【吉田兄弟インタビュー】魂を揺さぶる「極生」の衝撃。フェスティバルホールに響く一期一会の調べ

インタビュー

デビューから四半世紀。常に津軽三味線界のフロントランナーとして走り続けてきた吉田良一郎さん、健一さんの吉田兄弟。25周年の節目からスタートした47都道府県ツアーも3年目を迎え、そのスペシャル公演が、2026年9月6日に大阪・フェスティバルホールで開催されます。タイトルは「吉田兄弟 -極生- THE MOMENT」。2,700席という巨大なキャパシティを誇るフェスティバルホールで、あえてPA(音響拡声装置)を一切使わない「完全生音」で挑むといいます。和楽器の常識を覆し、新たな伝統を刻み続けるお二人に、公演への想いについて聞きました。

「音を届ける」ことへの原点回帰

――今回の「-極生-THE MOMENT」は、2024年から続く47都道府県ツアーのスペシャル版ですね。そもそも、この「生音」というテーマはどのような経緯で生まれたのでしょうか。

良一郎
これまでの主要なコンサートは、どちらかというと「僕らの世界観にお客様を招待する」という形でした。でも、25周年を機に始めたこのツアーは、僕らが自ら「音を届けに行く」ことを最大のテーマに掲げています。

健一
きっかけの一つはコロナ禍でした。配信ライブなども試しましたが、やはり和楽器、特に津軽三味線は「空気の振動」を伝えることが本質だと痛感したんです。マイクを通せばどこでも均一なクオリティを提供できますが、生音は会場の湿度、天候、お客様の服装によっても響きが刻一刻と変わる。その「不完全さ」こそが、音楽の面白さであり、本来の姿ではないかと思ったんです。

――2,700人を収容するフェスティバルホールで生音というのは、大きな挑戦ですね。

良一郎
正直、自分たちにとっても最大のチャレンジです。先日、誰もいないホールで試し弾きをしましたが、驚くほど音が響きました。クラシックホールは本来、洋楽器のために設計されていますが、打楽器のような側面を持つ三味線の音がどこまで浸透するか。当日、お客様が入って初めて完成する音が今から楽しみです。

「THE MOMENT」に込めた、一期一会の覚悟

――公演名にある「THE MOMENT(瞬間)」、そして「極生」という言葉に強いメッセージを感じます。

健一
三味線の歴史の中で、その瞬間にしか生まれない音のラリーを共有したいという想いを込めました。セットリストも、その時の空気感で変わるかもしれません。僕たちは、100人いれば100通りの解釈があっていいと考えています。

良一郎
特に津軽三味線の代名詞である「津軽じょんがら節」は、毎回アプローチが変わります。決まったフレーズはありますが、その場の熱量でお互いの掛け合いも変化していく。同じ演奏は二度とできない。まさに「THE MOMENT」そのものなんです。

――お二人の息の合った演奏は、聴く者を圧倒します。やはり兄弟だからこそのシンクロ率があるのでしょうか。

良一郎
5歳からずっと一緒に弾いてきましたから、合わせることは当たり前の感覚でした。でも、ある人から「合わせるって実はすごく難しいことなんだよ」と言われてハッとしたんです。僕たちにとっては呼吸と同じなんですよね。

健一
とはいえ、実は波形で見ると結構ズレているんですよ(笑)。完璧に合いすぎると面白くない。どこかに余地を残して、お互いにオクターブを返し合う。その微細なズレが生み出す揺らぎが、心地よさや迫力に繋がっているのかもしれません。

伝統の破壊と、師匠から受け継いだ自由

――お二人は北海道のご出身ですが、演奏中に故郷の景色を思い浮かべることはありますか?

良一郎
僕は「じょんがら節」を弾くとき、雪が降る景色や吹雪の情景が出てこないと、いい演奏ができないタイプです。逆に「うまく弾こう」と技術に追われると、景色が消えてしまう。北海道で学び、育った三味線が僕のベースになっています。

健一
僕は対照的で、あまり景色で音楽を作らないんです。リズムから入って、「これまで聴いたことがないもの」をお見せしたい。曲にタイトルをつけるのも、イメージを固定してしまう気がして本当は苦手なくらいで。むしろ、聴く人のDNAを呼び覚ますような、ワクワクする感覚を届けたいと思っています。

――その自由な発想は、どこから来ているのでしょうか。

良一郎
師匠の影響が大きいですね。僕らが中学生の頃、稽古に行くと三味線の前に「英語の単語」の授業が始まるような先生だったんです(笑)。「これからは英語が必要になる」と。

健一
「ステージではジーンズやTシャツで弾け」と言うような、当時としては破天荒な師匠でした。だからこそ、僕たちは「こうあるべき」という型にはまらず、自由に弾いてこれた。海外での活動も、師匠にはすでに見えていたのかもしれません。

100年後のスタンダードを目指して

――これまでモンキーマジックやオーケストラなど、多くのコラボレーションをされてきましたが、そこでの発見はありましたか?

健一
違うジャンルのアーティストとやることで、自分たちの三味線のポテンシャルを逆に教えられることが多いですね。海外のミュージシャンからは、伝統的なフレーズへのリスペクトを強く感じます。自分たちが「民謡の世界」の人ではなく、「エンターテインメントの世界」の人なのだと確信させてくれました。

――最後に、大阪・フェスティバルホールにいらっしゃるお客様へメッセージをお願いします。

良一郎
日本の音、津軽三味線の音の波動は、生で体感してこそ本当の価値があります。PAを通さない剥き出しの音、その震えを感じてください。

健一
「和楽器を聴きに行く」という先入観を一度ニュートラルにして、ただ「音を浴びる」つもりで来てください。2,700人の空間で、僕たちと皆様でその瞬間にしか生まれない感動を共有しましょう。

【公演概要】

・公演名:吉田兄弟-極生-THE MOMENT(47都道府県ツアースペシャルin大阪)

・日時:2026年9月6日(日) 15:00開演 (14:00開場)

・会場:フェスティバルホール

・料金:

 BOXシート:8,000円

 プレミアムシート(前から5列目以内):7,000円

 指定席:5,000円

・お問い合わせ:キョードーインフォメーション (0570-200-888)

インタビュー・文・撮影:ごとうまき