和歌山毒物カレー事件の深層に迫った『マミー』(2024)で、日本のドキュメンタリー界に鮮烈な印象を残した二村真弘監督。最新作『京都ALS患者嘱託殺人事件』は、2019年に起きた事件を描きます。ALSを患う林優里さん(当時51歳)の依頼を受けた医師が、薬物を投与して死に至らしめた事件です。メディアは主犯の大久保愉一受刑者を〈狂った医者〉と断じました。監督は、林さんがSNSに綴った言葉、拘置所での面会、受刑者の母親への取材を1年にわたって重ねています。その先に見えたものを聞きました。
判決の傍聴で抱いた違和感
――大久保さんのお母様への取材、さらに供述分析まで。徹底した取材姿勢に、ジャーナリズムへの敬意を感じながら拝見しました。出発点は判決の傍聴だったそうですね。

――前作『マミー』と共通するものはありますか。

――なぜ報道は「殺人鬼」とまで書くほど過激になるのでしょう。

一度も目を合わせなかった大久保受刑者
――面会での大久保さんの印象は。
面会での話は、ほとんどが事実確認です。裁判での発言は本当か、裏付けはあるか。それをもとに、元同僚など彼を知る人を訪ねて確かめていきました。今は刑が確定して刑務所に移ったので、手紙のやりとりだけです。映画については、報じられてきたものより事実に近い姿を描いた作品だと受け止めているようです。少しでも名誉回復になれば、という思いがあるのではないでしょうか。
――お母様への取材については。

複雑なものは、複雑なままに
――証言者の方々には、必ず最初に名前を名乗ってもらっていますね。
単純化すれば、わかりやすい事件として消化できます。でも僕自身はそう感じられませんでした。複雑なものは複雑なまま提示する必要があると思いました。
――大久保さんの約2万件のツイートもすべて読まれたとか。

「安楽死の法制化には、明確に反対です」
――海外では安楽死の法制化が進む一方、日本ではまったく進んでいません。
林さんは、胃ろうからの栄養注入をやめてほしい、紹介状を書いてほしいと訴えても聞き届けられませんでした。患者の権利がないがしろにされ、医療者との間に権力勾配がある。その構造のまま法制化すれば、家族や医療者の圧力で安楽死に追い込まれかねません。問題は安楽死を認めるかどうかではないんです。当事者の声をいかに聞くか。「死にたい」という声をまず受け止め、その背景や、現行制度でできることを一緒に考える。それをせず、死にたいという言葉をタブー視したことが間違いだったと思います。
――お子さんの不登校のご経験も影響していますか。

――林さんは「足を引っ張るだけだった制度への復讐」と書き残しています。
彼女がSNSを始めたのは、記録を残すためでした。苦痛から解放される道を誰も示してくれない「エアポケット」にいる人たちの苦しみを可視化し、日本で何ができるかを残す。明確な意図を持った発信でした。喜んでいるかはわかりませんが、その意図とずれてはいないと思っています。
「ユリは被害者じゃないよ」
――取材で一番大変だったことは。

――取材で大切にされたことは。

――林さんの言葉の代読を、京都出身の田畑智子さんに依頼した理由は。

――最後に、映画をご覧になる方へ。

『京都ALS患者嘱託殺人事件』
監督:二村真弘/声の出演:田畑智子/プロデューサー:石川朋子
2026年|日本|98分|ドキュメンタリー|
配給:東風 10月31日(土)より
〈東京〉ユーロスペース、〈京都〉京都シネマ、〈大阪〉第七藝術劇場ほか全国順次公開
インタビュー・文・撮影:ごとうまき







裁判は大久保が罪に問われるかどうかを裁く場なので、林さんに触れないのは当然です。でも事件そのものが「偏った考えの医者が起こした事件」と、かなり矮小化されて伝えられている。判決も、その後の報道もそうでした。だから、まず林さんの訴えを問い直す必要があると思ったんです。