【インタビュー】安田顕が語る、舞台『死の笛』再演への覚悟と林遣都への尽きぬ愛

インタビュー

脚本・坂元裕二、演出・水田伸生、そして安田顕と林遣都による二人芝居『死の笛』が2年ぶりに再演される。坂元氏自身の手で改稿された新たな『死の笛』は、東京・札幌・大阪の全国3都市を巡る。企画・プロデュースも手がける安田顕に、本作への覚悟と共演・林遣都への想いについて聞きました。

鳴り止まなかった再演への渇望「また2年後にこの座組で」

――2年前の初演を振り返ってのお気持ちと、今回の再演が決まったときの実感をお聞かせください。

安田
2年前に林さんと二人でやらせていただいたとき、とにかくものすごく楽しくて。お客さまにも本当に喜んでいただけた。その結果がこうして再演という形になったんだなと、改めて実感しています。

今回は坂元裕二さんがさらにブラッシュアップして改稿してくださった。水田伸生さんという素晴らしい演出家が今回も並々ならぬ熱量で向き合ってくださる。この同じ座組で、2年後のいま、また打席に立てることが本当に幸福ですね。

――初演の段階から「いつか再演を」という思いはあったのでしょうか。

安田
想いどころか、2年前の大阪・大千穐楽の最中にはもう「再演、いつやりましょうか」ってみんなで話していました(笑)。ただ、正直、本当に叶うとは思っていなかった。林さんも水田さんも引っ張りだこで、スケジュールを合わせるのは至難の業だろうなと。それが奇跡的に全員のタイミングがピタッと合って。とにかく嬉しかったですね。

――この2年というスパンでの再演は、作品にとっても絶妙なタイミングだと感じます。

安田
みんなのスケジュールが合うのが今だった、というのが正直なところなんですが(笑)、結果的にこの芝居の中身が不思議なほどいまのご時世にマッチしているんです。ただそれは、どの時代であっても人々に突き刺さる「普遍性」が坂元さんの描く世界に最初から内包されているからだろうなと思います。

シンプルな言葉の羅列に潜む、五感を揺さぶる巨大なテーマ

――改稿された脚本を初めて読まれたときの感想はいかがでしたか。

安田
大きく変わったところがありました。舞台の骨子、まさに核の部分が大胆に直されているんです。この2年の間に坂元さんの中で新しく感じることや、社会に対して思うことがあったんだろうなと、背筋が伸びる思いがしました。

この舞台は難解なものではありません。お客さまが声を出して笑うような、エンターテインメント性に富んだ作品です。ただその根底で訴えかけるテーマがとてつもなく大きい。「戦争」「平和」「生きる」「死ぬ」、「美しい」か「汚い」か、「考える」とはどういうことか――。そういったシンプルで強いワードが、説教くさくなく物語の熱量を通じてお客さまの肌に届く。そんな舞台になっています。

――稽古を重ねる中で、林遣都さんに変化を感じる部分はありますか。

安田
さらに頼もしくなってらっしゃいますね。30代の男性が持つ色気というか、深みがどんどん醸し出されていて、圧倒されます。芝居のスキルが上がっているのはもちろん、舞台に向き合う姿勢がさらに大きくなっている。

僕、本当に林遣都さんという役者が大好きなんですよ。プライベートの彼は一切知りたくないくらい(笑)。彼が芝居をしている瞬間の輝きは本当に素晴らしくて、いつも見惚れてしまう。二人で板の上に立っているときのグルーヴ感はもうたまらないものがあります。彼と2時間の舞台を共有できる、ある意味で林遣都を独り占めできる。それがどれほど幸せなことか。

対比される二人の「生きる糧」――目指すのは逃げ場のない「熱狂」

――ご自身と演じる役柄、似ている部分と違う部分はありますか?

安田
劇中には、少し言語表現に特徴のある二人が登場するんです。分かりそうで分からない、でも聴いているうちに全貌が見えてくる独特な語り口がずっと続く。僕はもうちょっと流暢に話せる方だと思いますので(笑)、そこは明らかに違います。坂元さんが僕のどこを見てその役を当ててくださったのか、自分には正直よく分からない。ただ、客観的に林さんの役を見ると「ぴったりだな」と思いますね。

――お二人のキャラクターの対比も見どころですね。

安田
この作品は「自分の生き甲斐とは何か」を深く考えさせられる舞台でもあります。僕の役は「復讐心」をエネルギーにして生きている人間、遣都くんの役は「恋心」を糧にして働いている人間。その対比がまず面白い。そこに林さんのピュアさや輝きが見事にハマっているなと思います。

――安田さんご自身も、仕事において「復讐心」に近いものが糧になる瞬間はありますか?

安田
「復讐」とはちょっと違いますが、やっぱり「反骨精神」や「意地」はありますね。夜の稽古場で「今日は全然できなかった、心が折れそうだわ……」と落ち込んでも、翌朝には「よし、納得いくまでやってやるぞ!」と這い上がる。そういう泥臭いエネルギーは僕にもあります。

この間、ニュースで被爆された方のお話の場面を拝見したんです。原爆で親を失い、ご自身も病気を患われた。それなのに「原爆を落とした人たちを恨んでいない」とおっしゃる。「ずっと恨み続けて復讐心だけで生きていたら、人間はまともに生きていけないから」と。復讐心を生き甲斐にしてしまった人間はどこまで歩いていけるのか。この舞台に向き合っていると、日常のふとした瞬間にそんなことを深く考えてしまうんです。

ただ、この舞台を小難しくやろうとは絶対に思っていない。生身の人間だからこそ伝えられる、逃げ場のない「熱量」と「熱狂」。役者が緊張していればお客さまにダイレクトに伝わるし、心から楽しんでいれば巻き込まれて劇場全体にグルーヴが生まれる。あの生々しい一体感を、ぜひ劇場で味わってほしいです。

原案は完璧な「ゼロからイチ」――考えることをやめない豊潤な時間

――そもそも、この『死の笛』はどのようなきっかけで立ち上がったのでしょうか。

安田
プロデュースなんて名ばかりですよ(笑)。僕がやったことといえば、「林さん、二人芝居をやりませんか」「坂元さん、本を書いてくれませんか」「水田さん、演出をしてくださいませんか」とお声がけして、「舞台にチェロの生演奏を入れたい。パブロ・カザルスの『鳥の歌』を聴かせてください」とお願いしたことだけ。だからこの作品の原案は、坂元裕二さんの完璧な「ゼロからイチ」です。

――坂元さんに「なぜこのテーマにしたのか」を直接聞くことはされないのですか?

安田
あえて聞きません。解釈の正解をすべて作者に聞いてしまったら、僕たちはその本の枠を飛び越えられないんじゃないかと思うんです。水田さん、林さん、僕の3人で「これはどういう意味だろう」と考えて、考え抜いて、自分たちなりの答えを見出していく。このクリエイティブな作業こそが、作品をより豊潤なものにしていくと信じています。この舞台が定義しているのは「考える」ということの大切さです。「当たり前だとされていることに、一度疑いを持ってみよう。一緒に考えてみようよ」という坂元さんからのメッセージが、物語のいたるところに散りばめられています。

――安田さんの長いキャリアの中で、この『死の笛』はどのような位置づけになりますか?

安田
……うまく例えられないんですが、この脚本を「自分の棺桶に入れてほしい」と思えるほど、宝物のような作品です。まぁ、一緒に焼かれてなくなっちゃうんですけどね(笑)。

20代に地元・北海道でがむしゃらに頑張り、30代・40代と東京をはじめ各地でお芝居の世界に揉まれてきた。その中で積み重ねてきたご縁があったからこそ、心から尊敬し大好きな人たちとこれだけのものを作ることができた。自分が歩んできた道の「結果」として、この作品が存在していることが誇らしいですし、それを再びお届けできることは無上の喜びです。

――大阪公演はちょうど夏休み期間の上演です。もし学生時代にこの作品に出会っていたら、どんな影響を受けていたと思いますか?

安田
間違いなく「演劇をやろう!」と決意していたと思います。それくらい、若い人の心に強烈な傷跡を残すような作品です。

スマートフォンが普及してデジタルで様々な表現ができる素晴らしい時代ですが、この舞台に流れているのは徹底的な「肉体の躍動」と「アナログの凄み」です。人間が肉体をフルに動かすことでこれほどの熱量を届けられるんだという原点の素晴らしさを、ぜひ若い世代にも劇場で体感してほしいですね。

――最後に、大阪公演を心待ちにしているファンの皆さまへメッセージをお願いします。

安田
『死の笛』というちょっと縁起でもないタイトルではありますが(笑)、作中で実際に私が笛を吹くシーンがあります。ただ僕たちの思いとしては、劇場へ来てくださったお客さまの「家内安全」「商売繁盛」「無病息災」を魂を込めて祈りながら吹いております。決して縁起の悪いものではありませんので、どうぞ安心してお越しください(笑)。一公演一公演を精魂込めて、最高の熱量でお届けします。皆さまと劇場でお会いできるのを楽しみにしております。

【公演情報】

舞台「死の笛」

2026年7月24日(金)〜8月2日(日)

COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

全席指定 ¥11,000(税込)

脚本:坂元裕二 演出:水田伸生 出演:安田顕 林遣都

取材・文・撮影:ごとうまき