「父を許すことはできない」――戦争が家族に残した消えない傷

インタビュー

戦後81年。かつて戦場で戦った兵士たちの記憶が失われつつある今、次世代である「子どもたち」が声を上げ始めている。8月28日放送のドキュメンタリー『ザ・ドキュメント 戦後81年たっても…消えないトラウマ 隠されたPTSD復員兵』は、日本兵として戦場に赴いた父親を持つ家族の、知られざる苦しみに迫った作品だ。制作を担当したカンテレ報道センターの竹下洋平記者に、取材の経緯や込められた思いを聞いた。

――今回のテーマを選んだきっかけを教えてください。

竹下
もともと戦争報道には強い関心があり、毎年続けてきました。ただ、実際に戦場へ行かれた元兵士ご本人から話を伺う機会は、年々難しくなっています。そんな中、ようやく次の世代――兵士だった父を持つ子どもたち――が声を上げ始めていることに、大きな重みを感じました

――ベトナム戦争では帰還米兵のPTSDが広く知られていますが、日本兵の場合はほとんど語られてきませんでした。

竹下
取材を進めるにしたがって、父親から家庭内で暴力を受けたという方が数多くいらっしゃることを知りました。同時に、そうした経験を持たない方も多いと気づき、そのギャップ自体が私にとって意外でした

 大阪で出会った藤岡さん、2年間の取材

本作の中心人物は、大阪でカフェを営む藤岡美千代さん。父親は元日本兵で、家庭内暴力や自死という壮絶な過去を背負う。竹下記者が藤岡さんと出会ったのは2年前だという。

竹下
大阪で開かれた『PTSDの日本兵家族会』の講演会に伺った際、藤岡さんを紹介していただいたのがきっかけです。ご本人も、自分が語ることで同じ経験を持つ誰かが声を上げるきっかけになればと、取材には当初から前向きでした

2年間にわたる取材で、藤岡さんへの印象は大きく変わったという。

竹下
初対面では、屈託がなく笑顔の多い方で、深刻な過去を抱えているとは想像もつきませんでした。しかし取材を重ねるほどに、その笑顔の裏にある深い傷と、それでも気丈に日常を生きる強さを感じるようになりました

「許す」のではなく「理解したい」

作品後半、藤岡さんは父の足跡をたどる旅に出る。かつて憎しみしかなかった父に対し、その心境は少しずつ揺れ動いていく。

竹下
最初は、いずれ父の写真を正面から見られるようになるのではと思っていました。でも取材を重ねるうちに、それは違うと気づきました。おそらく彼女は一生、父と正面から向き合うことはできないだろう、と。それほど戦争が残した傷は深いのだと感じました

一見「許した」ようにも映る藤岡さんだが、本人は明確に否定する。

竹下
ご本人の言葉を借りると、父を許すことは戦争そのものを許すことになってしまう、と繰り返しおっしゃっていました。ただ、父が受けた苦しみを理解したいという気持ちは強く持っている。その複雑な心の揺らぎを、丁寧にすくい取りたいと考えました

家族の物語と、隠された歴史のはざまで

作品は、一つの家族の物語であると同時に、旧日本軍において兵士の心の傷がいかに隠蔽されてきたかという事実にも触れている。そのバランスに戸惑いはなかったか。

竹下
メインはあくまで藤岡さんの心の軌跡です。ただ、心の傷が日本の中でどう扱われてきたかという事実関係も、藤岡さんの物語を邪魔しない範囲で丁寧に伝える必要があると考え、試行錯誤しました

作中には、2018年に家族会を立ち上げた黒井秋夫さんも登場する。黒井さんたちの働きかけが、2024年の政府による実態調査につながったという。

竹下
戦後直後は意図的に軽視されていたというより、長い年月の中で忘れ去られ、『家庭内の問題』として片づけられてきたのだと思います。声を上げる人が現れて、ようやく国も動いた。スポットが当たり始めたのは、本当にここ1、2年の話です

 語れない人、語らない人

取材を通じ、竹下記者は「語りたくても語れない」家族の存在にも直面した。藤岡さんの妹の証言もその一つだ。

竹下
父親の悪いイメージを語らないでほしいと、きょうだいから止められるケースは少なくないようです。私が取材した方の中にも、自分の子どもや孫から『おじいちゃんの悪口は言わないで』と止められた例がありました。関西では2年経っても、顔と名前を出して語れるのは藤岡さんただ一人です

それでも藤岡さんが語り続ける理由を、竹下記者はこう分析する。

竹下
一つは、自分に続いて声を上げる人が出てほしいという願い。もう一つは、自分が語ることをやめてしまえば、受けた暴力がなかったことにされてしまうのではないか、という恐れです。放送されなかった部分も含め、本当に多くのことを話してくださいました。それでも『言いたくないことは言わない。話したことは全部報道してほしい』という姿勢を貫かれていて、その強さに感謝しかありません

最後に、このテーマの広がりについて聞いた。

竹下
これは子ども世代で終わる話ではなく、孫の世代にも続いていく問題だと思います。今後も、声を上げてくださる方がいれば取材を続けたい

そして竹下記者は、これが過去の出来事ではないことを強調する。

竹下
ウクライナやガザなど、今まさに戦闘が続く場所でも、同じような傷を負う兵士や家族が必ず存在するはずです。これは決して『昔の話』ではなく、今この瞬間にも起きている問題だと思います

取材・文:ごとうまき