インドに蔓延る“男尊女卑”を鋭く描いた衝撃作『グレート・インディアン・キッチン』

(C)Cinema Cooks, (C)Mankind Cinemas, (C)Symmetry Cinemas
映画

インドに根強く残る家父長制やミソジミー(女性嫌悪、女性蔑視)をある一組の夫婦の姿と生活を通して描かれた「グレート・インディアン・キッチン」が1月21日から全国劇場で公開中。インド映画にありがちだが本作にも出演する女性たちの役の名前が不明、つまり「女性が名を呼ばれることさえない」というインドの実情を意図的に描き出している。本作のタイトルやポスターからは「インドの幸せな食卓を題材にした作品」などと思い鑑賞すると面食らうだろう。インド本国でも女性観客の支持を得て、口コミで話題と評判が広がった作品。

あらすじ

インド、ケーララ州北部のカリカットの町で、高位カーストの男女がお見合いで結婚した。夫は由緒ある家柄の出身で教師、伝統的な邸宅に暮らしている。一方の妻は中東育ちで教育もあり、モダンな生活様式にすぐに溶け込んだ。結婚して夫とその両親とが同居する家で暮らしはじめるが、やがて妻は名前で呼ばれることのない関係性や台所や寝室で男たちに奉仕するだけの生活に疑問を持ち始める。

(C)Cinema Cooks, (C)Mankind Cinemas, (C)Symmetry Cinemas

レビュー・解説(ネタバレあり)

少しずつ浮き彫りになるインドの“不条理”

かつての日本にもあった家庭の風景を見ているよう

高位カーストの男女がお見合い結婚をし、次の日から“家事労働”が始まるところなど『この世界の片隅に』とよく似ている。夫婦の関係性の行く末は全く異なるが・・・。

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彩り良い野菜に、包丁がリズム良くまな板を叩く音
フライパンにジュワーっと勢いよく油が踊る音
クツクツと鍋が煮る音
手際良く作られていく美味しそうなインドの家庭料理の数々からはスクリーン越しにスパイスの芳醇な香りが漂ってきそうだ。

手の込んだ料理を朝夕とそれにお弁当まで妻や義母が毎日作り、夜キッチンを使い終わった後には隅々まで台所を綺麗に掃除をする。毎日広い家の床を拭き掃除して、生ゴミや汚水の処理をし何度も何度も手を洗う。
その間義父や夫はスマホやテレビを見たり、ヨガをしたりと優雅な時間を過ごしている。一番驚いたのは義父だ。「ご飯は釜で炊け」「洗濯機を使うと衣類が痛むので手洗いしろ」と。さらに驚くことに、歯ブラシさえも嫁や妻に持って来させる(筆者がその嫁ならたぶん歯ブラシ投げつける。ふざけるな!)。極め付けには、その家族の男どもは食べかすをテーブルに散らかすなど(家のルールだと)これには呆れ果てて空いた口が塞がらない。
重労働と呼ばれるような家事が終わり、疲れ果てすぐにでも寝たいのに、寝室に行けば、愛もない前戯もない夫の下手くそなセックスが待っている。もう、人権なんてない。こんなの奴隷じゃないか!
そう、インドは宗教的(カースト制度)な理由もあって男尊女卑が常識のごとく根付いている。とくに宗教的な式たりなども厳しく生理中の女性は台所にも入れないどころか家族とも隔離される。

結婚=奴隷契約として台所に女性を閉じ込めて自由を奪うものごとく、鎖に縛り付けて家から出さないという、極端な思想がインドでは今も蔓延っているようだ。
でも、これってちょっと昔の日本の風景とも似てとれる。私が子供の頃に見た祖父母もこんな感じで(本作ほどまで酷くはないが)、親戚が集まったら祖母は主人公の女性と同じよう家のあれこれをしていたような…。まぁ、生理中など関係なく生活できていたところは違うが。

本作ではインド映画ではお決まりのダンスシーンもラストにあるが、このダンスが女性の解放と自由を表しているのだろう。

(C)Cinema Cooks, (C)Mankind Cinemas, (C)Symmetry Cinemas

インドの宗教的背景や家長制度、ミソジミーをまざまざと実感した作品だ。
お茶ぐらい自分で入れなさい。
飲んだコップは洗いなさい。
たまーに料理を作ったくらいで料理した気にならないで。
もう突っ込みどころが多すぎる本作、ラストは男たちに主人公が痛快な行動をとったのでそこが唯一の救いだ。本作を見て男性がどのような感想を持つのか訊きたいところ。少なくとも自分の息子には家事や料理もそつなくこなせる新時代の‶モテる男″に育てあげなくてはと痛感した。母親の責任は重大なようだ。

グレート・インディアン・キッチン

監督・脚本:ジヨー・ベービ
音楽:スラージ・S・クルップ マチュース・プリッカン
キャスト:ニミシャ・サラジャン、スラージ・ベラーニャムード
原題:The Great Indian Kitchen
製作:2021年製作/100分/G/インド
配給:SPACEBOX

文/ごとうまき