1971年4月、フォークグループ「シュリークス」のシングル『君の生まれた朝』でプロとしての音楽活動をスタートしたイルカさん。1974年のソロデビュー、名曲『なごり雪』の大ヒットを経て、今年デビュー55周年を迎えました。
5月には、自ら選曲した全55曲・CD3枚組のヒストリー・ベストアルバム『IRUKA Go! Go! 55th Anniversary』をリリースしました。10月21日には『イルカアーカイブVol.10「Any Key OK!!」「ちいさな空」』の発売も控えており、アニバーサリーイヤーを精力的に駆け抜けています。
全国ツアー『イルカ55周年コンサート ~あいのたねまこう!~』は、2027年1月9日(土)にNHK大阪ホール、10日(日)に南海浪切ホールで開催されます。
関西で長く愛されてきたイルカさんに、55年の歩みと、特別なバンド編成で臨むステージの舞台裏について聞きました。人生を軽やかに謳歌する「デザート世代」としての生き方も、たっぷりと語っていただきました。
Contents
歌えないかもしれない時期を越えて――「またここに立てた奇跡」
――デビュー55周年、おめでとうございます! 夫・神部和夫さんとのシュリークス時代から数えて半世紀以上。この55年を振り返って、今どんなお気持ちですか?

アコースティックと80年代バンドサウンド、生地から作った衣装
――今回のツアーは、55周年ならではの特別な構成になっているそうですね。
ちょうどツアーの構想を練っていた時期に、ベストアルバムの選曲作業をしていたんです。何十枚ものオリジナルアルバムをすべて聴き直して55曲に絞り込むという、途方もない作業でした(笑)。でも年代順に聴き返すうちに、忘れていた記憶が次々に蘇ってきて。「この曲もやりたい!」「あの曲も歌いたい!」となって、当初考えていたメニューを大きく変えることになりました。 ここ最近のコンサートは、素朴な生の響きを大切にしたアコースティック編成が中心でした。そのスタイルも大好きですが、1980年代には、かなり派手なエレクトリックのバンドサウンドを取り入れていた時期があったんですね。当時の楽曲は今聴いてもエネルギーに満ちていて、55周年にはどうしても外せないと思ったんです。 そこでスタッフに「アコースティックの良さを残しつつ、80年代のような骨太なバンド編成も復活させて、両方を聴いてもらうのはどうかしら?」と相談しました。すると「それは素晴らしい!」と背中を押してくれて。頼もしいミュージシャン仲間が集まり、分厚く心地よいサウンドを鳴らしてくれています。しっとりと聴かせる場面と、バンドでダイナミックに盛り上がる場面。そのコントラストを楽しんでいただける、贅沢なステージになっています。 X(旧Twitter)にも、「まさかあの曲が生で聴けるなんて!」「懐かしすぎて涙がちょちょ切れました」といった声がたくさん届いています。思い切って昔のナンバーを掘り起こして、よかったなと思っています。
――ステージ衣装も、ファンにとって大きな楽しみの一つです。今回は“生地”から作られたそうですね。
私の絵本に「ノエルちゃん」という主人公がいて、これまでグッズやTシャツにも描いてきました。その柄を、オリジナルの布地として織り込めないかと考えたんです。以前から着物のデザインや染めの仕事も手掛けていたので、そのご縁から、ユニークな生地を開発している工場の工場長さんをご紹介いただきました。 オリジナルのテキスタイルを織るには、本来何千メートルという途方もないロットが必要です。それでも想いをお話ししたら、「面白そうだから、小ロットでも特別にやりますよ!」と快く引き受けてくださって。 色を選び、客席からの見え方を計算して柄の細かさを決め、丁寧に織り上げていただきました。ものづくりの原点に立ち返ったようで、本当にワクワクしましたね。後ろの席からは「細かすぎて柄が見えないよ!」と言われてしまうかもしれませんが(笑)、生地から生まれた衣装に込めた愛情とこだわりを、ぜひ会場で感じていただけたら嬉しいです。
「自分ファースト宣言」で迎えた、人生のご馳走“デザート世代”
――55年にわたって第一線で歌い続ける、そのエネルギーの源は何でしょうか?
プライベートでは19年前に夫を亡くし、その後は両親の介護を続けて、父も母も見送りました。ずっと誰かのために生きてきて、その相手がいなくなった時、これからの人生を見つめ直したんです。そこで今年の元旦、心の中で「自分ファースト宣言」をしました。 これからは、自分自身を一番大切にしよう。「ちょっと無理だな」と思うことは潔くやめて、心地よいこと、心から楽しいと思えることを選ぼう。そう決めたんです。
――「自分ファースト」を始めてから、日常に変化はありましたか?
そこでこの春、思い切って浅草や上野のあたりに3泊して、家族のルーツをたどる一人旅をしてみました。リュックを背負って、史跡やお城の跡、面白い地形を自分の足で歩いて。それが、信じられないくらい楽しかったんです! 普段の私は、「60分のステージ」「ラジオの17秒のコメント」というように、身体の中に正確な体内時計が刻まれていて、常に時間に管理されて生きています。でも一人でぶらぶら歩いている時は、いつどこへ行こうと完全に自由で、誰にも気を遣わなくていい。「時間に縛られないことこそ、人生で一番の贅沢なんだ」と気づきました。それが私にとっての「遊ぶ」であり、最高のリフレッシュになっています。
――コンサートのMCで話されている「デザート世代」という言葉も、その生き方と重なりますね。
生まれて、親の娘として育ち、妻になり、母になり、仕事に奔走して、今ではおばあちゃん。責任の重いメインディッシュの時期は、もう無事に通り過ぎたと思うんです。でも皆さん、フルコースで一番のお楽しみは、メインの後にやってくるでしょう? そう、甘くて贅沢な「デザート」です! だから私は、還暦を過ぎた世代を「デザート世代」と呼びたいんです。60歳を過ぎて定年や役職定年を迎えると、「寂しくなった」「あとはお迎えを待つだけ」と後ろ向きになる方も多いけれど、人生100年時代にそれはもったいない! 会社や肩書、しがらみから解き放たれたことを、寂しさではなく「やっと自由になれた!」と捉えればいいんです。 これまで背負ってきた重い鎧を脱ぎ捨てて、子どもの頃に夢中になったことや、本当にやりたかったことを始めればいい。私なんて、還暦を過ぎてから、ステージでカラフルなミニスカートを履くようになりましたから(笑)。客席からは大歓声が上がりますけど、「70代のおばあちゃんがミニスカートを履いたって、誰にも文句は言わせないわよ!」って。好きな服を着て、好きなことを楽しむ。今こそが、人生で一番自由で贅沢な「デザートタイム」なんです。
身体と向き合う工夫、そして未来へまく「あいのたね」
――前回のツアーでも、ミニスカート姿で颯爽と歌う姿に、客席から驚きと称賛の声が上がっていました。一方で、ギターをスタンドに固定して演奏するなど、身体への負担を減らす工夫もされていますね。
最初の1年ほどは、固定したギターを弾くのに苦労しました。でも今では、すっかり身体に馴染んでいます。同業者から「手が痺れる」と相談されると、「スタンドに乗せると楽だから試してみて!」と勧めているくらいです(笑)。 日々の身体のメンテナンスも欠かしません。週に1回パーソナルトレーニングに通い、教わったストレッチを、毎晩寝る前にベッドの上で10〜15分続けています。歳を重ねると、じっとしているより「伸ばして、縮める」を繰り返したほうが、凝りも痛みも楽になるんですよね。大阪公演でお世話になっているマッサージの先生にも、「昔より今のほうが身体が柔らかい!」と太鼓判を押していただきました。健康だからこそ、ステージを思い切り楽しめるんです。
――最近では、YouTube『イルカのフォークな生活』の開設や、お孫さんのイラストと組んだボーカロイド企画「イルカP」など、新しいデジタル表現にも挑戦されています。
私のレコーディング手法とはまったく違うデジタルの世界で、最初は「えっ、こんな作り方をするの!?」とカルチャーショックの連続でした。でも、出来上がった作品は本当に素晴らしいんです。「音楽はこうあるべき」という固定観念を取り払って飛び込んでみたら、新しい表現の扉がパッと開いた感覚がありました。若い世代からのユニークなお誘いは、絶対に断らないと決めています。 ずっと私の歌を愛してくださっている同世代の皆さんには、もちろん心から感謝しています。同時に、まだ私の歌を知らない若い世代や、何百年、何千年先を生きる子どもたちにも、歌をつないでいきたい。私の歌は、命の大切さや平和への祈りを込めた「未来へのメッセージ」でもあります。だからこそ世代の垣根を越えて、これからも新しい挑戦を軽やかに楽しんでいきたいですね。
――最後に、2027年1月の大阪・岸和田公演を心待ちにしているファンの皆さんへ、メッセージをお願いします。
同世代の皆さんは、日頃の忙しさや重荷をぜんぶ降ろして、私と一緒に“デザート世代”の甘く贅沢な時間を味わいましょう! 若い世代の方も、お父さんやお母さん、おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に、ぜひ遊びにいらしてください。会場いっぱいに、優しさと笑顔の「あいのたね」をまきましょうね。元気な笑顔にお会いできるのを、心から楽しみにしています!
【公演情報】 イルカ55周年コンサート ~あいのたねまこう!~
- 大阪公演 日時:2027年1月9日(土) 開場15:45/開演16:30 会場:NHK大阪ホール
- 岸和田公演 日時:2027年1月10日(日)
- 会場:南海浪切ホール 大ホール
- チケット料金:全席指定 6,500円(税込) ※未就学児入場不可
- 一般発売日:2026年10月31日(土)10:00~
- お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(12:00~17:00 ※土日祝休)
【リリース情報】
- デビュー55周年ヒストリー・ベストアルバム 『IRUKA Go! Go! 55th Anniversary』(CD3枚組・全55曲収録) 定価:5,900円(税込)/日本クラウンより好評発売中
- 『イルカアーカイブVol.10「Any Key OK!!」「ちいさな空」』 2026年10月21日(水)発売
取材・文・撮影:ごとうまき







「よくここまで歌ってきたな」という実感と、感謝の気持ちでいっぱいです。1970年代の後半には、2年間だけ「イルカの冬眠」と称して活動を休みました。その間に絵本を3冊描いて、息子を出産したんです。
それ以外はずっと歌い続けてきました。ところが、ちょうど50周年を迎えた時にコロナ禍に見舞われ、予定していた記念コンサートがすべて中止になってしまって。2年半ほど、まったくステージに立てない日々が続きました。「年齢的にも、もう二度とコンサートはできないかもしれない」と弱気になって、正直、諦めかけたこともあったんです。
それでもアルバム制作を続けながら、少しずつ歩みを進めてきました。昨年は1年かけて全国を回る「プレ55周年ツアー」を開催し、今年5月からは、セットリストも演出も一新した「55周年ツアー」をスタートできました。
一度「もう歌えないかもしれない」と思ったからこそ、今こうして全国を回れていることが奇跡のように思えるんです。ステージでお客様の温かい拍手を浴びるたびに、胸の奥にジーンと響いてね。「ああ、またこの場所に立てたんだ」という感謝が、以前にも増して湧いてきます。