『アジアの天使』は政治経済を中心とした日韓関係が長年に渡り悪化する中で、日本人と韓国人の相互理解や交流のあり方をどう考えるかというメッセージを物語を通して伝えている。
本作を手がけたのは「舟を編む」の石井裕也監督、彼の作品ではコロナ禍で苦しみながらも前向きに生きる親子の物語「茜色に焼かれる」が今年5月に公開されたことで記憶に新しいが、今作も私たちの身近な問題を題材に果敢に取り組み(撮影されたのはコロナ禍前)世に送り出した意欲作。韓国人スタッフ&キャストとともにオール韓国ロケで撮りあげた作品だ。
あらすじ
兄の「韓国で一緒に仕事をしよう」という言葉を信じて8歳の息子を連れて韓国にやってきたシングルファーザーの剛。兄と共に事業を始めるも仲間の韓国人に逃げられ窮地に陥るが、胡散臭いワカメビジネスに望みをかけて北東部の港町・江陵へ兄と息子と共に向かう。
一方で、かつて韓国で歌手として活躍するも今は客のいない古びたショッピングモールでのステージの仕事で生活費を稼ぐソル、心優しいが末端労働者の兄のジョンウと喘息持ちの妹ポムを養っている。三兄弟は両親の墓参りに行くために電車に乗っていたが、剛たち3人と車内で出会い、ひょんなことから6人は旅を共にするようになる。
「サランヘヨ」と「メクチュ・チュセヨ」
台詞にある「‟メクチュ・チュセヨ”と‟サランヘヨ」この二つを知っていれば、この国ではやっていける」これって意外と核心をついていて、この世はこれくらいシンプルで単純だったりする。
本作に描かれるのは日本人男性と韓国人女性との恋愛模様、友情、親子愛。国籍、言葉、文化は異なっても家族を想う気持ちや愛する人を亡くす悲しみや喪失感は世界共通、言葉が通じなくても通じ合い共感し合えるのだ。
また「搾取する側と搾取される側」資本主義社会の永遠のテーマにも触れられていて、またチェ・ソルがタレントとして売れるために事務所の社長と関係を持っていたり(所謂マクラ)日韓共に囁かれる芸能界の闇や、根深く残る男女差別や格差社会についても鋭く描かれている。
肝心の“アジアの天使”についてはファンタジー要素が入り込んでいるがここには“あらゆる偏見や固定観念から自由になりましょう”というメッセージが込められている。
このように常に時代と社会問題に対し真っ向から取り組み鋭い視点で描く石井監督にはリスペクトでしかない。また石井監督の熱い想いや眼差しを池松壮亮がしっかりと受け止め代弁者となり力強く演じているところにも好感が持てる。石井監督と池松壮亮のタッグといえば「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」の印象が強いが、今作も切なくって愛しくて、間接的に問題提起しているのにどこか優しく包み込んでくれるような‟愛”に溢れたあったかい作品である。
アジアの天使
文/ごとうまき