難民問題×アートをユーモラスに描く人間ドラマ『皮膚を売った男』

映画
チュニジア映画として、また同国の女性監督作としてもアカデミー国際長編映画賞に初めてノミネートされた映画『皮膚を売った男』が11月12日よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、関西ではシネ・リーブル梅田・神戸、京都シネマ、ほかで公開中、その衝撃的なタイトルに耳を疑う人も少なくないはず。本作はチュニジア出身のカウテール・ベン・ハニア監督の日本デビュー作となり、背中のタトゥーが芸術として認められ、実際にオークションで売買された実在する人物のエピソードから着想を得て製作された。
舞台はアラブの春が巻き起こりつつある2011年のシリア。移動の自由と金を得るため、自らの肉体を現代アートの作品へと変貌させ現代アートとなった難民の男の体験を、移民・難民問題と現代アートをテーマに、ユーモラスに描いた人間ドラマだ。

 

あらすじ

全ては恋人に会いに行くため….

過激な発言をしたとシリア当局に監視されるなかレノバンへ逃亡したサム、難民として厳しい潜伏生活を送っていた。そんな中世界的な芸術家に偶然声をかけられる。その内容とはサムの背中をキャンバスにしてサム自身が現代アートとなることだった。結婚しベルギーに移住していた恋人に会うために、また移動の自由と大金を手に入れるためにサムは芸術品になることを決意、その背中には大きなタトゥーが刻み込まれた。美術品となったサムは輸送の名目で世界を行き来ビザを手に入れ、かつての恋人とも再会する。しかし彼は展示会への巡回と美術館で展示品として背中を晒さないといけないという任務が義務付けられ、莫大な金額の保険をかけられ様々な制約によって違った形での自由を奪われてしまった。

(C) 2020 – TANIT FILMS – CINETELEFILMS – TWENTY TWENTY VISION – KWASSA FILMS – LAIKA FILM & TELEVISION – METAFORA PRODUCTIONS – FILM I VAST – ISTIQLAL FILMS – A.R.T – VOO & BE TV

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難民問題×アートをユーモラスかつ皮肉たっぷりに描く

本作を手がけたハニア監督チュニジアシディブジドで生まれ、本作含め5本の長編を手掛けている。その内容はイスラム教徒の学生や母親の再婚に悩む子供、警官にレイプされた女性など、弱い立場の人々を主役にし、宗教観や家族観はたまた男尊女卑といったものをテーマとしチュニジアの問題を炙り出してきた。本作は難民をめぐる問題と現代アートへの風刺をテーマとした人間ドラマでもあり社会派エンタメでもある。感情のある人間を現代アートに仕立ててしまうというなんともユニークな発想には称賛を送りたい(実際に実在した人物がいるというから驚きだ)。
しかし人間とは感情のある生き物でそれをアートにするとなると様々な問題が絡んでくる。
国境を軽々と超えてしまうアート作品に対し、国境を越えることさえままならない難民達、この対比がなんとも心憎く、また主人公サムが新たな自由を手に入れるために衝撃の行動に出る最後のシーンには注目だ。アートとは何ぞや、そして人権の意味を考えずにはいられない作品だ。

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皮膚を売った男

監督:カウテール・ベン・ハニア
脚本:カウテール・ベン・ハニア
キャスト:ヤヤ・マヘイニ、ディア・リアン、ケーン・デ・ボーウ、モニカ・ベルリッチ
製作:2020年製作/104分/G/チュニジア・フランス・ベルギー・スウェーデン・ドイツ・カタール・サウジアラビア合作
配給:クロックワークス
原題:L’Homme qui a vendu sa peau

文/ごとうまき