【インタビュー】「ウクレレなのにポップス」の世界。世界第1位の奏者・鈴木智貴が5年ぶりの新曲アルバムに込めた願い

インタビュー

「ウクレレ」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。常夏のハワイ、軽やかなハワイアンミュージック、あるいは夏のお土産――。

そんな固定観念を鮮やかに覆し、「ウクレレなのにポップス」を掲げてシーンの最前線を走り続けるウクレレ奏者がいる。2016年の国際大会で世界第1位に輝き、YouTubeチャンネル登録者数15万人を超える実力派・鈴木智貴氏だ。2026年3月にリリースされた5年ぶりの新曲入りフルアルバム『Garden』を引っ提げ、全国ツアー「鈴木智貴 SPRING TOUR 2026 UKULELE POP」の真っ只中にある鈴木氏。セミファイナル&ファイナルを目前に控えた彼に、音楽的ルーツからアルバム制作の舞台裏、7月4日(土)の東大阪公演への意気込みなど語ってもらった。

音楽のルーツと「日本一になれなかったら辞める」という覚悟の転身

――まず、鈴木さんの音楽的なバックボーンについて。3歳からピアノを始め、中学でギターと出会い、大阪芸術大学へ進学。もともとはギタリストとしてプロ活動をされていたんですよね。

鈴木
 はい。中学の時はバスケットボール部だったのですが、部活の友達に「一緒にやろうぜ」と誘われてギターを始めました。高校では軽音楽部に入り、そこからはギタリスト一直線。大学在学中からプロとして活動し、卒業後も就職せずプレイヤーの道を選びました。

――そんな中、偶然手にしたのがウクレレだったとか。

鈴木
 完全に趣味の延長でした。「ギターと形も似ているし、すぐ弾けるだろう」くらいの気持ちで(笑)。でも実際に触れてみると、ウクレレ独特の音の美しさにどんどん引き込まれていって。気がつけば、ギターの練習時間よりウクレレを触っている時間の方が長くなっていました。僕は不器用なので、二つのことを同時にはこなせない。ウクレレを本気でやりたいという気持ちが日に日に強くなっていきました。

――本格的な転身にはかなりの覚悟があったそうですね。

鈴木
 ウクレレを始めて2年ほど経った頃、日本大会があることを知ったんです。「優勝できたらウクレレを本業にしよう。日本一になれなかったら辞めてギター1本に戻ろう」と決めました。当時の僕には、ウクレレは「夏しか仕事がなさそうな楽器」というイメージがあって。冬はどうやって食べていくのか本当に分からなかったんです(笑)。だからこそ、日本一という肩書きを背負う覚悟で挑まないと通用しない、と自分に大きなプレッシャーをかけました。

――見事にその壁を越え、2016年には世界第1位を獲得。「ウクレレなのにポップ」というキャッチフレーズには、どんな思いが込められていますか?

鈴木
  ウクレレを始めた頃、「ハワイアンしか弾けない」「夏だけの楽器」という固定観念が世間に根強くあると感じました。でも実際は、ギターやピアノと同じようにどんなジャンルでも弾ける楽器です。僕がポップスを演奏するたびに「ウクレレなのにポップスなんだね!」と驚かれた。だったら、その驚きをそのままキャッチフレーズにしてしまおうと。

――ポップスへの愛着は、幼い頃からのものでしょうか。

鈴木
 高校生の頃から森山直太朗さんの楽曲をずっと聴いていて、僕の音楽の大きなルーツになっています。周りで聴いている友達はほとんどいなかったのですが、あの世界観が心底好きで。バンドでやっていた音楽はロックをはじめ幅広かったけれど、根底には常にフォークやポップスのメロディックな美しさがありました。それが今のウクレレのプレイスタイルに繋がっていると思います。

ステイホームで爆発した人気と、260名が紡ぐオーケストラの絆

――コロナ禍のステイホーム期間にウクレレが大ブームになりましたが、鈴木さんのYouTubeチャンネルもその波に乗りましたね。

鈴木
  楽器店からウクレレが消えるほどの人気でしたね。実は、コロナ前からYouTubeにレッスン動画を上げていたんです。独学でウクレレを学んでいた際に動画をよく参考にしていたので、分かりやすいレッスン動画が増えればプレイヤーも増えると思ってコツコツ投稿していました。それがステイホームのタイミングと重なり、多くの方に見つけていただけました。

――独学で世界トップレベルまで上り詰めたのも驚きです。

鈴木
 ギターの知識があったことも大きいですが、ウクレレという楽器の「手軽さ」と「音の優しさ」が挫折を防いでくれたと思います。バイオリンやサックスは綺麗な音が出るまでに時間がかかりますが、ウクレレは比較的すぐに心地よい音が出せる。弾いていてストレスがない。小柄な日本人でも抱えやすく、アパートで弾いても近所迷惑になりにくい。日本の住宅事情や生活習慣にも合っている楽器で、気づいたら深い沼にハマっていました(笑)。

――ソロ活動のほか、260名超のウクレレオーケストラ「Sugar Muu Ukulele Orchestra」の指揮も執られています。どのような経緯で誕生したのですか?

鈴木
 2018年に50名弱でスタートして、回を重ねるごとにメンバーが増え、いまでは5倍以上になりました。ウクレレって「お土産屋さんで買って、家で一人で弾いている」という方が一番多い楽器なんです。でも、趣味を長く楽しく続けるには一緒に楽しむ仲間の存在が不可欠。みんなでアンサンブルを楽しみ、新しい友達を作っていける「居場所」を作りたいという思いで続けています。

5年ぶりの新曲を詰め込んだアルバム『Garden』の舞台裏

――2026年3月28日、6thフルアルバム『Garden』がリリースされました。手応えはいかがですか?

鈴木
  この5年間で、ありがたいことに僕を知ってくださる方が劇的に増えました。今作は、ファンの皆さんと作ってきた思い出と様々な出会いをすべて詰め込んだ、活動の軌跡を刻む作品です。豪華なアレンジも選択肢にありましたが、あえて「ウクレレ1本」という原点に立ち返りました。タイトル通り、聴いた方の心の「Garden(庭)」に希望の芽が生まれ、花が開いてほしいという願いを込めています。

――楽曲順にも強いこだわりを感じます。1曲目から朝の通勤にぴったりな流れがありますね。

鈴木
 まさにそこを意識しました。音楽を通して聴く人を励まし、エールを送りたいという思いが根底にあります。1曲目『U-topia』は明るい気持ちで一日をスタートできる爽やかな曲調にし、2曲目『gravity』は「仕事に行くのが憂鬱な朝」でも一歩踏み出せる力強いエールを込めました。

――5曲目『Red Garbela』や9曲目『So What』には驚かされました。ウクレレのイメージを覆す、アグレッシブなファンク調とクールなマイナー調で。

鈴木
 「ウクレレ1本でファンクを」というのは普通かけ離れていますよね。でも、「ウクレレからこんなに力強くアグレッシブな音が出るんだ」という可能性を提示したくて作ったのが『So What』です。『Red Garbela』もウクレレの繊細さと鋭さを両立できた、お気に入りの1曲。楽器のイメージに縛られず、感情をストレートに出せた手応えがあります。

――一方、4曲目『満ちてゆく森』はクラシカルで美しく、別の趣がありました。

鈴木
 普段は先にポエムのような「詩」を書き、そのメッセージを見つめながら音を紡いでいくんです。インストとしては少し珍しいやり方かもしれません。でもこの曲だけはそのルールを捨てて、自分の中にあるビジョンと、これまでに見てきた自然の景色だけを頼りに即興で音を紡ぎました。

――だから他の楽曲とは異なる深みがあるのですね。

鈴木
 メッセージを介さず純粋に景色から音を作った結果、驚くほどクラシック寄りの楽曲が生まれました。「こんな引き出しが自分にあったんだ」と自分でも驚いた作品です。幼少期に10年間叩き込んだクラシックピアノから、ギター、ウクレレへと渡り歩いた音楽人生のすべてが、無意識にこの曲へ溶け出したのかもしれません。

ツアーは成熟の極みへ。東大阪の馴染みのステージで待つもの

――全国ツアーは好評につき17公演に拡大、残り3公演となりました。ここまでを振り返っていかがですか?

鈴木
 「スプリングツアー」と言いながらすっかり夏になってしまいました(笑)。でもこの長い旅を経て、楽曲との向き合い方が自分の中で劇的に変わったのを実感しています。3月に弾いていた時と今とでは、曲に対する解像度が全く違う。ステージを重ねるごとに感情がより深く入り込んでいき、楽曲がどんどん熟成されていっています。セミファイナル、そしてファイナルへ向けて、非常に良い状態で仕上がってきています。

――7月4日(土)の大阪公演「東大阪市文化創造館 ジャトーハーモニー小ホール」は、特別な思い入れがあるとか。

鈴木
 ソロ公演はもちろん、「Sugar Muu Ukulele Orchestra」の練習会でも毎月必ずお世話になっている会場で、我が家のように馴染み深い場所です。音響が素晴らしく、響きが美しくて演奏していて気持ちがいい。施設全体が清潔で、八戸ノ里駅から徒歩約5分とアクセスも抜群。座り心地の良い椅子、バリアフリーの整備――お客様が快適に過ごせる条件がすべて揃っていて、安心してお迎えできる会場です。

――ウクレレコンサートが初めての方でも楽しめますか?

鈴木
 もちろんです。『Garden』の楽曲を中心に演奏しますが、誰もが一度は耳にしたことのあるカバー曲もたくさん用意しています。「じっと静かに聴かなきゃいけないのかな」と緊張している方もいるかもしれませんが、全員でワイワイ盛り上がるコーナーもあります。お祭りに遊びに来るような感覚で、気軽に足を運んでいただけたら嬉しいです。

ウクレレを日本の日常へ。

――今後の目標を教えてください。

鈴木
  直近の目標は「ウクレレ単独公演で1,000人動員を達成すること」です。日本人のウクレレプレイヤーが単独ライブで1,000人を集めた例はまだ一度もないんです。その壁を打ち破ることができれば、ウクレレという楽器の可能性をさらに大きく広げられると信じて、全力で突き進んでいます。

――その先にある、野望は?

鈴木
  ウクレレを、日本の「当たり前の日常」に溶け込ませたいんです。まだハワイの民族楽器というイメージが根強いですが、これほど日本の住宅環境や日本人の気質に合っている楽器はないと思っています。いずれは小学校の音楽の授業にピアニカやリコーダーと並んでウクレレが置かれているような、どの家庭にも一本ある当たり前の風景を作りたい。YouTube発信や教則本の出版など、間口を広げる活動にも引き続き力を注いでいきます。まずは7月4日、東大阪のステージでウクレレの新しい世界を体感していただけるのを楽しみにしています!

◆公演情報

鈴木智貴 SPRING TOUR 2026 UKULELE POP

  • 日時: 2026年7月4日(土) 開場 12:30 / 開演 13:00
  • 会場: 東大阪市文化創造館 ジャトーハーモニー小ホール
  • 料金(税込):
  • プレミアム特典付き 指定席:11,000円(※リハーサル見学 / 2ショット撮影 / 私物サイン会 特典付き)
  • 大人 指定席:5,500円
  • 小人 指定席(6歳〜12歳以下):1,000円
  • ※6歳未満入場無料。お席が必要な場合は小人料金

 

◆リリース情報

6th Full Album『Garden』

  • 発売日:2026年3月28日
  • 価格:3,300円(税込)
  • 仕様:歌詞カード(楽曲背景ポエム)付き、全10曲収録

インタビュー・文・撮影:ごとうまき