尾上右近、満を持して挑む自主公演「研の會」FINAL!10年の歩みと進化する芸への情熱

インタビュー
読売演劇大賞 杉村春子賞や芸術選奨新人賞を受賞するなど、目覚ましい活躍を続ける歌舞伎俳優・尾上右近。彼が23歳で立ち上げ、自身の成長の糧として磨き続けてきた自主公演「研の會」が、今年ついに第十回の節目を迎え、FINAL(ファイナル)を迎えます。
東京・大阪の二都市上演も3年目を迎えた今年、9月5日(土)・6日(日)の国立文楽劇場での大阪公演を前に、右近さんが取材会に登壇。10年間の歩み、そして集大成となる『藝阿呆』『鷺娘』『春興鏡獅子』の3演目に込めた溢れんばかりの思いについて語っていただきました。

「10回やる」と宣言したあの日から――感謝を込めて挑む集大成

――関西の皆様へ、改めましてご挨拶をお願いいたします。

11年続いて今回で10回目。始めた当時は23歳でした。当時は自分のための修業の場という意味合いが強く、『10回はやります』と言葉にして自分を追い込み、必死のパッチで続けてきた公演でした。
それが回を重ねるごとに、お客様や関西の皆様からも「ぜひやってよ」とお声をいただくようになり、規模も広がって……。「10回で終わるのがもったいない」と言っていただける公演になれたことが、本当に嬉しいです。自分自身、とてもすがすがしい気持ちで節目となるFINALを迎えさせていただくことになりました。
今回は今まで支えてくださった方々への感謝を込めつつ、舞台に立つ人間としては「なるべく自分の力で作品を3つ受け負い、多くのお客様を呼んで終わろう」という覚悟で、一人で舞台に立つような3演目を選びました。盛大に勤めたいと思っておりますので、ぜひお力添えをお願いいたします。

「芸に生きる」男の美学を生演奏で描く――『藝阿呆』

――今回の演目について順番にお伺いします。1つ目の演目『藝阿呆(げいあほう)』についていかがでしょうか。

大阪の国立文楽劇場でやらせていただくことに、とても深い意味を感じている作品です。
歌舞伎と親戚関係にある文楽の大名人・三代目竹本大隅太夫(たけもとおおすみだゆう)さんの波乱万丈な一生を描いた物語で、かつてラジオで放送された音源が名盤として知られています。僕は子どもの頃からこの音源が大好きで、18歳の時に十八代目中村勘三郎のおじさまが演じられた時の印象が強く残っていました。
今回は、日頃からお世話になっている文楽の太夫・豊竹呂太夫(とよたけろだゆう)さん、鶴澤清介(つるざわせいすけ)さんという大先輩のお力を借りて、史上初の生演奏で上演させていただきます。

――音源ではなく、生の音とともに立ち現れる舞台……本当に楽しみですね!

僕は清元(きよもと)の家に生まれ、音楽の力や生演奏の価値を心から信じています。だからこそ、今この時代を共に生きる仲間であり先輩である方々と、生で勝負したかったんです。
今の時代、色々な生き方や働き方がありますが、『藝阿呆』のタイトルの通り、芸という首の皮一枚だけで生きる男の姿にはすごく共感します。「それでも芸が好きだ」というまっすぐな生き様に惹かれますし、自分らしくファイナルに挑むのにふさわしい演目だと思っています

自主公演だからこそ挑める、新たなアプローチ――『鷺娘』

――続いて、2つ目の演目『鷺娘(さぎむすめ)』についてお聞かせください。

歌舞伎をご覧になったことがない方でも、「白い衣装で雪が降る幻想的な舞踊」というイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。
以前からいつか取り組みたいと思っていた大曲ですが、今回は長年受け継がれてきた江戸歌舞伎の娯楽的な雰囲気を大切にしつつ、自分らしい演出も織り交ぜて向き合いたいと思っています。
 

――右近さんならではの演出、気になります!話せる範囲で注目ポイントを教えていただけますか?

クライマックスですね!「やるならこういう形でやってみたい」と思い浮かんだことがあって、歌舞伎以外のデザイナーさんにもお力添えをいただいて、今までにないアプローチを仕込んでいます。「江戸時代の俳優がもし今の技術を使えたら、きっとやっていただろうな」という仕掛けです。自主公演だからこそできる形に徹底的にこだわりましたので、ぜひ劇場で見届けていただきたいです。

原点であり、これからの人生の目標――『春興鏡獅子』

――最後は『春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)』です。右近さんにとって非常に思い入れの深い作品ですね。

3歳の時、曾祖父(六代目尾上菊五郎)が踊る『鏡獅子』の映像を見たのが、僕が歌舞伎と出会い、役者を志したきっかけでした。人生の始まりと言える、長年の憧れの作品です。
「鏡獅子を踊れる役者になりたい」と走り続け、「自分から動かなければ状況は変わらない」と立ち上げたのが、この「研の會」でした。そして第1回の「研の會」で初めて挑戦し、昨年4月には歌舞伎座という大舞台で踊るという夢を果たすことができました。
かつては「鏡獅子を踊ることを目標にする人生」でしたが、昨年の歌舞伎座を経て「鏡獅子を踊り続けることを目標にする人生」に変わったと感じています。

――第1回と今回の第10回で同じ演目に挑むことになりますが、お気持ちの違いはありますか?

心持ちはまったく違いますね。第1回の時は自分のために必死で、足して、足して、表現しすぎていた部分もありました(笑)。経験を重ねた今、もっとゆとりや生活感を持って、豊かに表現できるようになりたい。
自分自身を解放し、「間(ま)」の美学を突き詰めたいと思っています。動かない瞬間すらも表現になるような、今の段階の自分だからこそできる『鏡獅子』を、一人でも多くのお客様にお見せしたいです。

横尾忠則氏からのサプライズ!特別ポスターお披露目

取材会の途中では、世界的アーティスト・横尾忠則氏が手がけた「研の會」FINALの特別ポスターがサプライズでお披露目されました。ポスターを目にした右近さんは「神々しい……自分を見つめ直されているような感覚になります」と感無量の様子。
さらに、御年90歳を迎える横尾氏から寄せられた熱いメッセージが代読されました。 

【横尾忠則氏からのメッセージ(抜粋)】
「右近さん、こんにちは。『研の會』いよいよファイナルを迎えられました。長い間お疲れ様でした。
ファイナルこそと思い、特別な思いを込めて、何も描いていない夢のような、空のような作品をと思って描きました。
舞台には行けませんが、終わったらアトリエで飯を食いましょう。これまでご苦労様でした。でも本当の本番はこれからです。応援しています」

メッセージを聞いた右近さんは、「横尾さんと関わらせていただく全てのことが宝物です。少ない情報の中で『これぞ』という本質を伝える、その覚悟を試されている気がします。本当に胸がいっぱいです」と目を輝かせました。

「本当の本番」へ向かって

――約3時間半、ほぼお一人で舞台に立ち続けるという過酷な挑戦になりますが、この夏の暑さを乗り切るためのパワーの源はありますか?

カレーですね!スパイスで汗をかいて、体を冷やして夏を乗り切る。みなさんもぜひビーフカレーやポークカレーを食べて、万全の体調で劇場にお越しください(笑)!
「研の會」は今回でファイナルを迎えますが、横尾さんのおっしゃる通り「本当の本番」はここからです。10年間の感謝をすべて舞台にぶつけますので、皆様のご来場を心よりお待ちしております!

【公演情報】
尾上右近自主公演 第十回「研の會」FINAL
• 演目:『藝阿呆』『鷺娘』『春興鏡獅子』
• 出演:尾上右近 ほか
• 大阪公演:9月5日(土)・6日(日)
• 会場:国立文楽劇場

取材・文・撮影:ごとうまき
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