【妊娠・中絶】少女たちの切実な旅路を描く『17歳の瞳に映る世界』

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エンタメ

ペンシルベニア州に住む2人の少女が初めてニューヨークを訪れる。バイト先のレジから盗んだ僅かなお金を握りしめて。本来であれば初めてのNY、ワクワクするはずの旅路だけど、ある切実な事情によりその旅路での足取りは重く、辛く、非常にやるせないものとなるーー。本作は第70回ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)受賞したドラマ。タイトルだけ切り取ると、美しく感動的な物語かな?思う人もいるかもしれない。しかしこれは大きな間違いで、本作は17歳の少女の妊娠~中絶をリアルに伝えている非常にシリアスな作品である。7月16日(金)から全国で公開中。

あらすじ

望まない妊娠をした17歳のオータムは親に知られずの中絶を望む。しかし地元ペンシルベニア州では中絶するのに親の同意が必要のため、親の同意が不要であるニューヨークへと従姉妹のスカイラーと高速バスを乗り継ぎ向かう。

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想像してみてほしい。17歳が大都会ニューヨークへ初めて旅立つ、それも楽しい旅行なんてもんではなく堕胎手術のため、頼れるのは従姉妹のスカイラーただ1人。

未成年の彼女たちの瞳に映るこの世界は魑魅魍魎だ。

いくら性教育で避妊についての知識を教えたとて、避妊に対しての十分な理解や知識も、はたまた子を宿すといった事がどれほど神秘的で尊いことかさえも、10代の子にはまだ理解することが難しい(妊娠がわかった直後に、安全ピンで鼻ピアス開けちゃうところとか、オータムの心情をうまく描いている)。

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また本作では妊娠や妊娠検査の様子、そして中絶までを比較的リアルに描いている(クリニックによっては12週以降は中絶できない、それ以降は二日間による比較的大変な手術になるなど)。辛い現実が淡々と描かれている中とりわけ唯一の光が従姉妹のスカイラーの献身的な姿ではないだろうか。

自分にはこれっぽっちも得なことなどないのにオータムの為に文句一つ言わずに献身的に寄り添う姿、その上ナンパ男に身体を張ってお金を借りる姿はなお印象的だ。観た人の多くが“彼女のように尽くせない”と思うのではないだろうか。

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望まない妊娠、性行為の強要、暴力、今この瞬間も日本で、世界中のどこかで、オータムのような少女たちが苦しんでいる。親に相談できるならまだしも、誰にも相談できないが故に悲惨な結末を迎えそれが度々ニュースとなり聞くたびに胸が締め付けられる。

親子で、また学校をはじめとする教育機関がこの事実をもっと多く伝える必要性を感じるとともに、当事者になるかもしれない10代の子たちに本作が届いて欲しいと願うばかりだ。また、望まない妊娠から少女たちを守ること、自分の身体を大切にすることを物語を通して訴えた新鋭女性監督エリザ・ヒットマンの今後の作品にも期待したい。

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17歳の瞳に映る世界

監督:エリザ・ヒットマン
キャスト:シドニー・フラニガン、タリア・ライダー、セオドラ・ペレリン
製作:2020年製作/101分/PG12/アメリカ
原題:Never Rarely Sometimes Always
配給:ビターズ・エンド、パルコ
文/ ごとうまき