコロナ前のような外国人が行ったり来たりするような光景は戻ってくるのでしょうか?

リム監督
人々の流れなどはコロナ前の状態にいずれは戻ると思っていますが、人々の価値観や心境は戻らないと思っています。コロナによって人々の心情、人生に対する考え方、周りに対する考え方が大きく変わりましたからね。

リム監督から見た日本社会

本作は9カ国の人々を通して浮かび上がる日本人と、日本に住む、あるいは旅行やビジネスでやってくる外国人との様々な出来事や社会問題が散りばめられている。また「エロ大国日本」らしいアンダーグランドな世界も映し出され、外国の人々から見ての日本の印象の一つとして「日本人はヘンタイが多い」を象徴するようなエピソードも劇中ではコミカルに描かれている。例えば日本のAV女優に接待されたがる中国人や、日本のAVを買いあさるために定期的に日本にやってくる台湾人。男性を接待するナイトクラブ(キャバクラ)、出会い喫茶など、日本独特の多様な”性”ビジネスを絡めながら描く外国人との交流はなかなかシュールなものがある。さらに語学学校の闇、女性の貧困、老後問題など・・・様々な社会問題を織り込みながら物語は進んでいく。こういった幅広い問題を広い視野・視点で描けるのは外国のことも日本のことも精通しているリム監督だからこそ手がけることができる作品である。

ーーリム監督からみた今の日本の社会は?

リム監督
少子高齢化が進む日本は労働力も足りないため、ミャンマーやベトナムから人材を取り入れていますよね。経済的にも成熟し、10年前の日本と比べると随分と国際化しました。ですが、日本人一人一人は国際化が加速する社会に対応できていないんです。海外から来ている観光客、留学生、日本で働く外国人に対して、どこか”他所の人”という感覚を持っている。今作を観てもわかるように、それは地方から来ている日本人に対しても同じなんですよね。所謂 “閉鎖的な社会”、”閉鎖的な空気”が、国際化が進もうが進まなくても続いていくーー。『カム・アンド・ゴー』ではこの現状を反映しているかと。日本社会が多国籍、多言語、平等的に、そして地方に対する考え方や思いやりがこれからどのように変わっていくか、この作品をきっかけに考えてもらえると嬉しいです。

ーー『カム・アンド・ゴー』を観て私は「個人」「孤独」そして「共生」という文字が浮かびました。監督が今作で伝えたかったメッセージ性とは?

リム監督
その通りで、今作は「共生」を大きなテーマとし、キャラクターの構成やエピソードを考えました。ただ「共生」という言葉をあからさまに言うのではなく、一つの物語、映画を通して伝えたかったんです。

キャストについて

ーー9カ国の人々が出演していますがそれぞれの国ではスターであり有名な方ばかりだとか。

リム監督
AVを買いあさる台湾人のオタクを演じた李康生(リー・カンション)は台湾のアカデミー賞 男優賞を受賞したり、海外の映画祭でも出品作品があるなど実力ある有名な俳優です。

ベトナム人の研修生を演じたLien Binh Phat(リアン・ ビン・ファット)はベトナムで大ヒットした映画「Song Lang」(『ソン・ランの響き』)で主役を演じベトナムのアカデミー賞 最優秀男優賞を受賞しました。実は彼は映画に出演する前はごく普通の一般人で観光ガイドをしていたんですが、一作目で演技力などが評価され今ではベトナムの超人気俳優に。ちなみに彼の出演作のうちの二作目が僕の作品になります。

マレーシアのイケメンビジネスマンを演じたJC Cheeは僕と同じ華僑で華僑の俳優の中では人気ナンバーワンの俳優になります。

他にもネパールの難民を演じたMousamはネパールの有名な国民的な歌手で、アルバイト先の店長に執拗なセクハラを受けるミミ演じるNang Tracyはミャンマーを代表するモデル。ミャンマーで大ヒットした映画「Nya-Night」で主役を演じた後、森崎ウィンと共演した日本・ミャンマー合作のテレビドラマ「My Dream My Life」でも話題になった。

日本とアジアの9カ国、海外で活躍するキャスト陣を日本に呼び撮影した監督の”統率力”に驚嘆する。これもマレーシア出身かつ日本にも長く住むリム監督だからこそ、そして彼の人望によって成し遂げられたのであろう。

日本でも知名度が高く映画界ではお馴染み 台湾の実力派俳優 李康生(リー・カンション)

ベトナムでアカデミー賞最優秀男優賞を受賞 人気急上昇のLien Binh Phat(リアン・ ビン・ファット)

マレーシア 華僑の中では一番人気の俳優 JC Chee

ネパールの国民的歌手であるMousam

ミャンマーのモデル Nang Tracy

ーー「カム・アンド・ゴー」では日本語学校の講師として出演されている女優の渡辺真起子さんが去年、第33回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞で助演女優賞を受賞されましたが、渡辺さんについてどのような印象をお持ちですか?

リム監督
とても素晴らしい女優さんですよね。彼女とは8年前に東京国際映画祭で知り合い、よく東京で一緒に飲んだりしていた仲で、以前からずっと彼女に映画の出演をお願いしようと思っていました。その間私は中国やバルカン半島に映画を撮りに行っていたのでなかなか日本で制作する機会がなくて・・。『カム・アンド・ゴー』を撮ることが決まった時にはすぐに彼女に出演をお願いしました。彼女に出演してもらって本当に良かったと思います。

千原せいじさんと渡辺真起子さんは夫婦役として出演。劇中での笑いを誘う二人の掛け合いは見どころの一つである。

日本人と外国人との「共生」をテーマに、日本と世界の人々の「行ったり来たり」、人と人との「行ったり来たり」、また電車や飛行機の「行ったり来たり」、多様な意味での「行ったり来たり」をコミカルに、時にエモーショナルに描いた『カム・アンド・ゴー』

まだ日程は未定ではあるが、年内には劇場公開予定、本作を多くの人に目にしてもらえることを筆者も楽しみにしている。

当メディアでは今後も『カム・アンド・ゴー』のリム・カーワイ監督はじめ出演者などを取材し、本作の魅力を伝えていく予定です。次回もお楽しみに!!

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取材・文/ごとうまき