【インタビュー】伊藤健太郎、伝説のアパート「テキサスハウス」を生きる。30歳を前に見据える“説得力のある役者”への道

インタビュー

2026年5月、東京と大阪の舞台に、ひとつの「祈り」と「熱狂」が蘇る。映画監督・崔洋一が遺し、劇作家・鄭義信がその意志を受け継いだ舞台『赤坂檜町テキサスハウス』。

戦後、メディアの黎明期を支えた表現者たちが身を寄せ合った伝説のアパートを舞台に、主人公・永六輔を演じるのは、俳優・伊藤健太郎だ。映画やドラマへの出演など多忙を極める彼が、3年ぶりの主演舞台を前に、「今」の率直な胸の内を語ってくれた。

「自分から離れた人物ほど、やりがいを感じる」——永六輔という大きな背中

――3年ぶりの主演舞台、演じるのは昭和の巨星・永六輔さん。出演が決まった時、どのようなお気持ちでしたか?

伊藤
正直に言うと、最初はとにかく驚きました。「永六輔さんという役を、自分に求めてくださるんだ!」って。どう演じようか、自分に何ができるのか、すぐには答えが出ないほど大きな存在ですから。でも、このお仕事をさせていただいていると、自分とキャラクターが離れていればいるほど、不思議とやりがいを感じるんです。今の自分にはない引き出しをこじ開けなきゃいけない。そのプロセスに対するワクワク感というか、挑戦への楽しみが、稽古が近づくにつれてどんどん膨らんでいます。

――本作は、2022年に逝去された崔洋一監督が企画され、長年の相棒であった鄭義信さんが脚本・演出を手がけます。この「約束」のバトンを引き受ける座長として、プレッシャーも大きいのでは?

伊藤
崔監督が最後に遺した熱い想いがあって、それを僕が座長という形で担わせていただける。そのことへの感謝と責任は、並大抵のものではありません。先日、演出の鄭さんとお食事をさせていただいた際、崔さんとの思い出話をたくさん伺いました。本当にお二人は深い絆で結ばれていたんだなと。ただ、鄭さんが「崔さんは、もっと細かい指示を残しておいてほしかったのに、ざっくりとした構想だけ置いていっちゃって。困るよ〜!」って明るく笑いながらおっしゃっていたのが印象的で(笑)。その“困るよ”という言葉の裏にある愛をしっかり受け止めて、舞台の上で命を吹き込んでいかなければと、改めて身の引き締まる思いでした。

演出家・鄭義信との出会い

――演出の鄭義信さんと初めてお会いした時のエピソードが、かなり衝撃的だったとか?

伊藤
そうなんですよ! 初めてお会いした時、鄭さん、肋骨を骨折されていて(笑)。実際にお話ししてみると、本当にユーモアに溢れた魅力的な方で。すごくお話ししやすいなと感じました。まだ稽古には入っていませんが、鄭さんが現場でどういうふうに僕らを導いてくださるのか、今から楽しみです。一人の人間として、鄭さんにすごく惹かれています。

――永六輔さんを演じるにあたって、今はどのような準備をされていますか?

伊藤
今は当時の映像を片っ端から拝見しています。永さんは最近まで活躍されていた方なので、資料はたくさんあるんです。調べていくうちに感じたのは、永さんは「話し始めた瞬間に、思わず耳を傾けたくなる人」だということ。その喋りのテンポなのか、独特のトーンなのか……。何が人を惹きつけるのか、今はその正体を研究している最中です。あとは、とにかく博識ですよね。「そんなこと知ってて誰が得するの?」というようなニッチな知識まで面白おかしくお話しされる。その知性と遊び心、何よりあの独特の空気感をどう表現できるか。そこが一番の課題だと思っています。

――ご自身と永さん、共通する部分はありますか?

伊藤
意外と、その「雑学好き」なところは似ているかもしれません(笑)。僕も「なんでこれって、こうなってるんだろう?」と気になったら調べずにはいられないタイプ。小さい頃から好奇心旺盛な少年だったので。永さんの映像を見ていると、入り口こそ役作りのためでしたが、今はシンプルに「面白いな」と一人のファンとして聞き入ってしまう自分がいます。

舞台でしか得られない「拍手」というガソリン

――今回の公演は東京、そして大阪・近鉄アート館と続きます。関西のお客様にはどのような印象をお持ちですか?

伊藤
大阪のお客さまは、とにかく反応がダイレクトですよね。以前、東京ですごくウケたボケを大阪でやったら、信じられないくらいスーンとされたことがあって(笑)。あの時に学んだのは、「笑わせに行こう」とか「反応を受け取りに行こう」と力むとダメなんだなってこと。キャラクターがその場の感情で動いた結果として面白い、というのが理想。だから今回も、東京と大阪でどう反応が変わるのか、あるいは変わらないのか。それを肌で感じるのが、今から楽しみな要素のひとつです。

――映像作品でも目覚ましい活躍をされていますが、伊藤さんにとって「舞台」という場所はどのような存在ですか?

伊藤
舞台の醍醐味は、なんといっても「即時性」ですよね。目の前にお客さんがいて、自分の芝居に対する反応がダイレクトに返ってくる。映像とは全く違う緊張感があります。たとえばセリフが飛んでしまったとしても、カットはかからない。何とかしてその場を繋ぎ、物語を成立させなきゃいけない。その「生」の必死さが魅力だと思います。

そして何より、わざわざチケットを買って、時間を割いて劇場まで足を運んでくださるという行為。テレビの前で見るのとは違う、その熱量に対して、僕らも全力の気合いで応えなきゃいけない。……あ、あとはやっぱり、最後にお客さんからいただく拍手。あれが大好きです。あの一瞬で、それまでの苦労が全部吹き飛ぶくらいのパワーをもらえます。

30代を目前に。「自分がやることで面白くなる」役者になりたい

――日本アカデミー賞優秀助演男優賞の受賞など、近年、役者としての評価がますます高まっています。現在のご自身を、客観的にどう見つめていますか?

伊藤
ありがたいことに、責任のある、重要な役割で呼んでいただけることが増えました。だからこそ、期待に応えるのは当たり前で、その期待値をいかに超えていけるか。そこは常に意識しています。今年で29歳。もうすぐ30代。男としての大きな節目ですよね。この時期をどう過ごすかで、役者としての厚みが変わってくる気がしています。とにかく今は、もっともっと力をつけたいです。圧倒的な表現力を持てる役者を目指して、日々自分を鍛えていきたいです。

海外への憧憬

――非常にストイックな印象ですが、オフの時間はどう過ごされていますか? 今も自炊は続けているのでしょうか。

伊藤
自炊、しますよ! この前も大阪へ行く前に、ハヤシライスを作りました。……ただ、僕、加減がわからなくて、いつも大量に作っちゃうんですよ。気づいたら50人前くらいになってて(笑)。家を空ける時は地元の友達が犬の面倒を見に来てくれるんですけど、彼のために「置いとくから食べて」って伝えて。大阪から帰ってきたら、見事に減ってましたね。

――50人前! それはもう炊き出しですね(笑)。モーニングルーティーンなどはありますか?

伊藤
朝のブラックコーヒー。これだけは絶対に譲れません。飲まないと一日が始まらない気がして、ソワソワしちゃう。現場にもタンブラーに入れて持っていきます。これがないとエンジンがかからないんです。

――以前のインタビューで「海外(アメリカ)に行きたい」という夢を語られていましたが、その想いは今も?

伊藤
変わらずありますね。50代、60代くらいになったら、向こうに移住したいくらいです。もちろん、日本の作品が大好きなのでここで続けていきたいという思いが前提ですが、一度、自分が育った環境の外に出る経験はしておきたい。アメリカに限らず、アジア圏も含めて、外の世界を見て、肌で感じることは、役者としても人間としても大切なことだと思っています。

「テキサスハウス」という温かな場所へ

――最後に、公演を心待ちにしているファンの皆さん、そして演劇ファンの皆さんへメッセージをお願いします。

伊藤
今回の舞台には、本当に個性的な役者さんたちが揃っています。この『テキサスハウス』という物語は、時代の荒波の中で、表現者たちが肩を寄せ合って生きていた、とても密度の濃い世界です。舞台と客席という垣根を超えて、観に来てくださる皆さんも、そのアパートの一員になったような、そんなあったかい空間をみんなで作り上げたいと思っています。5月の末、劇場でお会いできるのを楽しみにしています。期待していてください!

【公演概要】

舞台『赤坂檜町テキサスハウス』

  • 原作: 永六輔(大竹省二・写真/朝日新聞出版「赤坂檜町テキサスハウス」)
  • 企画: 崔洋一
  • 脚本・演出: 鄭義信
  • 出演: 伊藤健太郎、大鶴佐助、福井晶一、酒井大成、小川菜摘、みのすけ
  • 大阪公演: 2026年5月28日(木)〜31日(日) 近鉄アート館
  • チケット: 全席指定 8,800円(税込)
  • 公式HP: https://stageoffical.com/akasakahinokicho/

 

インタビュー・文・撮影:ごとうまき